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東京だけじゃない!
地方はオリンピックをどう生かす

東京で開かれる2回目の夏のオリンピック・パラリンピック。東京以外の「地方」の都市はどう関わっていけばいいのでしょうか。参加国の事前合宿を誘致する自治体もありますが、実現できる自治体の数は限られます。そんな中、2015年、東京オリンピック・パラリンピックを地域活性化のきっかけにしたいと、全国の市町村長が力を合わせて取り組む団体が発足しました。呼びかけたのは、新潟県のある自治体の市長。どんな思いで、何を始めようとしているのか、その取り組みを紹介します。

400市町村が連合

「2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合」。いかにも行政らしい、ちょっと堅苦しいネーミングのこの団体が発足したのは、2015年6月です。この名前のポイントは「首長連合」。参加資格は、全国の市町村長です。

発起人となったのは、人口約10万人の地方都市、新潟県三条市の國定勇人市長です。國定市長は、全国1741の市町村に参加をよびかけました。すると、趣旨に賛同した市町村長が次々に入会。ことし10月10日現在で、およそ400の市町村長が加入しました。京都市やさいたま市のような政令指定都市から、新潟県にある人口330人余りの村まで、自治体の規模はさまざまです。なぜ今、市町村長が集結するのか、國定市長に狙いを聞きました。

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2020年のオリンピック・パラリンピックが東京で開かれると決まった時、われわれ地方の市町村長どうしでは、「よかったね」という声より、しょせん東京の話だから俺たちには関係ないという声や、東京に公共工事が集中して、地方に人手や物資が足りなくなって、やりたいインフラ整備も遅れるのではないかという、後ろ向きな意見が非常に多かったんです。僕は基本的にそれは間違っていると思っていて、例えばリオオリンピックだからと言って、世界の人は「リオデジャネイロ」という都市のことばかり見ているのではなくて、ブラジルという国に対して関心を持つわけです。今、日本国内で、東京対地方という二項対立に陥るのは、われわれにとっても不幸だし、せっかく日本に目を向けて下さる世界の方々にとっても不幸なことです。世界の人たちは東京も地方も関係なく日本として見てますから、東京だけが勝つということではなくて、東京も地方もともに、オリンピック・パラリンピックから得られる果実をしっかりと手に入れようという思いから、首長連合を立ち上げました。

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メインストリートを“旅するマーケット”に

首長連合の活動の舞台は、東京です。霞ヶ関の経済産業省の一室を借りて事務局を開きました。参加自治体の職員4人が出向して作業を進めています。運営費は自治体からの負担金。これをもとでに来年2月から、ある事業がスタートします。

複合ビル「虎ノ門ヒルズ」のすぐ近く、オリンピックのメインスタジアムと選手村とを結ぶシンボルストリートとなる通称「新虎通り」を舞台に、オリンピック本番までの3年半、地方の魅力を情報発信するイベント「旅するマーケット」を開き続けます。ターゲットは日本を訪れる外国人観光客。外国人に狙いを定めて地方の魅力をPRする仕掛けです。

「旅するマーケット」は、新虎通りのおよそ100メートルの道路沿いに、物販や飲食の店がいくつも並ぶイベントです。特徴は、市町村名の書かれた「のぼり」や「はっぴ」を使わないこと。スタッフが○○村と書かれたそろいのはっぴを着ている姿は、地方の物産展でおなじみの光景です。しかしこうした物産展で○○村とPRしても、○○村を知らない客にとっては、ほかの町や村との違いがはっきりせず、印象に残りにくいのではないでしょうか。

「旅するマーケット」の主役は、市町村の名前ではなく、市町村自慢の「逸品」です。新虎通りには、「日本の海と山」「お茶の文化」など3か月ごとにテーマを設定して、セレクトショップや旬の食材を紹介する飲食ブースの設置を計画しているほか、週末にはファーマーズマーケットを開きます。

例えば「お茶の文化」なら、茶の葉そのものだけでなく、茶せんや茶わん、ヤカンや火箸など茶道に関わる道具の産地から自慢の逸品を集め、外国人にトータルの「お茶の文化」を紹介し、それぞれの逸品の魅力を感じてもらいます。

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首長連合では、こうした情報をウェブサイトやSNSでも発信。オリンピックを前に日本に関心を持つ外国人に、地方の魅力を知ってもらうきっかけにしようとしています。市町村の名前を知ってもらうのは、それから。あのお茶、あの酒、あの食器の産地である○○村を訪ねてみたいと、足を運んでくれるかもしれません。

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9月、この取り組みのプレイベントが虎ノ門ヒルズの近くで開かれました。今回のテーマは「ビール」。長野県駒ヶ根市や静岡県伊豆市、山口市などが自慢のクラフトビールを出品。岡山県備前市や三重県菰野町などが出品した特産の焼き物の器で味わってもらいました。会場には家族連れなどおよそ1500人が訪れ、用意されたビールは完売しました。この日は、一区画だけを利用した小規模なイベントでしたが、参加した多くの市町村長が、客の反応に手応えを感じたようです。

地方の情報発信のプラットフォーム

発起人の國定市長は、地方都市には、その魅力を海外に発信するノウハウや仕組みが欠けていると感じています。今回、首長連合で実現しようとしているのは、そうした地方都市が情報を発信するためのプラットフォーム作りです。首長連合にはスタイリッシュな空間デザインを手がける専門家が協力しPRの一端を担っているほか、広告や流通系の企業にも参加を呼びかけています。

東京目線の人たちからは、「地方は地方の良さを自分たちで気付いていないのではないか」という論調がよく聞かれますが、それは違うと思います。市町村の皆さんは、もういやというほど自分たちの町のことを勉強し、何がほかの市町村に比べて差別化できるものなのかということについては、いやというほど知ってるわけです。ところが情報発信の壁があるものですから、全国的にブレイクスルーすることが出来ずに苦しんでいる。それで東京には情報が届いていないから、「地方は魅力に気付いていない」と思われてしまうんです。ここに、首長連合としてのプラットフォームの意義がある。プラットフォームを通じて国内外に広く情報発信することができるようになれば、オリンピック・パラリンピックを機会に日本に関心を持ってくださる方々に対して、日本のすばらしさを示していけると思うんです。

五輪は地方が変わるチャンス

1964年の東京オリンピックでは、新幹線や高速道路の建設など公共インフラの整備が進み、地方都市にとっても一定の恩恵があったと見ることもできます。しかし今回は、東京以外での大型投資は望めないのが現状です。そして多くの地方都市は今、少子高齢化や人口減少に直面しています。オリンピックという一大イベントを見逃してしまうのはもったいない。國定市長は、今回のオリンピックは「地方が変わるチャンスにできる」と話しています。

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オリンピックは、空前絶後の吸引力を持つビッグイベントです。もちろんスポーツとしての楽しみもありますが、オリンピック・パラリンピック首長連合の会長として見ると、これほど強力な訴求力を持つ、世界を引きつける力を持つイベントは、少なくとも僕らが生きている時間軸の中では、ほかにないと思います。地方都市は、もちろん私がいる三条市も含めて、この4年間でしっかりと「情報伝搬力」を身につけて、2020年以降は、理想を言うと、各自治体単独でも、世界に対して情報発信ができるだけの力をつけていきたいと思っています。今回の首長連合の取り組みを通じて、それができるような気がしていて、わくわくしています。オリンピックは、われわれ地方に住んでいる人間の価値観が変わるチャンスだと思う。意外とやってみればできるじゃないかとか、そういう気付きも与えてくれる絶好の機会だと思います。

取材を終えて

みずほ総研のリポートによりますと、イギリス、中国、オーストラリアなど過去5回のオリンピック開催地は、開催が決まってから海外からの観光客が長期的に増加する傾向が見られました。また首長連合によると、2012年のロンドンオリンピックで、実際に多くの人がロンドン以外のイギリスの都市を訪れているということです。日本でも、リピーターとなっている外国人観光客は東京や京都といった定番以外のまちに関心を寄せ始めているといいます。今回の首長連合の取り組みが、新たな変化を生み出す可能性は十分にあると感じました。

安井誠一
ネット報道部
安井 誠一記者