2022年01月21日
(聞き手:白賀エチエンヌ 堤啓太)
驚異的な早さで感染拡大している「オミクロン株」。この先、一体どうなるの?気になるギモンについて学生リポーターが医療が専門の中村幸司解説委員に1から聞いてきました。(2022年1月)
年明け以降、オミクロン株の影響で新型コロナウイルスの感染者が急増しています。
「オミクロン株は重症化しにくい」とも聞きますが、どんな症状が出るんですか?
「発熱・のどの痛み・せき・鼻水など、かぜに近い症状が多い」一方で、これまでの新型コロナでみられたような「味やにおいがわからないという症状は少ないようだ」とする報告があります。
東京都によると、1月7日までに感染確認された115人のうち約20%は、感染が確認された時点では無症状。約80%は、発熱やせき、のどの痛みなどの症状があったものの、いずれも軽症。中等症・重症はいなかった。
すると、ふつうのかぜなのか、オミクロン株に感染しているのか自分では判断しにくいですね…。
「オミクロン株の潜伏期間は3日前後」と、これまでの新型コロナウイルスより短いとされています。
体調がおかしいと思いながら会社や学校に行ったら、あっという間に感染が広がってしまうかもしれません。
このため、異変を感じたらすぐ医療機関を受診することの重要性は、オミクロン株ではこれまで以上に大きくなっています。
中村幸司解説委員は医療や科学などが専門。感染症に詳しく、新型コロナウイルスについては、中国で確認されて以降、一貫して取材を続けています。
かぜに近い症状が多いということは、やっぱり重症化しにくいのでしょうか?
そうですね。
「ウイルスが肺まで達せず、のどのあたりで増えやすい」ことを示唆する実験結果も出ています。
WHOも、デルタ株などと比べて「重症化するリスクは低い」という見解を示しています。
「重症化しにくいかもしれない」と聞くと、少し安心してしまいます。
ただ注意しなければいけないのは、仮に重症化率が低くても、感染する人の数が増えると、必然的に重症になる人の数も増えていくこと。
それに今、国内でオミクロン株に感染した人の多くは若い人たちで、そもそも、高齢者に比べて重症化する割合が低いんです。
イギリスなどでは、若い感染者が増えたあとに時間差があって高齢の感染者が増えているので、こうした海外の状況などもさらに見ていく必要があります。
高齢者に感染が広がると、「重症化しにくいから安心」と言っていられなくなってしまうかもしれません。
感染の急激な広がり方をみると、従来の変異株より感染力が上がっているのがわかる気がします。
WHO=世界保健機関はオミクロン株の感染力について「感染力が上がっている」と明記。
アメリカのCDC=疾病対策センターは、オミクロン株の感染力は最大でデルタ株の3倍とするデータがあるとしている。
感染者数の増加スピードもこれまでにない速さなんです。
新型コロナの新規感染者の1週間の平均を前の週と比べると、第5波までは、8月の2.26倍が最大でした。
これが、オミクロン株が広がった1月9日時点には10.02倍になっています。
急激に感染者が増えているんですね。
世界中でデルタ株からオミクロン株への置き換わりが進んでいることも、感染力の強さの証拠ですね。
なぜこんなに感染力が強いんですか?
新型コロナウイルスって、丸いボールにトゲトゲが出ているような形をしています。
変異によって、トゲトゲが変化して、ヒトの細胞にくっつきやすくなったり、細胞に入り込みやすくなったりして、感染力が高まったとみられます。
変異ウイルスの詳しい解説についてはこちらをご覧ください。「1からわかる!新型コロナ(2)変異ウイルスどう防ぐ?デルタ株にワクチンは効くの?」
さらに、オミクロン株の場合は、このトゲトゲの変異が約30か所と、これまでの変異ウイルスと比べて圧倒的に多いんです。
感染力に関わる変異が複数あるため、より感染しやすくなっていると考えられています。
子どもたちにも感染するんですか?
「アメリカでは、子どもの感染者も急増していて過去最多」になっています。
特にワクチン接種の対象年齢に達していない4歳以下の子どもの入院率が上がっています。
そもそも従来の新型コロナウイルスが子どもに感染しにくかった理由も詳しくはわかっていません。
オミクロン株が子どもにどれくらい感染しやすいのかも、まだわからない段階です。
国内でも子どもの感染は、10歳未満だけでも1万人を超え、増える傾向になっています。
これまでの新型コロナは、子どもの感染は少なく重症になるケースはまれでした。
オミクロン株の子どもへの感染のしやすさや症状の現れ方は異なるかもしれないので、今後注意が必要です。
通勤・通学時の電車の車内や、飲食をする際の対策、卒業式や入社式などのイベントを対面でできるのかなど、いろいろなことが気になっています。
現時点(2022年1月)で「友達と食事に行ってもいいか、映画館なら大丈夫か」と聞かれたら、こういった答えになると思います。
「感染防止対策がきちんととられているかどうかや、特に食事は人数が多くなっていないかなどをよく考えて判断すること」。
もちろん「そのときの感染状況によって、判断は厳しくなることもある」ということが前提になります。
デルタ株の感染が拡大したときには、屋外でバーベキューをしていて感染した事例が出て「3密だけでなく1密にも注意、ゼロ密を目指そう」と言われるようになりました。
これまでの感染対策を徹底して、それでも感染者が増えるようだったら、さらに対策を厳しくしていく、そういうことになるのかと思います。
オミクロン株の感染は、これまでの変異株と同じですか?
基本、一緒ですね。感染経路はこれまでと同様、接触による感染や、飛まつ感染です。
小さな飛まつ「マイクロ飛まつ」による感染もあって、対策が難しいだけに注意が必要だという点も同じです。
だから、飲食の際に食べる時以外はマスクをする、いわゆる「マスク会食」をしなかったり、大勢が密閉した空間に集まったりすると感染のリスクが高まることも、基本的には変わりません。
ただ、デルタ株よりも「感染力が強いオミクロン株に感染しないためには、従来よりも、対策をより徹底」しなければなりません。
なるほど。
ちょっとメカニズムの話をしますね。
オミクロン株は、変異によって「のどのあたりの細胞にくっつきやすくなったようだ」といわれています。
のどの周辺の細胞に感染して、そこでウイルスが増えると、口に近いのでウイルスが「わーっ」と口から出ていきやすい。
オミクロン株は、のどの周辺(上気道)の細胞にくっつきやすいと考えられている。一方、肺の細胞にはくっつきにくいという実験データがある。このため肺炎になりにくく重症になる人が少ないのではないかとも考えられている。
このために、感染が広がりやすくなったという見方があるんです。
大声を出したり、マスクをしないで会話をしたりすると感染しやすくなっています。
これまでは時々、鼻マスクだったり、昼はマスクを外してランチをしていたり、なんて経験があるかもしれません。
こういう1つ1つの行動を見直す必要があるということなんです。
例えば、自分の感染対策を採点してみて「100点満点」と答えることのできる人は、なかなかいないんじゃないかと思います。
これまでの対策が60点、70点くらいの人は100点に近づけるよう取り組まないと感染の拡大は防げないんです。
オミクロン株にどう備えたらいいのでしょうか?
オミクロン株対策のポイントは2つあると思っています。
1つは医療崩壊を起こさない、もう1つは重症者を増やさない。
医療崩壊を防ぐには、医療従事者に感染させないこと。
重症者を増やさないためには、リスクの高い人、つまり高齢者や基礎疾患のある人に感染させないことが大切です。
あと、医療従事者やリスクの高い人だけでなく、警察や消防、インフラ事業者、食料品の供給に関わる人など、社会や暮らしを支える“エッセンシャルワーカー”が、感染者や濃厚接触者になって働けなくなるのを防ぐこと。
これらを念頭において、ワクチンの追加接種を優先的に進めるなどの対策をとることが重要です。
中村解説委員が解説する「時論公論 オミクロン株 ここまでわかった特徴と第6波対策」はこちらからご覧ください
ワクチンのことも聞きたいです。
2回接種していても、感染する人が相次いでいるようですが、オミクロン株には効果がないんでしょうか。
効かないわけではないんだけど「発症を防ぐ効果は従来の新型コロナウイルスと比べて低くなっている」ようです。
イギリスで行われた調査では、ファイザーのワクチンの2回目の接種を終えた直後のオミクロン株の発症を防ぐ効果は65%でした。
これが、「2回目の接種から25週を過ぎると10%程度にまで低下する」という結果が出ています。
ワクチン接種から時間が経つと、発症を防ぐ効果が低くなってしまうんですね。
ただ、追加接種、つまり「3回目接種をすると、接種から2~4週間後には発症を防ぐ効果が65~75%に上がった」という結果が出ています。
それと、ワクチンの効果は発症予防だけではありません。
重症化を防ぐ効果を見てみると、追加接種をしなくても、発症予防効果ほど大きく下がらないという結果が出ています。
そうなんですか?
ファイザーを接種した人で分析すると、2回目の接種から25週(約半年)以上経過しても、入院に至るのを防ぐ効果は52%ありました。
重症化を防ぐ効果は保たれるんですね。
もちろん、追加接種をすれば、重症化を防ぐ効果も上がります。
ワクチンを打てるのにまだ1回目、2回目の接種をしていない人は、こうした効果も知ったうえで、もう一度考えてみてもいいのではないかと思います。
ワクチンについて詳しく解説した「1からわかる!新型コロナ(4)ワクチン 3回目接種 オミクロン株への効果は? 」はこちらからご覧ください。
あと、オミクロン株に対する治療薬ってどうなっているんですか?
国内では新型コロナ治療薬として7つの薬が承認されています。(2022年1月21日時点)
最初の4つは、ほかの感染症や病気の治療を想定して作られたもの。
新型コロナ用に作られたのは⑤~⑦です。
このうち⑤は「中和抗体薬」という、点滴で投与する薬で「抗体カクテル療法」という呼ばれ方もしています。
聞いたことがあります。
でもこれは、オミクロン株に対しては効果が下がる結果が出ています。
このため厚生労働省はオミクロン株の感染者への投与は推奨しないとしています。
どうしてですか?
ウイルスのトゲトゲにくっついて、細胞に入り込まないようにする2種類の「抗体」を投与する薬なんだけど。
さっき説明したように、オミクロン株は、トゲトゲにたくさんの変異があったため、2種類の抗体がいずれも効きにくくなったとみられています。
トゲトゲにくっつかなくなってしまったんですね…。
一方、⑥は⑤と同じ「中和抗体薬」ですが、オミクロン株にも効果があると考えられています。
オミクロン株のトゲトゲのうち変異していない部分にくっつく抗体を使っているためと考えられます。
2021年12月に承認された⑦の飲み薬も、オミクロン株にも一定の効果があるとされています。
⑤⑥⑦いずれも軽症あるいは中等症の患者に投与されます。発症からなるべく早く投与することが必要とされ、スピードも大切です。
オミクロン株の治療に効果があるような使い方ができるかが課題とも指摘されています。
そもそもなんですけど、なぜ、日本にオミクロン株が入ってくることを防げなかったんですか?
早めに外国人の入国を原則停止するなど、これまでより厳しい対策をしていた印象もありましたが…。
水際の対策で完全に防げるとは考えられていないんです。
江戸時代の鎖国のように海外からの入国を完全に制限しない限り、国外から感染症が入ってくるリスクを0にすることはできません。
オミクロン株をいつまでも締め出せると思っていた専門家はいませんでした。
それは少し、意外です。
水際対策の目的は、オミクロン株が入ってくるのをできるかぎり遅らせる、あくまでも時間稼ぎなんです。
その間に、医療提供体制を整えましょう、自治体も準備をしましょうというのが本当の目的です。
そうだったんですね。
ただ、ここまでの急拡大は専門家も想定外だったと思います。
一定期間の待機や検査をしていても、海外からの帰国者やその家族、濃厚接触者の感染が相次いで確認されました。
また、沖縄県や山口県岩国市などのアメリカ軍施設がある地域でも感染が拡大し、市中感染が各地でみられるようになりました。
潜伏期間が3日前後と短いので、気がついた時には、もう感染が広がっていた、ということもあるかもしれません。
ところで、オミクロン株の「オミクロン」って、ギリシャ文字からきているのはどうしてなんですか?
以前は、最初にウイルスが確認された地域や国の名前で呼ぶようなこともありましたが。
最初に確認されただけでその変異株が本当にどこで出現したものなのかはわからないですし、その地域が悪いような印象にもなりかねないですよね。
専門家の間では、たとえばアルファ株は「B.1.1.7系統」といった呼ばれ方もしていますが、一般にはわかりにくいですよね。
確かに、なかなか覚えられないかもしれません。
そうしたことからギリシャ文字を使って「アルファ株」、「ベータ株」…と呼ばれるようになったんです。
ただ、ギリシャ文字はあまりなじみがないので、僕は机に、こんなギリシャ文字の一覧を貼るようになりました。
今後、新たな変異ウイルスが確認されたら「オミクロン」以降のギリシャ文字がつくんでしょうか。
そうなりますね。
この先、オミクロン株以上に感染力の強い変異ウイルスが出てくるのかどうか、わかりません。専門家の間でも意見はいろいろです。
そうなんですか?
去年デルタ株が確認されたとき、ある専門家は「もっと感染力が強いウイルスが出てくることを覚悟した方がいい」と話していました。
コロナウイルスの仲間には、“風邪コロナ”とも言われている従来から私たちが感染しているウイルスが4種類あります。
これらのウイルスの感染力が強いので、デルタ株以上に感染力を持つ能力が新型コロナにもあるのではないかという考えからです。
コロナウイルスって何なの?、詳しくは、1からわかる!新型コロナ(1)ウイルスの正体は?変異ウイルスって何?をご覧ください。
一方、オミクロン株は“風邪コロナ”の感染力を上回っている可能性もあります。
だから「もう、ここまでくると感染力もいっぱいいっぱいかな」っていう考えもあるんですね。
「ここで打ち止めになってほしい」と、願わずにはいられないのですが…
そうですね。でも、感染力に決められた上限があるわけではないという考え方もあります。
より体のなかで増えやすいように変異したウイルスが出てきて、もっと感染力が強い変異株の出現があるかもしれません。
新型コロナウイルスについては、わからないことが多いですので、まだまだ気は抜けません。
編集:栗田真由子 撮影:小野口愛梨
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