目指せ!時事問題マスター

1からわかる!年金制度(2)年金額は将来 減っていくの?

2022年11月17日
(聞き手:梶原龍 本間遥 荻原功英)

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少子高齢化で将来もらえる年金が減ると聞いたことがあるけど…本当にそうなる?

 

働き方や世帯構成の変化などにともなって、年金制度を見直す国の議論も始まっています。変わるとしたらどうなるの?今後の見通しについて、1からわかりやすく解説します。

今後、もらえる年金は減っていくの?

学生
本間

少子高齢化で自分たちは年金をもらえなくなるんじゃないかという話も聞いたことがあって、私たち若い世代は不安です…。

実際のところどうなんですか?

気になりますよね。

竹田
解説委員

実際、人口減少によって、今後もらえる年金は実質的に減っていくことが避けられません。

竹田忠解説委員

竹田忠解説委員は経済、雇用、社会保障が専門。経済部記者時代には通産省(当時)や大手総合商社、IT業界などを担当。世界10か国以上の雇用現場を取材した経験も。2012年から始まった医療・介護・年金・子育ての充実を目指す「社会保障と税の一体改革」を担当。

学生
梶原

やっぱり…減ってしまうんですね。

理由は大きく2つあります。

まず1つは日本の年金制度は、賦課(ふか)方式という仕組みになっています。

学生
荻原

どんな方式ですか?

賦課方式というのは、今の若い人が払っている保険料がそのまま今の高齢者の年金に使われるという仕組みです。

若い人が支えているんですね。

はい。今の若い人が年をとったら、その人たちの年金はまたその時点での若い人が払っていく形です。

世代間の仕送り方式などと言われます。

ちなみに公的な年金制度を持っている国は、ほとんどがこの方式です。

でも、いまだに多くの人が、年金は貯金のように自分で積み立てたお金を、将来、高齢者になった自分が受け取る制度だと思っています。

僕も最初はそうかと思ってました。

ただ、それも間違いとは言えません。

というのも、最初は積み立て方式で始まったんです。

それが戦後の激しいインフレなどでうまくいかずに、途中から今の賦課方式に変わりました。

なので、今でも積立金が残ってるんです。

積立金があるんですか?

どれくらい?

年々、運用しながら増やしていて、2021年度で約204兆6千億円です。

204兆円! 結構ありますね。

国家予算の倍近い額です。

それなら、あまり心配はいらない?

そう簡単ではありません。

年金って、全体で毎年どれだけ支払われているか、知っていますか?

2020年度で、約53兆円です。

そんなに!?

積立金も、たくさんあるように見えて、実は年金の4年分弱しかないということになります。

現役世代が負担増に耐えられず…

年金の水準が下がるもう1つの理由は、少子高齢化です。

保険料を払う若い人は少子化で減っていき、年金をもらう高齢者は増えてきました。

この図で言えば、高齢化によって右側の年金額がどんどん増えていきました。

そのお金を集めるため、左側の保険料を上げていくということが続きました。

しかしこれでは保険料がどんどん上がって、現役世代が負担増に耐えられないという批判が高まりました。

そこで、政府は2004年に年金制度の大改正をしたんです。

大改正?

保険料に上限を決めて(給料の18.3%を労使折半)、それ以上は増やさないことにしたんです。

そして年金はあくまでその範囲内で出すことになりました。

それまでは支出(年金)を先に決めて、それに応じて収入(保険料)を増やしていました。

改正後は全く逆で、収入(保険料)を基準にしてそれに合わせて年金をやりくりすることになったんです。

逆になったんですね。

そうです。日本の年金制度は2004年を境に、全く別物になったと言えます。

これからは、働く人が減っていくんですよね?

そう、保険料が減っていくので、それに応じて年金を目減りさせていくことになります。

これを長期間かけて徐々にやっていこうというのがマクロ経済スライドと言われる仕組みです。

年金の水準が将来どうなるのかという説明やニュースなどで必ず出てくるキーワードですよ。

どのくらい減る見込みですか?

政府が2019年に行った推計では、30年後には2割程度、水準が下がるだろうと見られています。

2割ですか…。

少しでも減らないようにするには?

年金が減らないように、何かできることはないんですか!?

どうしたらいいと思います?

うーん…保険料を、もう少し上げる…?

以前はそうしていたのですが、もう限界だということで、保険料はこれ以上上げない仕組みになっています。

じゃあ、働く人を増やす?

それも1つの答えです。

働く人が増えれば、保険料を払う人が増えます。

いまは、70歳就業法で、高齢になっても働きやすくなりました。

70歳就業法

2021年4月に施行。希望する社員が70歳まで働けるようにすることが、全ての企業の努力義務となった。

さらに、一億総活躍社会を目指して、子育て中の女性など誰にとっても働きやすい環境を作ろうと対策がとられています。

実は、日本の人口は減っているのに、働く人の数は増えているんですよ。

そうなんですか。

とはいっても、そろそろ頭打ちです。

じゃあ、どうすればいいのか。

答えは、生産性を上げて賃金を高くする、です。

うーん?

そもそも厚生年金の保険料は定率制(支払う金額ではなく支払う割合が決まっている)で、給料の18.3%を会社と本人が折半して支払う仕組みですよね。

※年金制度の仕組みについては「1からわかる年金制度(1)いくら払う?いくらもらえる?」をご覧ください

なので、賃金が高くなれば、保険料も上がり、年金の原資が増えるんです。

そうか。

ところが、なかなか賃金が上がらない。

信じられないことに、日本はこの30年間、賃金がほとんど上がってないんです。

びっくりです…。

ここを解決しないといけません。

※解説記事はこちら

「安いニッポン!なぜ賃金は上がらないのか?」(「時論公論」2021年11月23日より)

なかなか難しそうです‥。

どうしたらいいんですか?

注目なのは、岸田総理大臣が最近、生産性を上げ賃金を高くする方策として突然、アメリカで表明した、ジョブ型雇用の給与体系の導入です。

ジョブ型?

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用

欧米では仕事の内容(職務=ジョブ)やポストをあらかじめ契約で決めておく働き方が普通で、給料はあくまでその仕事によって決まる。一方日本では、会社の一員(メンバーシップ)であることだけが決まっていて、仕事の内容は会社の都合(転勤や異動など)で頻繁に変更される。給料はその人の年齢や勤続年数、将来期待などのヒト基準で決まる。前者をジョブ型雇用、後者をメンバーシップ型雇用と呼ぶ。岸田首相は9月22日アメリカで「ジョブ型の職務給を取り入れた雇用システムへ移行させる」と語った。

日本のメンバーシップ型が求めるのは、あくまでその組織の中でうまくやれる人です。

転職の壁は厚いし、長く勤めないと賃金も上がりません。

一方、ジョブ型は一言で言えば、仕事のプロ、スペシャリストが評価されます。

それだけ転職も容易だし、安い給料しか出せない会社からは人材が流出してしまいますが。

働き方が変わっていくかもしれませんね。

年金制度どう変わっていく?

年金制度って、ずっとこのままなんですか?

制度を手直しする必要があるかどうか、5年に1度点検することになっています。

次は2024年で、すでに議論は始まっています。

点検って、何をするんですか?

年金には、大事な約束事があります。

それは所得代替率50%を確保するということです。

所得代替率…?

夫婦2人のモデル世帯が年金をもらいはじめる時の金額が、その時点の現役サラリーマン1人の平均的な賃金の何%にあたるかを示すものです。

政府はその所得代替率で50%を確保することを、法律で明記しています。

なので、50%を今後も維持できるかどうか、人口や経済状況の変化など、様々なデータを使って点検するわけです。

そのモデル世帯ってどんなものですか?

するどい!

夫は平均的な給料で40年間つとめた元会社員。

妻は同い年でずっと専業主婦という夫婦です。

その設定、ちょっと古いのでは…。

そうですね。

これはいわば「昭和モデル」です。

実際、1985(昭和60)年の時点では、専業主婦の世帯は共働き世帯の1.3倍ありました。

それが今は完全に逆転して、共働き世帯は専業主婦の倍以上になっています。

そもそも日本で今一番多いのは単独世帯、つまり1人暮らしで、全体の38%にのぼります。

えー!?

背景にあるのは、結婚が減っているということです。

婚姻件数は2021年に戦後最小になりました。

生涯未婚率といって、50歳時点で一度も結婚していない人が、2020年時点で男性は28.3%、女性は17.8%にのぼります。

そんなに!?

※解説記事はこちら
「家族の姿“もはや昭和ではない”~世帯から個人単位に」(「みみより!くらし解説」2022年7月13日)

 

しかも最近は、新型コロナの影響で、予想以上に少子化が進んでいます。

妊娠や出産も、減少してしまいました。

なので、今回行われる点検では、年金の所得代替率が今後50%を割り込むことが見込まれるのではないか?という指摘が多くの専門家から出されています。

うわー。切るとどうなるんですか?

約束に違反することになりますから、50%が守られるように、制度を見直さないといけません。

なので今回は厚生労働省が早めに改正の青写真をチラチラ出し始めています。

税金の投入量を増やすとか、マクロ経済スライドのかけ方を変えるとか、国民年金の保険料を納める期間をもっと長くするとか、様々な案がすでに報じられていています。

※解説記事はこちら
「国民年金 保険料65歳まで 議論開始へ」(おはよう日本「ここに注目!」2022年10月27日)

年金制度がどうあるべきかは、年金の話だけでは決まりません。

社会の姿や価値観の変化によって大きく変わってきます。

皆さんの将来にかかわる話ですから、ぜひ関心をもってニュースを見てくださいね。

撮影:加藤隼也 編集:岡野宏美

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