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インフルエンサーに“うその広告”依頼し不正出金 相談相次ぐ

2023年10月27日

ネット上で発信力のあるインフルエンサー。

そのインフルエンサーのSNSにうそのキャンペーン広告を掲載させ、それを見た人から金をだまし取ろうとする新たな手口の被害の相談が相次いでいます。

いったいどんな手口なのか、詳しくまとめました。

(デジタルでだまされない取材班)

狙われるインフルエンサーたち

「本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」

何者かに報酬と引き換えにうその広告を掲載するよう持ちかけられたインフルエンサーの男性に話を聞くことができました。

20代のインフルエンサーの男性によりますと、ことし8月、マーケティング会社をかたる人物から、SNSに会社の宣伝を投稿してほしいとインスタグラムのダイレクトメッセージで連絡があったということです。

依頼は、会社が運営しているアンケートのサービスのPRで、アンケートに回答するだけで現金やギフトカードと交換できるポイントがもらえるとしていました。

そして、1回の投稿あたり10数万円などの報酬を示され、会社の公式LINEのリンクだとするURLを貼り付けて投稿することを依頼され、男性は自身のインスタグラムで同じ日に3回、#PRなどと表示して投稿を行ったということです。

ところがまもなく男性のアカウントのフォロワーから「勝手に消費者金融からお金を引かれました」というメッセージが寄せられたということです。

男性はすぐに投稿を削除して会社に問い合わせたところ、対応を行ったという回答があったということですが、その後、会社側と連絡がとれなくなったということです。

その後も、10人ほどのフォロワーから被害を訴える声が寄せられ、男性は警察に相談したということです。

男性は、知人も同様の投稿をしていたことや、同じ名前の会社のウェブサイトが存在したため、疑わなかったとしています。

投稿と見返りに示されていた報酬は受け取っていないということです。

インフルエンサーの男性
「自分が依頼を受けた案件はLINEのアカウントへの登録の紹介まででした。その先に詐欺などがあったようですが、そこの内容については全く知らされず、分かっていませんでした。今後はSNSのダイレクトメッセージで届くこのような案件はもう一切やりません。仕事の依頼を受ける場合はちゃんとした企業か確認し、他の人にも相談することが大事だと思っています」

どんな手口なのか?

ことし10月に、京都府警が摘発した事件もあります。捜査関係者によるその事件の手口の詳細です。

1.フォロワー14万人の読者モデルにうその広告依頼

容疑者ははじめに、SNSのインスタグラムで14万人を超えるフォロワーがいる読者モデルの女性インフルエンサーに、IT企業をかたってダイレクトメッセージを送り「公式LINEのURLを貼り付けた投稿をしてほしい。報酬は1投稿あたり十数万円支払う」などと、うその広告の掲載を依頼したといいます。

依頼に応じたインフルエンサーは、投稿内容を具体的に指示され、インスタグラムで、「5万円がもらえるキャンペーンがある。まずは公式LINEを登録して」などと、うそのキャンペーンだとは知らずに発信してしまいます。

2.容疑者管理の「公式LINE」に誘導・申し込みへ

この「公式LINE」は容疑者が管理しており、投稿を見たインフルエンサーのフォロワーの女性がLINEを登録すると、容疑者とのやりとりが始まります。

そして、容疑者から「キャンペーンに応募するために必要だ。実際に借り入れはしない」などとして、実在する消費者金融に借り入れを申し込むためのURLが送られてきます。

3.アカウントのパスワード・認証コード等を聞き出す

消費者金融にアカウントを登録する際、IDやパスワードは本来、自分で決めて他人には教えませんが、女性は、容疑者から誘導されて、指定された文字列でIDやパスワードを登録したうえ、第三者のスマートフォンを使って金を引き出す際に必要な認証コードも容疑者に伝えてしまいました。

容疑者は、こうした情報を使って勝手に金を借りて引き出した疑いがあり、女性は、消費者金融からの融資が完了したという身に覚えのない通知を受け取って、被害にあったことに気付きました。

女性が「キャンペーン」の5万円を受け取ることはなく、インフルエンサーにも報酬が支払われることはありませんでした。

「好きな人が言っているから信じる」という心理

悪質商法や詐欺などによる消費者被害に詳しい増田朋記弁護士は、フォロワーとの関係性が築かれたインフルエンサーが、消費者をだますツールとして悪用されるケースが出ていると指摘しています。

増田弁護士によりますと「有名人や好きな人が言っているから信じる」という心理状況の人は、被害に遭いやすいといいます。

何者かに勝手に借り入れをされた場合、金の返済義務については、落ち度がまったくなければ免れる可能性があるものの、今回のようにIDとパスワードを他人に教えるといった大きな過失があれば免れることは難しいということです。

増田弁護士

増田弁護士は「スキルも経験もないのに簡単にお金をもうけられることはなく、言われたままにやってお金が入ってくることも絶対にない」として、もうけ話に安易に乗らないよう注意を呼びかけています。

一方、広告を拡散したインフルエンサーの責任については、故意がなければ刑事罰は負わないとみられるものの、少し注意をすれば不審な点に気づけるようなものであれば過失を問われ、民事上の賠償責任を負う可能性もあるということです。

増田弁護士は「広告には責任が伴うことを考えるべきだが、自分が大きな影響力を持っているということに気づいていないケースもあると思う。インフルエンサーの努力だけで被害を防ぐのは難しいので、被害を出さないために投稿の際のルールの強化や周知も必要ではないか」と話しています。

“だまされて借り入れても返済義務は残る”

インフルエンサーの投稿から消費者金融に誘導される手口については、大手消費者金融や業界団体も注意を呼びかけています。

大手消費者金融によりますと、ことし9月、客から「インフルエンサーのインスタグラムを見て指示どおりに消費者金融の契約をしたところ第三者に借り入れされてしまった」という問い合わせが寄せられたということです。

この会社では、スマートフォン上の操作だけで借り入れの審査が完了してアカウントをつくることができ、IDやパスワードがあればコンビニのATMなどから現金を引き出せるということで、このサービスが悪用された形です。

第三者が他人のアカウントで現金を引き出すには、新たにスマートフォンの認証が必要ですが、被害者はその際に必要な情報も第三者にLINEで伝えてしまっていたということです。

日本貸金業協会は、みずから操作して契約していて、IDもパスワードもみずからの意思で教えている場合、一般的には補償の対象とならないとし、だまされて借り入れされた場合でも返済義務は残るという見解を示しています。

消費者金融各社や日本貸金業協会は、何らかの理由をつけて消費者金融に申し込みをさせたあとアカウントを乗っ取る手口が広がっているとして、借り入れの意思がなければ申し込みをしないことや、パスワードや暗証番号を第三者に絶対に教えないことなど注意するよう呼びかけています。

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