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あるキャリア官僚の死

「親不孝な息子で本当にごめんなさい」

5年前の3月。こんな遺書を書き残し、総務省の31歳のキャリア官僚が自殺しました。
亡くなる前の残業時間は過労死ラインを大きく超える月135時間に上っていました。(霞が関リアル取材班記者 荒川真帆)

死から5年たっての申請

厚労省で開かれた弁護士の記者会見

この官僚の死は今月9日、厚生労働省で開かれた記者会見で明らかにされました。

代理人の弁護士は、男性の死を公務災害と認めるよう総務省に申し入れたといいます。

「なぜ5年たった今、申請をしたのだろうか」

私はそう思いつつ、配付された資料に目を落とすと、こう記されていました。

「被災者は、2014年3月26日頃自死。(中略)遺族の意向により、被災者の死亡が業務に起因するかどうか、総務省内において多少の調査が行われたが、結局、あいまいなまま放置されてきた」

これはいったいどういうことなのでしょうか?

将来を嘱望されていた男性

自殺した男性は2008年に東京大学大学院を卒業し、その春、総務省に入りました。
通信業務のほか、大臣官房などの勤務も経験するなど、官僚としての将来を期待されていました。

しかし、男性の勤務は厳しいものでした。
亡くなる直前は、消費税増税の対応などに追われ、長時間労働が常態化していました。遺族が入手した亡くなる前の残業時間は、過労死ラインを大きく超える月135時間に達したといいます。

男性が両親にあてて書き残した遺書には「親不孝な息子で本当にごめんなさい」と記されていたそうです。

息子はなぜみずから命を絶ったのか、その手がかりを得ようと両親が総務省に調査を求めてすでに5年。

弁護士によると、調査結果を待ちのぞんだ両親に対し、総務省からの連絡はこの4年間、何もなかったといいます。両親は諦めかけたものの、「このままあいまいにしてはいけない」と思い直し、去年になって、弁護士に相談したということでした。

民間と官僚“労災”めぐる違い

なぜこんなことがまかり通るのか、会見を開いた山岡遥平弁護士に尋ねました。

すると、「官僚独特の制度が関係していると思います」という答えが返ってきました。民間企業と国家公務員とでは、労働災害(公務員の場合、公務災害)と認定されるまでの手続きが大きく異なるというのです。

1:調査主体が身内
1つは、調査・認定を行う「主体」の違いです。
民間の場合、労災の調査は厚生労働省が所管する労働基準監督署が行います。

労災の申請があれば、企業などの事業主に勤務時間や休日の取得状況などを調査し、勤務管理に問題が見つかれば、労災に認定するだけでなく企業に指導も行います。

一方、国家公務員の場合、その調査の主体は勤め先の各府省庁が行います。人事院が協議に関わる場合もありますが、最終的な認定判断は各府省庁に委ねられているというのです。

2:調査期間
もう1つが認定に至る「時間」です。民間の労災認定の場合はそのケースに違いはあっても、遅くとも2年前後で調査結果はまとまるといいます。

しかし、国家公務員の場合、こうした期間の目安は特に設けられていません。このためどのような調査が行われているのか不透明になりやすいといいます。

山岡弁護士は、以上のような理由で、5年たっても総務省から音沙汰さえない事態になったのではないかと指摘したのです。

「民間の場合は第三者的に労基署が当事者と会社との間に入って裁くわけですが、官僚の場合はそうした『第三者性』の要素がありません。
認定を求める本人や遺族からすると、勤めていた先の職場、つまり各府省庁に強く申し立てるのは気が引けるでしょうし、調査する側も『大ごとにしたくない』といった心理が働き、調査を小さくまとめようとしてしまうこともあるのではないでしょうか。
泣き寝入りしている人たちも少なくないように思えます」

認められない公務災害、氷山の一角では…

総務省に、どうして5年もの時間がかかっているのかと問い合わせましたが、明確な答えはありませんでした。

また、人事院も「個別の事案にはお答えしかねる」という返答でした。

しかし、今回、遺族と弁護士が総務省に公務災害を申請した時、鈴木茂樹事務次官は謝罪したうえで、こう話したといいます。

「長時間勤務により、量、質とも負担となる結果、このような(自殺の)事態に至ったのだと思います。できるだけ早く、公務災害の認定に向けて調査し、手続きを進めたい」

最新の調査(平成29年度)では国家公務員で亡くなった人のうち、公務災害と認定されたのは5人。自殺者は1人とされています。

しかし取材では、ほかの府省庁でも、「自殺した」「突然死した」という事例を耳にしました。

このデータは実態の一部でしかないと思い、今後も取材を続けます。
ぜひ、皆さんからの情報を以下のサイトからお寄せください。

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