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水際対策緩和、その陰で~日本への留学を諦めた外国人たち~2022年3月1日 国際部記者 近藤由香利

3月から段階的に緩和された新型コロナウイルスの水際対策。観光を除く外国人の新規入国が再開されました。

一方で、この2年間、日本は一時、入国制限を緩和していた時期もありますが、長期的な入国制限の影響で、日本への留学を断念した外国の人たちもいます。

「日本の大学院に行くことも、就職することも諦めました」

日本へ留学することを待ち続けたメキシコ人の男性に、思いを聞きました。

日本で土木技術者になる

  • 「災害に強い建物について日本で学び、土木技術者となり日本で就職したいと考えていました」

    こう話すのは、メキシコ人のヘスス・オルテガさん(23)です。新潟県長岡市にある国立大学、長岡技術科学大学で土木工学を専攻しています。

    ただ、入学してから“一度も来日することなく”、3月に卒業を予定しています。おととし3月に来日する予定でしたが、新型コロナの感染拡大で入国できず、日本との時差が15時間あるメキシコで、オンライン授業を受けてきました。

    災害に強い建物や橋などを造りたい。そんな思いで、なんとか勉強を続けてきましたが、日本へ行くことは諦めたと話します。

    「いつ日本に行けるのか分からないことはとてもストレスでした。日本の大学院に行くことも、日本で就職することも諦めました」

災害に強い構造物を造って命を守りたい

オルテガさんが土木工学に関心を持つようになったのは、母国メキシコの現状への危機感からでした。

メキシコでは、設計上のミスなどで橋が倒壊する事故が絶えないといいます。また、地震が多いメキシコシティーでは、大きな地震が起きるたび建物が倒れ、大勢の人たちが亡くなっています。

  • 日本語を勉強するオルテガさん
  • 災害に強い建物などを造って、1人でも多くの人たちの命を守りたい。メキシコの大学に入学してから、明石海峡大橋など、日本の大型の構造物を知り、その高い技術力に感銘を受けたといいます。

    オルテガさんは、日本に留学して、災害に強い技術を学びたいという思いを徐々に強くしていきました。

日本への留学、阻んだ新型コロナ

  • 長岡技術科学大学の入り口に立つオルテガさん(2019年)

オルテガさんが通っていたメキシコの大学は、日本の長岡技術科学大学と、双方の大学の学位を取得できる留学プログラムを組んでいたことから、オルテガさんは、メキシコで2年半学んだあと、残りの2年間を長岡技術科学大学で学ぶ課程を選択。

おととし3月から留学して、日本で学べるはずでした。

しかし、新型コロナの感染拡大による入国制限で日本へ行くことができず、すべての授業がオンラインに。

オルテガさんの生活は昼夜逆転の生活になり、授業が最も長い日は、夜7時前から朝4時半までオンラインで授業を受けなければならない時もありました。

オルテガさん
「早朝までオンラインで授業を受けるのは、正直、精神的にも肉体的にもとてもつらいものでした。もし、やめられるのなら、すぐにでもやめたいと、何度も思っていました」

これ以上、待てない

 

授業は去年12月に終わり、2月には卒業論文の最終プレゼンテーションもオンラインで行われ、3月に卒業する予定です。

  • 東京を訪れたときのオルテガさん(2019年)

優秀な成績を残してきたことから、日本の大学院へ入学するオファーも受けたというオルテガさん。一度はその大学院に進学しようと考えましたが、最終的にはオファーを断ったといいます。

去年11月末、日本政府はオミクロン株の水際対策で外国人の新規入国を原則停止。いつ日本に行けるのか見通しがたたない状況をそれ以上続けていくのは難しいと考えたためです。

日本の大学で学位を取得したあとは、日本の企業に就職し、土木技術者として橋や鉄骨構造の建物を建設する将来を思い描いていました。

でも、その夢も諦め、今は、ヨーロッパの大学院に進学し、土木工学の勉強を続けていくことにしています。

オルテガさん
「日本に行くことを待っている間も、時間はどんどん過ぎていってしまいます。メキシコにいるときから日本語を勉強して日本に行く準備をずっとしてきましたが、時間がムダになってしまったと感じています。日本に行くことができないので、私は何も経験を積むことができず、とっても悔しいです。日本に留学できていたら、日本人の友だちを作ったり、日本の美しい景色を見に旅行したりできていたかもしれません。でも、これ以上は待てませんでした」

水際対策は緩和されるもののー

オミクロン株の感染拡大に伴う水際対策は、3月から段階的に緩和されました。

政府は、観光を除く外国人の新規入国を再開し、1日あたりの入国者の上限も、いまの3500人から5000人に引き上げました。

日本への留学を待ち続けた外国の人たちを取材すると、「安心しました」「泣きたいくらいうれしい」といった喜びの声を聞くことができました。

一方、日本の水際対策の影響で留学先を変更する外国人も多いとして、入国者の上限をさらに引き上げるよう求める声が、与党内からも上がるなど、コロナ禍以前のように外国の人たちが日本に入れない状況が長く続いていることに危機感が高まっています。

日本で学びたい、働きたいと思う外国の人たちの思いをいかにかなえていくことができるのか。新型コロナの感染対策に配慮しながらも、その環境を整えていくことが必要だと感じます。

  • 新潟県の建設現場を訪れたオルテガさん(2019年)
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