きっかけは「けいおん!」 女子高校生たちの思い

軽音楽部の女子高校生たちの友情を描いた人気アニメ「けいおん!」。その舞台のモデルとされる滋賀県豊郷町の旧校舎で、高校生の軽音楽の全国大会が11月に開かれました。事件のあと初めて開かれたことしの大会。高校生たちの演奏には京アニへの様々な思いがありました。(カメラマン 北野孝治)

アニメの舞台で開かれる リアルな「軽音楽甲子園」

会場の「豊郷小学校旧校舎群」は昭和12年にアメリカ人の建築家が設計したもので、国の有形文化財に登録されています。京都アニメーションが制作したアニメ「けいおん!」 が放送されると、舞台のモデルとして全国から数万人ものファンが訪れるようになりました。

アニメをきっかけに軽音楽を始める高校生たちが増え、平成23年からは地元の商工会が「とよさと軽音楽甲子園」を開くようになりました。年々大会のレベルもあがって全国から強豪校が参加するようになり、いまではオリジナル曲を演奏する舞台にもなっています。ことしは全国62組の応募の中から、予選を勝ち抜いた11組が頂点を目指して演奏を行いました。

女子高校生バンドの思い

やさいすてぃっくの5人

大会に出場した大津市のバンド「やさいすてぃっく」。女子高校生5人組のガールズバンドです。メンバーの1人は保育園のときから京都アニメーションの作品をよく見ていたといいます。

やさいすてぃっくのメンバー
「何気ないひとコマが温かく描かれている『けいおん!』がすごい好きでした。いつも音楽があって、その上ですごいキラキラしている女子高生に憧れて、高校に入ったら軽音楽部に入ろうと思っていました」

7月18日に起きた事件の6日後。やさいすてぃっくのメンバーは会場の「豊郷小学校旧校舎群」を訪れました。学校に設けられた献花台には、花や手紙などとともにメッセージノートが置かれていました。そこには訪れたファンの京アニへの思いがつづられていました。ノートに記されていたメッセージをもとに、10月半ばにメンバーが書き上げたオリジナル曲が「ヒーロー」です。京アニへの思いを込めました。

「ヒーロー」 (歌詞)

ブラウン管テレビ越しに テレパシーテレパシー
ヒーローたちが描く世界 無意識的羨望感

今私たちがこのステージに立ってる
その事実が導いてくれた証
10年前のテレパシーが今になって帰ってきたよ
繋いだ手と手を離さぬように

ヒーローどこへ行く ヒーローまだ夢は終わらない
ヒーロー空へ羽ばたいて 憧れた少年少女たちの歌を聴く

憂鬱を感じる年頃 メランコリー センチメンタリー
せーらーふくで見えた視界 幻想的焦燥感

ありふれた日常の中で 答えを出すことは困難で
尋常じゃない渦中劣等の 聲を聞くことにしてみたんだ

アラームの音が響いていた また夢だった

ヒーローどこへ行く ヒーローまだ夢は終わらない
ヒーロー空へ羽ばたいて 憧れた少年少女たちの歌を聴く

また逢う日まで

やさいすてぃっくのメンバー
「本当に直接的な言葉はできるだけ避けて、京アニのあの事件で、亡くなられた方々とかに向けて書きました。本当に助けてくれたり救ってくれたりした存在が私にとってアニメだったのでそういう思いを込めて、アニメを作ってくれた人たちが私にとってはヒーローだったので、それで『ヒーロー』とつけました。たとえばもしアニメを見てなかったら軽音楽もしてなかったかもしれないし、部活動に迷ってたかもしれない。何かつらいときにアニメ見たら元気が出る。アニメを見て影響を受けた側の私たちが今度はほかの人たちの気持ちを動かせられたらと思っています」

京アニへの感謝を伝える演奏も

京アニへの感謝の思いを伝えるバンドもいました。名古屋市の高校生バンド「アヤメ」。1年生から3年生まで7人グループのバンドです。大会への出場が決まったあと、部員全員で豊郷のステージに持っていくための寄せ書きをしました。ボーカル兼ギターで部長の安江結子さんは「京アニはたくさんの作品をずっと残してきて、自分たちにも夢をたくさん与えてくれた存在です。夢をたくさんありがとうという意味を込めて書きました。『けいおん!』と同じ舞台に自分たちが立てるので、曲で恩返しができたらなと思っています」と話していました。

大会当日。高校生たちの思いをのせた歌声が豊郷のステージに響き渡りました。京アニへの思いを込めて書いたオリジナル曲「ヒーロー」も演奏されました。「やさいすてぃっく」と「アヤメ」は入賞はできませんでしたが、出場を終えたあと2つのバンドは、ともに感謝の気持ちを語っていました。

「会場の方々も拍手をたくさんしてくださったり思いは伝わったかなって思います。これからも人に届けるよう曲を作っていきたいと思っています」(アヤメ安江さん)

「賞を取れなかったけど楽しかったし、軽音楽を始めてよかったなって思いました。その感動は忘れずにまた活動できたらいいなと思います」(やさいすてぃっくのメンバー)