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アダルトサイトのその裏で~ネット広告不正の実態~

2018年9月4日

インターネットのアダルトサイトを訪れた人を、ほとんど見られることのない無関係のサイトに勝手に飛ばす仕掛けを使って、ネットの広告費を不正に横取りしようという手口が広がっていることが、NHKの取材でわかりました。ターゲットとなった広告は、大手企業や中央省庁、地方自治体のものなど、少なくとも200に上り、広告代理店やネット広告の配信事業者が調査を進めています。(ネットワーク報道部記者 田辺幹夫 科学文化部記者 斉藤直哉)

1000のアダルトサイトで

不正な仕掛けが見つかったのは、アダルトサイトやアニメの海賊版サイトなどおよそ1000のサイトです。

こうしたサイトでは、アクセスした人が動画などを見ようとしてクリックすると、再生ページに移動しますが、その裏で新しいタブが開き、ネットの話題やニュースなどをまとめた、「まとめサイト」が自動的に読み込まれます。

まとめサイトには、複数の広告が配信されていて、たとえ見られていなくても「見た」とカウントされ、まとめサイトの運営者側に、広告料が入る仕組みになっていました。

ネット広告の調査会社、「モメンタム」によりますと、こうした手法は「アドフラウド」と呼ばれ、アクセスの多いアダルトサイトを踏み台にして広告費を不正に横取りする行為だと指摘しています。

不正に使われたまとめサイトには通常、アダルトサイトには掲載されない、大手企業などの広告が配信されていて、NHKが確認したところ、トヨタやセコムなどのほか、法務省や総務省、それに東京都など200を超えていました。

配信事業者は

不正なサイトへの広告の配信は複数の配信事業者が行っていました。このうちIT大手の「ヤフー」はNHKの指摘に対し、実際にアダルトサイトから不正なまとめサイトへ飛ばされる様子を記録した動画を確認したうえで、事実関係を認めました。

ヤフーでネット広告を担当する宮澤弦常務は「本当に大変申し訳なく、できるのであれば私自身が広告主、一社一社に出向いて謝りたい」と話しました。

一方で、対策の難しさについては、「不正のチェックをいくら厳しくしても、その裏をかくようなやり方が次々に出て、まさに『いたちごっこ』の状態になっているのが実情だ。不正をゼロにすることを目指しているが、自社だけの努力だけでは難しい部分もあり、ネット広告業界の全体で考えていかなければならない問題だ」という考えを示しました。

ヤフーでは現在、見つかった不正なサイトへの広告の配信を止めるとともに、実態の調査を進めているということです。また調査結果が確定次第、広告主にも連絡をとって、必要に応じて返金などの対応も行うとしています。

自治体も被害か

今回、不正なまとめサイトに配信されていた200を超える広告の中には地方自治体のものもありました。

このうち東京都下水道局は小学生などを対象にした下水道施設の見学や学校への出前授業をPRする広告が配信されていました。下水道局では、大手広告代理店の「電通」とことし4月から事業の企画運営も含めて年間およそ7000万円の契約を結んでいました。

東京都下水道局広報サービス課の坂井良充課長は「不適切に広告が配信されているのであれば許せない。税金や下水道の使用料をいただいて運営しているので信頼を損ねることはあってはならない。すべての配信先を、われわれで把握するのは難しく、広告代理店には徹底して調査し配信の停止などの措置を取ってもらいたい」と話しています。

広告代理店は

東京都下水道局がネット広告の契約をしていた、大手広告代理店「電通」でネット広告配信部門のトップを務める、「電通デジタル」の山口修治代表取締役は「ご指摘を受けたネット広告は、『運用型』と言って、一つ一つの広告がどんな瞬間にどこに配信されるのか、制御できない仕組みになっている。日々生まれていると考えられる不正なサイトを即座に検知して排除していくことはできない」と説明しました。

また、今回、不正が見つかったことについては、「個別の案件についてはお答えできません」としたうえで、「われわれとして至らない部分があったということであれば、そこは謙虚に受け止めて、それをリカバリーする。実際に行動していかないといけない」と話しました。

背景にネット広告の仕組み

こうした不正な手口が広がる背景には、ネット広告配信の複雑な仕組みが関係していると指摘されています。現在、ネット広告で主流となっている「運用型」と呼ばれる広告は、テレビや雑誌などの広告と違って、広告主が広告の最終的な掲載先を選ぶことができません。広告主が発注した広告は、広告代理店を経てネット広告の配信事業者が実際の配信を行います。

広告の配信は、「アドネットワーク」というシステムを使って行われ、膨大な数のウェブサイトの中から広告を見てもらいたいターゲットに合った配信先のサイトが自動的に瞬時に選び出され、最終的な掲載サイトが決まる仕組みになっています。

サイトの運営者は、アクセス数が増えれば広告収入が増えることから、今回の手口は、アクセスの多いアダルトサイトから自動的にまとめサイトに飛ばすことで広告の閲覧数を増やそうとしていると見られます。

配信事業者も配信先のサイトに不正なものがないか、日々、監視を行っていますが、サイトの数は非常に膨大なため今回のような不正なサイトが紛れ込んでしまうことが起きてしまいます。

次々に登場する不正の手口

「アドフラウド」と呼ばれるネット広告の不正の手口は、今回の手法以外にも次々と登場しています。

例えば「ボット」と呼ばれる手口は、人間ではなくコンピューターがサイトにアクセスし、アクセス数を水増しするものです。

また、「ヒドゥン・アズ」、日本語で「隠し広告」と呼ばれる手口は、ページの中の閲覧できないような小さなスペースに小さい広告をいくつも埋め込んで、サイトの訪問者が気づかない状態なのに、たくさんの広告を表示したことにするものです。

広告不正の広がりは

去年、国内でおよそ1兆5000億円に上ったネット広告の市場。こうした広告不正は、どれくらい広がっているのか。

ネット広告の調査会社「モメンタム」が、去年(平成29年)、国内の顧客企業の広告の中に含まれるアドフラウドの割合を調査したところ、件数ベースで、全体の9.1%がアドフラウドに相当したということです。
また、アメリカの調査会社「IAS」の去年の同様の調査では、日本国内でアドフラウドは、全体の8.4%だったということです。

ネット広告に関わる事業者でつくる業界団体、「日本インタラクティブ広告協会」も、こうした広告不正、「アドフラウド」を「不正な広告費詐取の手法」「広告費を不当に横取りする行為」などと定義して、対策に乗り出しています。

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