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彼らは「景気の調整弁」?2021年3月4日 国際部記者 紙野武広

去年12月、外国人を積極的に受け入れている日本企業を表彰する催しが初めて開かれました。

日本で働く外国人は約166万人と過去最多に。その一方で、雇い主からの暴力や賃金の未払い、不当な解雇といった問題もあとを絶ちません。

私たちは外国人労働者とどのように向き合えばいいのか。催しを通じてそのヒントを探りました。

「憧れの国」だった日本

「日本はもはや『世界から選ばれる国』ではなくなりつつある」

去年12月2日、オンラインで開かれた「Global one team Award 2020」。外国人が働く現場に光を当てようと初めて開かれ、外国人を雇っている日本企業100社以上が参加しました。

  • 審査員にプレゼンする参加企業

冒頭のことばは、主催者で、外国人の支援を行ってきた東京のベンチャー企業「one visa」の代表・岡村アルベルトさん(29)のあいさつです。みずからも日系ペルー人で、小学生のときに来日したという岡村さんに発言の真意を聞きました。

岡村アルベルトさん
「私の母親が日本に国費留学していた1980年代、日本は世界から『憧れの国』として見られていました。当時、日本へは成績が一番にならないと留学できなかったほど、ペルーでは日本が最も人気のある国でした。しかし経済的な優位性の低下や、技能実習制度をはじめとする外国人の受け入れをめぐるさまざまな問題があり、日本の魅力は下がってきていると感じています」

「いまは新型コロナウイルスの影響で人の往来が難しくなり、企業が外国人の受け入れに後ろ向きになっていますが、日本の人手不足の問題は解消されたわけではありません。こういう機会にこそ、外国人労働者の受け入れについて考えるきっかけを作りたい」

1人800万円の費用、それでも…

催しでは、特に優れた取り組みをしていると評価された企業が自社の取り組みを発表。審査の結果、5社が表彰されました。

最優秀賞
「ロボコム・アンド・エフエイコム」(東京・ロボットシステム開発)

優秀賞
「ウイルテック」(大阪・製造請負)
「monopo」(東京・広告)
「YUIME」(東京・農業分野への人材派遣)
「メディカルシステムサービス」(東京・医療関連サービス)

最優秀賞に選ばれた「ロボコム・アンド・エフエイコム」は、産業用ロボットのシステム開発などを手がける企業です。

福島県の工場には「高度外国人材」と呼ばれる、大学などを卒業し高い技術や知識を持つベトナムやミャンマー出身のエンジニア17人が在籍しています。

  • 「ロボコム・アンド・エフエイコム」の外国人エンジニアたち

採用の際には人材のミスマッチを防ぐため、代表がみずから現地に赴いて面接しているほか、現地での入社式に家族も招くなど、不安をなるべく取り除くよう配慮。水道光熱費を含めて社宅を4年間無料で提供したり、年に1回は帰国できるよう航空券代を負担したりするなど、業務に集中できるよう支援していると言います。

外国人1人の受け入れにかかる費用は、年間約800万円。

なぜそこまでして外国人を受け入れるのでしょうか?

「ロボコム・アンド・エフエイコム」代表取締役 天野眞也さん
「日本語の教育費や住居などの福利厚生に費用がかかるため、日本人を採用するのに比べてコストが高くなるのは確かです。でも、これは決して慈善事業ではなく、彼らが優秀だから受け入れているのです。それに加え、成長を続けるアジア市場での事業展開を考えたときに、彼らを受け入れるメリットのほうがデメリットよりずっと大きいと感じています」

もう一度「選ばれる国」に

「外国人材の活躍が会社の成長につながる」と強調するのは、優秀賞に選ばれた大阪の企業「ウイルテック」です。

  • ミャンマーの日本語学校

製造業への人材派遣などを手がけ、ミャンマー出身の技能実習生など、約400人の外国人を受け入れています。

特長は充実した日本語教育です。ミャンマーに日本語学校を設立したり現地の大学と提携して大学でも日本語を教えたりするなど、来日前から支援。来日後も、自社で開発したeラーニング教材などで継続的に学んでもらったうえで、こうした人材を新たに設立した現地法人の役員にも抜てきするなど、中長期にわたる支援をしています。

技能実習生をめぐっては、ブローカーにそそのかされるなどして実習先から失踪し、不法就労に従事するケースが全国的に問題となっています。

この企業は実習生たちに地元の祭りに参加し、習った日本語で地域の人たちと交流を深めてもらうなど居心地のいい空間や信頼関係の構築に努めていて、失踪した実習生はこの約2年間で1人もいないということです。

「ウイルテック」村上真司 海外事業部長
「日本語教育から採用、そして帰国後に現地法人でも受け入れるなど、長期にわたって育成する仕組みを作っています。そこから生まれる信頼関係が失踪防止はもとより、会社の成長につながっていると思います」

主催者の岡村さんはこの催しを今後も続けていきたい考えです。そして企業と外国人労働者の双方がひとつのチームのようになってほしいと、ことばに力を込めました。

岡村アルベルトさん
「私は日本がもう一度、海外から選ばれる国になってほしい。外国人が気持ちよく働ける企業、そのいい事例を紹介することで、もっと多くの外国人を受け入れようという流れを作れるのではないか」

「景気の調整弁」なのか?

外国人の受け入れに積極的に取り組む企業がある一方で、いまだに外国人労働者を日本人と同等に扱っていない企業があるのも事実です。

催しの審査員を務めた日本国際交流センターの毛受敏浩執行理事は、特に新型コロナウイルスの感染拡大は、これまで日本が抱えていた課題を浮き彫りにしたと指摘します。

毛受敏浩 執行理事
「リーマンショックのとき多くの日系ブラジル人が解雇されたように、コロナ禍でも外国人が『景気の調整弁』とされている。特にコロナ禍では、解雇されても帰国できない人が続出していて、問題はより深刻だ」

出入国在留管理庁によると、新型コロナの影響で事実上解雇された技能実習生は累計で約5000人。実際に取材したベトナム人実習生の中には、実習期間中にもかかわらず一方的に解雇を言い渡されたり、給与を支払ってもらえないまま退職に追いやられたりするなど、不当な扱いを受けた人が少なくありませんでした。

日本で働く外国人労働者約166万人のうち、技能実習生は23%余り。国は実習生以外の外国人労働者の状況は正確に把握しておらず、新型コロナの影響で解雇された外国人は実際にはもっと多いと見られます。

感染収束が見通せない中、多くの企業の経営が悪化し、日本人の労働者も職を失うなど厳しい状況に追い込まれています。それでも少子高齢化や人口減少など日本を待ち受ける問題は変わらないことから、毛受さんはより長期的な視点で考えるべきだと提唱します。

毛受敏浩 執行理事
「移民政策を持たないまま外国人を受け入れてきたことが問題を引き起こしていて、実際には多くの外国人が日本に定住し、その子どもたちも育っている。日本の高齢化と人口減少は深刻で、外国人がいなければ社会が成り立たなくなっている。国はそのことを認識して外国人との向き合い方をしっかりと打ち出すべきだ」

農業や建設業からコンビニの店員にいたるまで、さまざまな産業が多くの外国人労働者に支えられていて、私たちの生活は外国人労働者なしに成り立たなくなっているのが現状です。

彼らは使い勝手のいい「景気の調整弁」なのか。それとも、社会をともに作っていく仲間なのか。

答えを先送りしてきた問題に、私たちはいまこそ向き合わなければならないと思います。

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