「退位」に関する規定なし

天皇の位、皇位について、今の憲法では世襲されるとだけ定められ、皇室制度を定めた「皇室典範」にも退位に関する規定はありません。

天皇の「生前退位」は認められておらず、天皇が崩御すると、皇位継承順位に従って自動的に次の天皇が即位する仕組みになっています。天皇は、生涯引退できない立場にあります。

こうした制度のもと、天皇が未成年であるか、重い病気などで国事行為にあたれない場合に限って、代役を務める「摂政」を置くことが認められているほか、天皇の一時的な体調不良や外国訪問などの際には、「国事行為の臨時代行」が行われています。

宮内庁 退位制度設けぬと説明

天皇の「生前退位」について、宮内庁は、これまで制度を設ける考えはないとしてきました。

平成13年には、参議院の調査会で当時の宮内庁次長が答弁に立ち、天皇の「生前退位」が認められていない理由について、さまざまな政治的思惑のなかで、歴史上みられたような上皇や法皇の存在が弊害を生むおそれがあることと、天皇の自由な意思に基づかない退位の強制がありえることを挙げました。さらに、天皇が恣意的に退位する懸念もあるとして、天皇の地位を安定させるのが望ましいという観点から、退位は認められていないと説明しました。

宮内庁はこれまで、国会の委員会や調査会などの場で同様の説明を繰り返し、天皇に心身の疾患や事故がある場合には、「国事行為の臨時代行」や「摂政」の制度があるとして、退位の制度を設ける考えはないとしてきました。

摂政とは

摂政は、天皇が成年に満たないときや、重い病気や重大な事故で長期にわたって国事行為を行えない場合に天皇の代役として置かれます。

皇室典範によって成年の皇族が務めることや就任する順序が決められていて、今の皇室では、まず、皇太子さまが対象となり、次いで、秋篠宮さまが対象になります。旧皇室典範のもと、昭和天皇が、大正天皇の晩年に務めたのが最後で、今の皇室典範のもとで、摂政が置かれた例はありません。

国事行為の臨時代行とは

天皇は、摂政を置くほどでない病気や事故などの際、国事行為を皇族に委任して臨時に代行させることができます。

委任されるのは、摂政の場合と同じ皇族で、今の皇室ですと皇太子さまが対象となり、皇太子さまが代行できない場合には、秋篠宮さまが対象となります。最近では、ことし1月の天皇皇后両陛下のフィリピン訪問の際、皇太子さまが国事行為を代行されています。

歴代天皇の譲位

現在、天皇の「生前退位」の制度はありませんが、皇室の歴史をさかのぼると、昭和天皇までの124代の天皇のうち、半数近くで譲位が行われてきました。

飛鳥時代半ばの645年、35代の皇極天皇が孝徳天皇に譲位したのが始まりだとされます。その後、平安時代になると、譲位は頻繁に見られるようになり、江戸時代にかけて譲位による皇位継承が半数を大きく上回るようになりました。

譲位した天皇には、最高の天皇という意味を表す「太上天皇」の尊称が贈られ、歴史の教科書にもたびたび登場する「上皇」という通称で呼ばれました。しかし、明治時代半ば、大日本帝国憲法とともに定められた旧皇室典範で、譲位が強制されて政治的混乱を招いた時代があったことなどを理由に、皇位の継承は天皇の崩御だけに限られます。

その後、昭和22年に今の皇室典範が制定された際にも、譲位の制度化を巡る議論がありましたが同様の理由で見送られ、江戸時代後期の1817年に光格天皇が仁孝天皇に譲位したのを最後に、およそ200年間、譲位は行われていません。

皇室の構成

今の皇室は、天皇陛下と、皇后さまや皇太子ご一家など19人の皇族から成っています。
皇位の継承資格がある男性皇族は、継承順位第1位の皇太子さま、第2位の秋篠宮さま、第3位で秋篠宮ご夫妻の長男の悠仁さま、そして、第4位で天皇陛下の弟の常陸宮さま、第5位で天皇陛下の叔父の三笠宮さまの5人です。天皇陛下の孫の代で皇位を継承できるのは悠仁さまだけです。

仮に、天皇陛下の生前退位が実現し、皇太子さまが新しい天皇に即位された場合、皇位継承順位は一つずつ繰り上がって、秋篠宮さまが第1位となります。