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似てます…「官僚」と「無給医」

「人生の墓場に入った」「毎日死にたい」
これらは厚生労働省の若手官僚たちの声です。私は官僚たちの話を聞きながらすぐに思いました。
「同じような声を無給医からも聞いたな」と。
(霞が関リアル取材班 記者 小林さやか)

若手官僚による衝撃の提言書

私はこの夏、厚生労働省の担当になりました。
その最初の仕事が先日公表された厚生労働省の若手官僚たちがまとめた提言書でした。

まずは、そこに書かれていた衝撃の文言をご覧ください。

「厚生労働省改革若手チーム緊急提言」より

「入省して生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」(大臣官房、係長級職員)
「家族を犠牲にすれば、仕事はできる」(社会・援護局、補佐級職員)
「毎日いつ辞めようかと考えている」(保険局、係長級職員)

あまりに悲痛な叫びに胸がつぶれそうな思いになります。

職員アンケートの結果も、こうした声を裏付ける結果でした。

「やりがいのある職場」と半数が答える一方、
「心身の健康に悪影響(58%)」
「職員を大事にしない職場だ(45%)」
「やめたい(41%)」
「将来に希望が持てない(25%)」というネガティブワードが並びました。

暑い、暗い、狭い「拘牢省」

私にとって、厚生労働省が初めて担当する省庁ですが、来てすぐ思ったのが決して快適とはいえない職場環境です。

猛暑なのに、エアコンは効いておらず、執務室に取材に行っては汗だくになります。

記者クラブにあるNHKのブースはいつも扇風機2台がフル稼働です。

提言書にも次のような記述が。「暑い、暗い、狭い」「デスクの気温を計ったら32度」「省内で熱中症になりそう」「拘牢省と揶揄される」

官僚たちの悩みは

話を聞く小林記者

去年入省したばかりのAさん(24)に話を聞きました。

いわゆるキャリア職のAさんですが、「辞めたい」と思い詰める時期があったといいます。

「厚生労働省が扱う仕事は、何にも代えがたいほど大好きです。長時間労働はもちろん負担なのですが、やりがいを阻害しているのは、手続きが煩雑だったり、国会対応などで無駄な待機時間が多かったり、本質的ではないことに時間をとられることです。現場を見に行く時間もなく、みんな上を見て仕事をしています。本当に困っている人を手助けできるような自分が打ち込みたいと思っていることなら頑張れるのですが…」

さらに、納得がいかないのが給与だといいます。

「残業代が働いた分だけ支払われないんです。局ごとに残業代が割り振られていて、各職員の残業時間に応じて分配されるのですが、労働時間の管理がバラバラです。休日出勤や家に持ち帰って働いた分は正確に反映されていませんし、自分の給与がなぜその額なのか、よくわからないんです。さらに、繁忙期は課全体が超長時間労働をしているので、働けば働くほど、一人あたりの残業代の取り分が減るというよくわからない状況になってしまいます」

女性が続けられない…

さらに、結婚や出産といった女性のライフイベントと仕事の両立について悩むと言う声も聞きました。

入省6年目、一般職のBさんです。30歳を目前に揺れる胸のうちを明かしてくれました。

「外部に委託できるのではないかなと思う機械的な事務作業が本当に多いです。例えば、補助金を交付する業務では、やりとりのメインは紙。事業者から郵送されてくる書類の整理や発送業務に多くの時間がとられます。本当はもっと丁寧に仕事に向き合い、人の役に立つ仕事がしたいのに。そろそろ子どもを持つことも考えたいけれど、係長に昇任して、さらに忙しくなる時期と出産適齢期が重なっている。この先のビジョンが見えなくて不安な気持ちになってしまいます」

変わらない組織構造

今回の提言をまとめた久米隼人 人事課長補佐(36)にも話を聞きました。

久米さんは入省13年目の中堅。若い世代がどんどん辞めていくことに強い危機感を覚えたことが今回の動機だったといいます。

「自分たち課長補佐の世代と、少し下の20代の係員の間で大きな断絶があると感じています。そもそもこの数年で仕事の質が変わりました。少し前までは、係員でも政策を検討する時間がありましたが、デジタル化によってかえって、単純作業が増えてしまい、今はミスをつぶすような仕事に忙殺されています。そんな中で若手がやりがいを失っています。今は、社会的な課題を解決するベンチャー企業など選択肢が増えている中で、霞が関は魅力的に見えなくなっている。
一方、幹部たちは、役人が社会保障の最後の砦として頑張らなくてはと思っています。自分には両方の気持ちがわかりますが、そんなことを言っていても若手はついてはきません。組織が変わらなくては、いい人は入ってこなくなってしまいます」

似ている… 無給医と

こうした官僚たちの話を聞いて、「どこかで聞いた話だ」とすぐに思いました。

同じことを口にしていたのは、この1年取材してきた「無給医」たちでした。無給医とは、大学病院などで診療にあたりながらも、給与がでない若手医師のことです。

(無給医)

  • ■ ほぼ休みなく診療にあたり、月100時間以上の時間外労働もザラ。
  • ■ 給与は、当直手当てなど以外はなし。いくつもの病院でバイトを掛け持ち。
  • ■ ピラミッド構造の最底辺にいるため、上司にも物言えず。やりがいも見いだせない。

この無給医について、国はことし6月にようやくその存在を認め、一部大学病院も給与の支払いをすると約束しました。

一方、霞が関も、こうした若手官僚の声をうけて、変わる必要があると思います。

官僚と医師。両者はそれぞれ「医は仁術」「公務員は全体の奉仕者」と言われ、プライドを持って仕事をする人たちの集まりだと言われてきました。

それが今、次世代を担う人たちが崩壊寸前となっているとしたら、そのダメージはいずれ私たちに及ぶのではないでしょうか。

私は両者の取材を続けたいと思います。どうかみなさんの体験や意見お待ちしています。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/kasumigaseki/

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