知られざる美食の国シリア(シェフ直伝レシピつき)
シリア料理、と言われてイメージはわきますか?中東でも名高いシリア料理には太陽の恵みたっぷりの野菜がふんだんに使われます。内戦で多くの人々が故郷を追われ周辺国や欧州に逃れた結果、難民たちがたどり着いた国々ではシリア料理店が急増しています。そして日本にも…。シリア人シェフのナーゼムさんが、知られざるシリア料理の魅力を伝えます。
目次
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シリア料理の魅力を知ってほしい
私はナーゼム、55才。16才の時から料理を始めて、シリアでは高級ホテルのレストランの総料理長も務めた。
日本ではシリアというと戦争や難民のイメージばかりなのが残念でならないよ。シリアには長い歴史が培った豊かな文化があるからね。料理もその1つ。シリア料理の魅力を日本に伝えるのが今の私の夢さ。
朝ごはんの定番「ホムス」
まずは、大人から子どもまでみんなが大好きな、ひよこ豆のペースト「ホムス」。最近では日本でも、ヘルシー指向の女性の間で広まりつつあるらしいね。
シリアでは、休日にあたる金曜日の朝ご飯と言えばこの「ホムス」。料理する1日前に豆を水につけて柔らかくする必要があるけれど、それさえやれば、材料も作り方もいたってシンプルだから、ぜひ作ってみてほしいよ。
(材料)
・ひよこ豆 1キロ
・白ごまのペースト 1キロ
・レモン汁 150CC
・塩 大さじ1
(作り方)
1.1日水につけたひよこ豆を圧力鍋で20分ゆでる
2.ゆでたひよこ豆をいったん冷ます
3.フードプロセッサーで、残りの材料を加えて混ぜる
ペーストが固い場合は水を足して好みの濃さにするのがコツだ。ね、簡単だろう?これを「ホブズ」っていう円く薄いパンにつけて食べると最高だよ。
伝統のオクラ料理「バーミヤ」
日本でもオクラを食べるんだって?シリアで「オクラ」と言えばこれ。肉と一緒に炒めて、トマトピューレで味を整えた、シリアに古くから伝わる人気料理だ。
シリアでは羊のひき肉も使うけれど、今回は牛ひき肉で作ってみるよ。隠し味はマメ科の果物「タマリンド」のペーストを水で溶かしたもの。タマリンドは、アジア食材店などで売っているよ。カレーライスのようにご飯を添えて食べても絶品さ。
(材料)
・オクラ 1キロ
・牛肉か羊肉(挽肉でもよい)1キロ
・タマリンドペースト 200グラム
・トマトピューレ 大さじ2
・バター 100グラム
・サラダ油 少々
・オリーブ油 少々
・塩・こしょう 適量
・パクチー 3束
・にんにく 100グラム
(作り方)
1.オクラをサラダ油で、色が変わらないよう3分ほど軽めに揚げる
2.バターとオリーブオイルで肉を炒める
3.炒めた肉に、先ほど揚げたオクラを入れる
4.塩・こしょう、ミックススパイス(シナモン、カルダモン、クローブ、クミンなどお好みで)で味をつける
5.さらにトマトピューレを加える
6.タマリンドペーストを水で溶いたものを入れる。
7.仕上げに、つぶしたにんにく、パクチーを入れて、3分ほど混ぜてできあがり
ソウルフードの「クッベ」
シリア人が恋しいと思うソウルフードの1つが肉団子クッベだ。日本でいうところの「餃子」に近いかな。
外の皮は、挽き割り小麦と羊の挽肉を混ぜてできたもの。皮を作ったら、中に肉、玉ねぎ、アーモンドを炒めた具を包む。皮にも具にも肉が使われていて、ぜいたくだろう?それを揚げたり、焼いたりしてできあがり。割ると中はこんな感じだ。
クッベは親戚や近所などで女性達が集まって1度に500~600個、助け合いながら作るんだ。日本でも昔はみんなで集まって、モチをついたり、おはぎを作ったりしたって聞いたよ。日本人は仕事ばかりで、みんなでご飯を丁寧に作り、ゆっくり味わう時間がなさそうに見えるね。シェフとしては、食事の時間は大切にしてほしいって思うな。
シリア菓子「マアムール」
シリアの菓子は、アラブ諸国の中でも随一だと言われているのさ。その中でも特に知ってほしいのが、この焼き菓子「マアムール」だ。
周りは小麦粉でさくさく。中にナッツなどをシロップで混ぜた具が入っている。餡が入った京菓子に似ていると言われたこともあるよ。シリアでは、みな甘いものが大好きで、お菓子屋に行列を作るのはたいてい男性なんだよ。
日本の若者が支援したシリアレストラン
シリア内戦で自宅も職場も破壊され、すべてを失ってしまったナーゼムさんは2015年に日本に逃れました。そのナーゼムさんを支援しようと日本の若者たちが“シリア難民シェフに厨房を!”というクラウドファンディングを立ち上げ、資金集めに奔走。その結果、9月上旬にシリアレストラン「ナーゼム」が期間限定で東京にオープンし、9日間で、600人以上が来店しました。この記事で紹介した料理の一部はそのレストランで提供され、評判を呼びました。
ナーゼムさんが本格的に料理をしたのは5年ぶりです。日本で仕事につこうとしても面接で聞かれるのは、まず、日本語ができるかどうか。なかなか働く場が見つけられなかったといいます。言葉の壁で、シェフとして30年の経歴をアピールすることもできませんでした。
――仕事を失うことは、自分がなくなってしまうようなことだと思ったよ。数年ぶりにお客さんを迎える機会をくれたみなさんには心から感謝している。自分の作った料理でみんなが笑顔になる時がシェフとして至福の時さ。シリア料理になじみのない日本のみなさんが何度もおかわりしてくれて、日本で頑張る自信がついたよ。いま次のレストラン計画に向けて奔走中だ。みんなにレストランで会える日を私自身も心待ちにしているよ。――
客をもてなすことが大好きなシリアの人たち。ナーゼムさんが久々にキッチンで見せた笑顔、そして自慢の腕をふるった料理に、シリア人としての誇りを感じました。
ナーゼムさんが料理をする姿を見ていて、シリア内戦が始まった翌年、食糧事情が悪化する中で3人の子どもを育てる母親が語った言葉を思い出します。
「私の今できること、それは安い食材でおいしく満足させるお料理を毎日家族に提供することだと思っています」
シリアの人々が、自慢のおいしい料理を、大切な人たちと心から笑いながら楽しめる日が再び来ることを祈っています。(報道局ディレクター 飯野真理子)