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追跡!フェイク SNS広告の闇 ~なぜだまされる投資詐欺~

2024年4月24日

すべては、SNSの広告に軽い気持ちでアクセスするところから始まる。

「SNS型投資詐欺」の被害が拡大している。

去年、およそ278億円。

なぜこれほど広がっているのか?

そして、広告を掲載するプラットフォーマーの責任は?

数十人の被害者、投資詐欺グループの元メンバー、そしてメタをはじめとするプラットフォーマーへの取材から、「SNS型投資詐欺」の闇を追った。

入り口は“なりすまし広告”

実業家や経済アナリストなど、有名人の画像を無断で使ってなりすましたフェイク広告。

「収入の10倍を無料で手に入れましょう」などと投資を持ちかけるものが多く、金融機関や投資会社をかたり、一般の「投資講座」や「投資教室」に見せかけるものも増えている。


インスタグラムで見た「投資講座」の広告から、ラインのグループチャットに参加した30代の女性は。

「子どももいるから将来のことを考えて、少しでも増やせるならって…」

女性の場合、「西垣」と名乗る自称・投資家に海外のFX取引を勧められて興味を持ち、取引専用と説明されたアプリをダウンロードした。


指定された口座に10万円を振り込むと、ドルに換算された金額がアプリの画面上に表示されたと言う。

その後も、西垣の指示に従って取引を続けると…

「毎回当たってたらおかしいと感じたと思うのですけれど、負けるときは負けるんです。出金申請をかけたら自分が投資に回したお金と利益分が口座に返ってきたので、まさかウソとは思わなかった」

ただし、女性は一度、おかしいなと感じたことがあったという。


ネット上で「西垣の詐欺被害にあった」という書き込みを見つけたからだ。


ところが、そのことをグループチャットに書き込むと…


『同業者どうしの誹謗中傷だ』『疑うならやめればいいのでは』という返事が次々と。

「ネットの書き込みが嘘なんだと思いました。たくさんある誹謗中傷の一つなんだなって。完全に洗脳されていたと思います」

その後も女性は、親から借金をして100万円単位の投資を繰り返し、アプリ上では2000万円以上の利益が出ていたが、再度、出金を申請したところ…


『手数料として1000万円以上を支払う必要がある』と伝えられた。


理由を問い詰めた女性は、グループチャットから退出させられ、相手と連絡が取れなくなった。


合計で1900万円を失った女性は、ことばを詰まらせながら当時の心境を語った。


「借りたお金を返さないとと思って…命を絶とうと思いましたし、自分が命を絶てば、保険があるしとか。なんて馬鹿なことをしたんだろうって」

インスタの広告から“偽の読売新聞の記事”に

別の60代の女性の場合、きっかけは「読売新聞」の記事に見せかけたインスタグラムの広告だった。

広告から飛んだウェブサイトに掲載されていた記事は、実業家の孫正義さんと、評論家の寺島実郎さんの架空の対談だった。


海外の投資会社に資金を振り込んで運用すると、AIが短期間でばく大な利益をあげるという。

内容はまったくのデタラメだが…

「見たことがある有名な人の対談で、しかも読売新聞ということもあって、信じ込んでしまいました」

女性は投資会社を名乗るサイトに、夫の名前や住所、電話番号などの個人情報を登録。


すると、投資会社のスタッフを名乗る人物から国際電話で連絡があった。


相手は、日本語が少したどたどしかったが、母親がイギリス人で香港の大学を出たと説明していたという。


何度もやり取りを重ねる中で、丁寧にアプリの使い方などを教えられ、3万円を投資。


その後、別の著名人が同じような内容を話す偽のニュースサイトがほかにも複数あることを見つけ、詐欺だと気づき、警察にも相談したが、支払った金額は戻ってきていない。

連絡を絶って着信拒否をしたあとも、違う番号から次々に不審な国際電話がかかってくると言い、女性は今も、個人情報が悪用されているのではないかと不安にさいなまれている。

「そんなうまい話がある訳がないのに、どうしておかしいって思わなかったのか…本当に怖い」

フェイク音声を分析 巧妙化する手口

だますための手口も進化している。


経済アナリストの森永卓郎さんになりすました人物に数千万円をだまし取られたという80代の男性に送られてきた、“森永さんの声のデータ”。

『最近、たくさんの人が、私を名乗って、投資の名目で、詐欺を行っています。そこで、自分自身を証明する必要があると感じました。私のラインに追加した生徒さんには、このように声で本人確認できます。同じ名前の人を追加した場合、音声メッセージを受け取っていなかったら、その人を信じないでくださいね』

などと語っていた。


男性は、この音声を聞いて、完全に本人と信じ込んでしまったという。


この音声を、日本音響研究所に分析してもらった。

すると、本人の音声には、人間の耳では聞き取りにくい5000ヘルツを超える周波数の波形が存在していたが、フェイク音声は5000ヘルツより高い周波数が存在せず、人為的に作られたフェイク音声であることがわかった。


しかし、本人の口癖を再現し、人の耳に聞こえる周波数帯の声の質はよく似せられていた。打ち込んだ文字を読み上げるソフトが使われたと考えられるという。

日本音響研究所 鈴木創所長
「例えば『えー』とか『あの』とかっていう口癖のところの響きが、ぴったり森永さん本人のものみたいな形。音単体に関しては森永さんを巧みに模倣することができている」

森永さんの息子の康平さんにも、フェイク音声を確認してもらったところ、「声質は本人そのものだと感じます。イントネーションやアクセントが不自然なことでしか真偽の判定は出来ません」と話していた。

追跡!なりすまし広告 実際にアクセスしてみると…

広告から詐欺につながる手口を調べるため、私たちは、実際にフェイスブックに掲載されていた森永卓郎さんをかたる広告にアクセスしてみた。


タップすると、ラインの登録に誘導するウェブサイトが表示された。

下部にあったバナーから「友達登録」をすると、アイコンに森永さんの写真を使った「モリナガタクロウ」というアカウントからメッセージが届いた。

「はじめまして、森永卓郎と申します。知り合い出来て幸いです」

日本語の表現に違和感を覚えつつ、本人だと証明してほしいと伝えたが、こちらの質問は一切無視してアシスタントの「友達登録」を促してきた。


以降、やり取りは、アシスタントの「伊藤美恵」というアカウントに代わる。


このアカウントは、絵文字を頻繁に使いながら「私の仕事はあなたをサポートすることです」、「わからないことがあればいつでもご連絡ください!」などと献身さをアピールしてくる。

そして、強制的に『高品質資産投資分析グループ303』というグループに参加させられた。


このグループチャットでは、森永さんの弟子だとする「川口健治」というアカウントが、50人の参加者に対し、決まった時間に、円やドルの相場や、“優良株”として購入を推奨する株の銘柄、売買するタイミングの指示など、投資に関する書き込みを毎日続けていた。

有名人をかたる広告で興味を持たせ、アシスタントが警戒を解き、自称・投資家が真実味を演出する。なりすます有名人や、投資する金融商品はさまざまだが、こうした一連の流れが「SNS型投資詐欺」の典型的なシナリオだ。


今回、登録した、「モリナガタクロウ」「伊藤美恵」「川口健治」の3つのアカウントに、私たちがNHKであることを明かし「なぜ森永さんになりすますのか?」と問いただした。


すると、なぜか、それまで数分おきに一般の参加者たちがメッセージを書き込んでいたはずのグループチャットの書き込みが、連動するようにぴたっと止まった。そして、まもなく、一方的にグループから退出させられた。


多くの参加者は、いわゆるサクラである可能性が高いと考えられる。


「モリナガタクロウ」と「川口健治」から返信はなかったが「伊藤美恵」からは、2時間半後にメッセージが届いた。

『あなたは私を詐欺師だと思っていますか?』

詐欺グループ語る内情「SNSは効率がいい」

取材を続けると、以前、投資詐欺を行っていたことがあるという男性に接触した。


男性は、これまでの特殊詐欺と比べて、SNS広告を使うメリットを明かした。


オレオレ詐欺などの特殊詐欺では、名簿などをもとに1件1件電話をかける。


しかし「SNS型投資詐欺」は、広告を出すことで多くの人に、一斉にアプローチできるうえ、年齢や性別など、ターゲットを絞って広告を送ることもできる。

接触してくる人は、そもそも広告の内容に興味を持っているため、詐欺グループにとっては騙しやすいのだという。


そして、投資という名目上、送金はネットで完結することも多く、現金やキャッシュカードなどを受け子が直接取りにいくのに比べ、より摘発されにくいと主張した。

「要はネットだとさらに集客が集まる。だからみんなネットになってるんだと思う。『投資で儲かります』とか、そういうワードに大体みんなひっかかってくる。興味がある人が入ってくるわけだから効率が全然違う。だますやつがいれば、だまされるやつがいる。なくならないよ、一生。結局ね、欲持ってるから」

狙われる日本人 タイでSNS詐欺グループが摘発

さらに、海外を拠点とするグループからも日本人が標的にされている実態もみえてきた。

3月末、タイで中国人を中心とした詐欺グループが地元の警察に摘発された。


拠点からはスマートフォンなど400台、パソコン12台が押収された。

スマートフォンからは、日本語でのラインのやりとりも見つかった。


やりとりの文言は、翻訳アプリで中国語から翻訳されたものだった。

押収されたスマホ

アカウントには、実業家の堀江貴文さんの名をかたるものなどもあったという。


また、日本だけでなく、中国やロシアなど、複数の国をターゲットにしていた証拠も見つかっているという。

タイ特別捜査局 特殊詐欺担当 ケマチャート部長
「もはや犯罪グループにとって言語は障害ではありません。そして、国境も、もはや問題ではありません。メンバーは多国籍で、各地で詐欺を働いてきた連中なんです。人々を誘い込むことは簡単なんだと私はみています」

プラットフォームの責任は 高まる憤りの声

被害の拡大を受け、広告を掲載するプラットフォーム側の責任を問う声が高まっている。

自民党の勉強会

4月、広告に自身の名前を勝手に使われたとして実業家の前澤友作さんと堀江貴文さんが、自民党の勉強会で、プラットフォーム運営事業者の規制など、具体的な対応策を講じる必要があると訴えた。

堀江貴文さん
「『削除しろ削除しろ』って1年以上言っているんですよ、ずっと。なめた対応しかしないんで、ずっとなめられてますよ。だまされてる人がいるってことは、広告規制しないとだまされちゃうって事じゃないですか」

前澤友作さん
「(プラットフォーム側からは)『全部は無くせないので勘弁して下さいよ』と。『その点、理解してください』みたいなことをおっしゃるんですけれども、被害に遭われている方もいるので、1点でもそういう広告は出してはだめだと思います」

前澤さんは、対策チームを立ち上げ、毎日フェイスブックとインスタグラムに掲載されているなりすまし広告をチェックし、メタに対して、1つ1つ削除を要請している。

しかし、最近では、広告に「前澤友作」という名前を記載せず、画像だけ使うことで、検索を免れようとする手口が増えてきていて、チェックも難しくなってきているという。


対策チームがことし3月に設置した通報窓口には、前澤さんを含む有名人のなりすまし広告から誘導された詐欺被害に関して、23日間で250件あまりの報告が寄せられた。


その被害額は27億円にのぼっている。

前澤友作さん
「メタが明らかに社会的責任を果たせていないと僕は強く思います。詐欺広告を完全に撲滅すると宣言をしていただいて、広告主が安心して広告を出稿できるプラットフォームにしていくべきですし、一件でも詐欺被害を出しちゃいけないと思います」

詐欺被害者も訴訟の動き

なりすまし広告から誘導された投資詐欺の被害者も、広告を掲載しているメタに対して憤りの声を上げている。


東京や兵庫などに住む男女4人が、今月25日にメタの日本法人を集団提訴することを表明した。


「真実かどうかを調べずに広告を掲載したSNSの運営会社に責任がある」
「広告が掲載されなければ損害を被らなかったことは明白だ」
と訴え、損害賠償など、あわせて2300万円を支払うよう求めている。


弁護団の堀貴晴弁護士は。

「メタは、詐欺広告が横行しているということを認識しながら、対応していない。違法な広告だと認識しながら広告収入を得て、広告を載せるという。それはやはり違法なのではないかと。注意義務違反ではないかと。それで責任追及をしようと考えています」

メタの見解は 副社長を直撃

こうした状況を、当事者のメタはどう受け止めているのか。


メタの副社長で、広告を含むコンテンツポリシーの最高責任者、モニカ・ビッカート氏がNHKの単独インタビューに応じた。

なぜ詐欺広告を排除することができないのか、その理由について問うと。

メタ モニカ・ビッカート 副社長
「私たちにとっても、深刻な事態だと受け止めています。徐々に改善はしていますが、ニセ広告を自動的に識別することは容易ではありません。私たちは、人の力を使って、広告を審査していますが、必ずしも詐欺を見抜けるわけではないのです。それを補うのが(AIなどの)テクノロジーです。しかし、詐欺グループが常に手法や使う言葉などを変えていくために、私たちは彼らに遅れを取らないよう、技術を進化させなければならない事態に直面しています」

少なくとも本人が否定している有名人のなりすまし広告は、簡単に排除できるのではないか?
私たちは質問を重ねたが、ビッカート氏は「対策に取り組んでいる」、「さらに対策を強化していく」と繰り返した。


その一方で、審査を厳しくしすぎると一般の広告にも影響を与えかねないという懸念を示した。

「特定の単語や絵文字などを危険だとして排除し始めると、その網に無実の広告も引っかかる可能性があります。そのことに注意を払い、良い広告を排除しないようにしなければなりません。業界として、オンラインの詐欺を完全に止めることはできませんが、最善を尽くしています」

私たちに与えられた30分の取材時間では、納得がいく回答は得られなかった。


一方、メタは、文書でも私たちの取材に回答した。

この中でメタが挙げた主な対策は。

▼コンテンツを審査するチームに4万人を配置し、日本語を含む80以上の言語に対応している。
▼変化する詐欺広告の手法を分析・学習し、AIの自動検出機能に組み込む取り組みを続けている。
そして、
▼AIでの検知に関して著名人のなりすましに特化したモデルの開発も進めている。

審査をすり抜けるクローキングとは?

メタが、審査が回避される理由に挙げたクローキングとは、どのような技術なのか。


ネットのフェイク情報や不正行為に詳しい瀬戸亮さんによると、クローキングは、AIなどの検知システムのチェックをすり抜ける技術だという。

主に、違法なアダルトサイトなどで使われていて、インターネット検索エンジンの情報収集用のボットに対してまったく別のサイトを表示することで、ガイドライン違反や規約違反を免れる目的で使用されている。


今回の場合は、広告を審査するシステム(AI・ボット)には一般的なサイトと認識させて、人間のユーザーには詐欺サイトを表示させる、という目的で使われているとみられる。

例えば、偽ニュースサイトの被害の場合、SNSで表示された広告から飛んだ、メディアをかたる『偽サイト』にクローキングを使用したうえで、犯罪グループ(広告主)は、広告を申請しているとみられる。


すると、広告を審査するシステム(AI・ボット)には、広告から飛ぶサイトが、正規のサイトに見えているため、審査をすり抜けることが出来てしまうのだという。


一方で、瀬戸さんは、クローキングは、不正な広告を排除できない理由にはならないのではないかと指摘した。

Searchlight 瀬戸亮さん
「クローキングが仕込まれているのは、あくまで広告から飛んだ先のウェブサイトに対してであって、消費者が最初に目にするSNSの広告に仕込まれているわけではないので、入り口となる広告そのものをしっかりと審査することが大事だ。事前の審査でカバーしきれないものについては、利用者からの通報や情報提供に適切に対応して排除していくことが重要だ」

私たちは、メタ社に対して、広告の審査に関して、なりすましや詐欺広告の具体的な削除の数についても質問したが、「公表していない」として、明らかにしていない。

プラットフォーマーの対策は十分か。国の対策は?規制は?

ネット上の偽情報対策などを議論する総務省の検討会で、委員を務める一橋大学大学院の生貝直人教授は、プラットフォーマーの対策は「十分ではない」と指摘する。

総務省の検討会の委員 一橋大学大学院 生貝直人 教授
「そもそも対策の内容がブラックボックスなのが問題なのです。どのくらいの人員で、日本の文化的背景を理解した人が対応しているのかなど詳細が分かりません。メタの場合、対策の意思決定を、日本の顧客から離れたアメリカの本社が担っていて、対応が遅くなっているのも問題です」

総務省の検討会では、広告についてもプラットフォーマーや広告業界などからヒアリングが行われているほか、政府も6月をめどに総合対策をまとめることを表明していて、今後、なんらかの規制の枠組みなども検討されると見られる。


生貝さんは、今後のプラットフォームの規制について、参考にすべき海外の事例を挙げた。

まずは、十分な説明がないまま、ラインのグループチャットに誘導された場合、詐欺を疑ってほしい。


ラインのアイコンは、いくらでも他人の画像を使うことができる。


直接会ったことのない顔が見えない相手のことを、簡単に信用しないことが大事だ。


また、相手からのメッセージに注目すると、日本語の表現が不自然なことに気づくこともある。


今後は、AI技術の進化で、フェイクもより巧妙になっていくことが予想される。 甘いことばで近寄ってくる詐欺に対し、より高いリテラシーを持って自分たちの身を守らなければならない。


犯罪者は、プラットフォーマーや国の対策を待ってはくれない。


(科学文化部記者 植田祐・絹川千晴/社会部記者 倉岡洋平/ネットワーク報道部記者 岡谷宏基/クローズアップ現代 布浦利永子・田中誠也・中川雄一朗/首都圏情報ネタドリ! 田中かな・福留秀幸/国際部アジア総局 鈴木陽平)

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