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夏休みの宿題?? これ、官僚の仕事?

子どもたちは楽しい夏休みの最中ですよね。一方、みんな頭を悩ますのが自由研究などの宿題。こっそり両親に手伝ってもらった経験、あるかと思います。でも、その宿題を官僚が手伝っていたという話を聞き、さすがに耳を疑いました。(霞が関のリアル取材班記者 荒川真帆)

文科省に、夏休みの宿題!?

この“衝撃”の話を打ち明けてくれたのは、文部科学省の職員です。

「以前のことですが、ある国会議員から『支援者の子どもが教育をテーマに、夏休みの自由研究をしている。どんなレポートを書いたらいいか、アドバイスして』との依頼がありました。なんでここまでやらないといけないんだろうと思いつつ、資料を用意しました。議員から紹介された保護者や子どもとも直接やり取りして。宿題の答えを教えているようなものだから、教育効果もないなと思ったのですが…」

話を聞いて、「そんなこといいんですか!?」と思わず声が出ました。優秀な官僚が手を貸した自由研究の評価も気になるところですが、問題の本質はそこじゃないですよね!

これまでの記事で何度もお伝えしてきた霞が関の過酷な勤務。

その理由の1つに挙げられていたのが国会議員から依頼される“いろいろな仕事”でした。さきほどの自由研究もそうした仕事の1つだということです。

秘書がやるべき業務じゃないの?

ほかにもどんな“いろいろな仕事”があるのか知りたいと思い取材すると、外務省の男性職員が「議員からの依頼にはさすがにおかしいのではと思うものがたくさんありますよ」と打ち明けてくれました。

そのいくつかを紹介します。

  • 「地元観光地に、新たな観光施設…」
    ある議員からの依頼。議員の地元にある観光地が、ある海外の名所を参考にした新たな観光建設を検討している。建設にあたって関連資料を用意してほしい。
  • 「テレビ出演のゴーストライター??」
    大臣経験のある議員がテレビ出演するにあたり、その議論に係るレクをお願いしたい。番組で求められる提言などについても考えてほしい。
  • 「新規ビジネスを立ち上げたい」
    ある議員からの説明依頼。地元支援者が海外のある地域で新規ビジネスを立ち上げたいといっている。現地の様子はどんな感じか、教えてほしい。

私が「全部、秘書がやるべき業務じゃないのでしょうか」と尋ねると、この外務省の職員は、ため息交じりにこう答えました。

「地元支援者の要望を隠しもせずに依頼してくる議員の多さに驚きます。なかには、とりあえず呼び出されて、他の業務がすべてストップすることも頻繁にあります。忙しいなか1時間以上時間をとられることも。民間への支援は重要ですが、議員の私的ともいえる『お手伝い』業務にはいつも違和感をおぼえます」

まだまだありました…

確かにいずれも官僚がみずからの仕事として行うのはおかしい気がしますが…周りの官僚の人たちに聞いてみると、“いろいろな仕事”はまだまだありました。

  • ▼ イベントや講演会でのあいさつ文や原稿作成
  • ▼ 地方や海外に視察に行く時の現地関係者の紹介やアレンジ
  • ▼ マスコミからのアンケートへの回答文作成
  • ▼ 国会議員に対して行われた陳情への回答文作成

一方で、官僚たちの話を聞いていて、疑問も湧いてきました。官僚にとって本来の業務でないのなら、断ればいいのではないか?と。

「どうしてそんな仕事を引き受けるんですか?」と突っ込むと、複数の官僚から「議員との関係を良好に保つためだよ」という答えが返ってきました。

「私たちの仕事は、国会議員との関係が何よりも重視されます。特に、国会関係に強い先生であれば、機嫌を損なってはいけない。顔を立てる必要があります。入省した時からみんなモヤモヤしながら従っています」(外務省の男性職員)

「官僚の仕事は何より法案や予算案をスムーズに滞りなく通すこと。そのためには、平時から国会議員といかによい関係を築くかが大事。基本的には依頼がきたものを断るなんてありえない。持ちつ持たれつの関係でやっている」(ある省庁の幹部)

専門家はこう見る

「持ちつ持たれつだ」という官僚と議員の関係性。専門家はどう見るのでしょうか?行政学が専門の東京大学先端科学技術研究センターの牧原出教授を訪ねました。

まず、今回取材した“いろいろな仕事”をどう考えるかと聞くと「いずれも公私混同なものが多いという印象はありますね。ただ、明確に何が悪くて、何はよいのか、個別の判断は難しい」と言いました。

「なぜですか」と問うと、牧原教授はこう答えました。

東京大学先端科学技術研究センター 牧原出教授

「日本には、政官接触を禁じる明確なルールがありません。イギリスにはあるのですが。日本は政官関係はあいまいなまま『持ちつ持たれつ』でやってきたのが伝統だからです。こうした両者の関係は、いわゆる与党第一党を自民党が長らく占めてきた『55年体制』の時に顕著でした。その昭和の形が今も残っているということだと思います。違うのは、以前は『官僚主導』だった形が、今は『政治主導』に変わっていること。官僚主導では、官僚が政策立案の面などで力を発揮し、政策などをスムーズに通すためには政治からよけいな口を出されないよう、『政治側の依頼を聞いてあげている』という感覚がありました。しかし、今の政治主導の体制で、官僚は本来業務である政策立案に時間を割くことが難しくなっています。だから、政治家からの依頼を受けても、官僚には『うまみ』がどれだけあるのかと、徒労感やモヤモヤがたまる形になっているのだと思います」

一方で、こうも指摘しました。

「政治家も自省すべき点は大きいと思います。本来自分でやればいい話も結構ありますから。官僚がもう少し本来業務に時間を割けるようにしたほうがよいと思います」

皆さんの意見・体験を!

こうした議員から頼まれる“いろいろな仕事”。取材をしていると、「国会の質問作りを頼まれた」など、ちょっと夏休みの宿題とは次元の違う話も耳にしました。

私たちはこのテーマについてまだまだ取材を続けます。皆さんの考えをお寄せください。官僚の方々の体験談もお待ちしています。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/kasumigaseki/

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