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40歳以上が多すぎ?~官僚組織の「逆ピラミッド」

ある官僚が私の前でつぶやきました。
「課長もヒラもせわしなく働いているのに、暇そうなおじさんがいるんですよ…」
ちょっと失礼な言い方では? しかし聞いて回ると、同じように感じている若手官僚が結構いました。
(「霞が関のリアル」取材班記者 三浦佑一)

若手官僚たちの嘆き

「霞が関のリアル」取材班には多くの現役官僚から意見が寄せられます。私たちは本人の了解が取れれば、できるかぎり直接会ってお話を伺うようにしています。

その1人、都内の喫茶店で会った文部科学省の現役官僚がこんなことを口にしました。

「周りがどんなに忙しくしていても大した仕事をせず、ただ座っているようにしか見えない年配の職員がいるんです。もちろん全員ではないですが、『○○官』とか、名称はカッコイイ役職の人の中にです。私の直属の上司ではないというか、そもそもその人に部下はいないんだけど、仕事は振ってくるので困ります」

これまでの取材では、霞が関は人手不足のために異常な働き方になっていると誰もが口にしていました。この官僚は上の世代の質にも問題があるというのです。

「例えば課長のところに民間団体から講演の依頼が来た時、課長が忙しいとその○○官に依頼が回る。それを自分で対応するならいいけど、私のような下の職員に『講演に使うデータを調べてプレゼン資料にまとめておいて』と準備を丸投げするんです。さらに後日、主催者から送られてきた講演記録のチェックも丸投げです。読んでみると省の見解と違う発言をしているから、よけいにタチが悪い。ハッキリ言って、いるだけ邪魔ですよ」
「そういう人は明確な役割がないので、日がな一日、新聞→コーヒー→トイレ→居眠りの繰り返し。周りから冷たい視線を受けながら、座り続けている精神力はすごいと思います。そんな人でも職場の定員を1人奪ってしまう。いっそいなくなれば、若手職員を1人雇えるだろうに…」

日頃よほど不満があるのか、憤りのことばが続きます。でもそれはたまたま彼の職場に限った問題じゃないの?とも思い、ほかの官僚にも聞いてみました。

すると「あるある!」と、異口同音の反応が返ってきました。国土交通省の元職員はこんなことを話していました。

「私も、上司でもない離れ小島の席の中堅幹部に、仕事に介入されて困ることはありましたね。プライドが高い官僚はどんなポジションにいても、『権限欲』『決定欲』とでもいうのか、政策の意思決定プロセスに入りたいという願望が強いんですよ。多角的に意見をもらうのは悪いことではないんですが、存在感を示したいがためにダメ出ししているとしか思えないこともある。現場からすると、決裁書にはんこを押してもらう『スタンプラリー』の欄が増えて、仕事のスピードが遅くなるだけ。若手は決裁のための省内の根回しに時間を奪われ、モチベーションが下がる。まさに『小田原評定』、『船頭多くして船山に登る』ですよ」

意外な組織構造

どうやら特定の職場だけの問題ではなさそうです。次に統計資料も調べてみました。人事院の資料から年代構成を見てみます。

40代、50代が明らかに多く、40歳未満を足すと4万7497人なのに対し、40歳以上は9万2596人と2倍近くに上ります。

指定職(審議官級以上の幹部)やベテラン官僚が就く「専門スタッフ職」の人数を加えると、さらに年配層の人数は多くなります。

役職別には、どうでしょうか。

こちらも計算すると、いわゆるヒラの係員より、係長級が2.71倍、課長補佐が1.37倍多くなっています。

人事院は「地方機関の人員も含んだ数字なので、これらがそのまま霞が関の人員構成というわけではない」と説明していますが、若手が少ない構造であることは間違いなさそうです。

また若手官僚たちが指摘していた役職についても調べてみると、「○○分析官」や「××戦略官」「□□調整官」など、10年前には無かったポストが各省に増えています。もちろん、新しい業務に対応するためにポストを新設することはあるでしょうし、多くの役職者は真面目に取り組んでいることは承知していますが…。

人事担当も疑問を持ちながら…

なぜアンバランスな年代構成になっているのか。ある人事部局の中堅職員が解説してくれました。

「各省とも若手が足りず、民間や自治体から出向で来てくれる人をかき集めて、かろうじてマンパワーを確保しています。こうなってしまった最大の理由は職員採用の抑制です。民主党政権時代に人件費削減のために大幅に行われましたが、前後の自民党政権でも減らされています。今も、震災復興や東京オリンピック・パラリンピックのための時限的な増員は行われていますが、純粋な定員は減り続けています」
定員数の資料にはマイナスを表す▲が並ぶ
「さらに、最近の若手の転職志向も年代の偏りに拍車をかけています。あとこれは言い訳にもなりませんが、天下り規制で年配層の職員が省内に留まっていることも要因の1つではあります」

なるほど。採用抑制などで組織の年齢構成がいびつになることは、民間企業や教員の世界にも見られる問題です。しかしこの職員は、年齢層の偏りそのものよりも大きな問題があると指摘します。

「より問題なのは、人数が多い上の年代層の官僚に専門性が身についていないことです。霞が関の人事は2年ほどで部署を次々に異動させる中で、調整業務や国会対応に力を発揮した人物が課長、局長と出世する仕組みです。事務次官1人を選抜する仕組みとしては、それでもいいのですが、ふるい落とされた人に何が残るのか。毎年、半分の人が入れ代わる組織で、一人ひとりに専門性が身につくと思いますか?長く勤めれば『△△局の経験が長い◎◎畑の人』という色は付くかもしれませんが、民間でも通用するような本格的な専門性には程遠いでしょう」

そこでこの職員は、『複線型人事』の導入が必要だと言います。

「事務次官を目指して省内を横断する経験を積む人と、1つの道のプロを目指す人を分けた人事制度です。前者は省内全体を把握できるよう幅広く部局を渡り歩けばいい。後者は、例えば厚生労働省で年金のプロになりたい人なら、年金局を軸としつつ高齢者福祉や就労支援の部署も経験して総合的に年金を捉えられる人材になってもらう、という具合です。総合職だからといって、みんなが同じトラックを走らなくてもいいでしょう。今の霞が関には組織としてのキャリアビジョンがないから、ある人事異動がその人に何を期待して決まったものなのか、上司から本人に説明することがほとんどない。そんなことだから、年配になって取って付けたような役職名を与えられるだけで、生かされない人材が増えてしまう。そんな上の様子を見て若手が不安を抱くのは当然です。本人の希望と、組織が期待する人材像をすり合わせるような仕組みを作るべきなんです」

この職員が最後につぶやいたことばが印象的でした。

「一職員がこんなことを考えていても、霞が関の組織はなかなか変えられないのです。今のシステムで偉くなった幹部に改革の必要性を理解してもらうのが難しいし、私自身も2年で異動していきますから…」

こうした人事制度の問題、いつまでも放置できないと思います。皆さんの身の回りではどうですか。評価の仕組みに疑問はありませんか。あなたの経験や意見について、こちらまで情報をお寄せください。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/kasumigaseki/

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