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見た目だけで判断しないで2021年1月5日 ネットワーク報道部記者 小宮理沙

彼女は周りの人とは少し違う容姿をしています。そのためにいじめにあい、偏見にさらされてきました。でも人と違うことは魅力的なこと。そう伝えている女性がいます。

「外国人に間違えられる」

「こんにちは」

約束の場所で待っていると、1人の女性が現れました。すらっと背が高く、明るい笑顔であいさつしてくれたのは、岩澤直美さん(25)です。

「外国人によく間違えられる」

事前にそう話していた理由が、一目でわかりました。

  • 両親と1歳のとき

岩澤さんは日本人の父親とチェコ人の母親の間に生まれ、日本と海外を行き来しながら育ちました。少し茶色がかった髪に、彫りの深い顔だち。

  • 4歳のとき

幼いころの写真には、満面の笑みを浮かべた愛らしい姿が写っています。でも、まわりの日本人とは少し違った外見や育ちが、彼女を苦しめることになります。

「外人」「ハーフ」と「よそ者」扱い

  • 小学2年生のとき(日本)

岩澤さんが日本の小学校に通うようになったのは、1年生の2学期のこと。ハンガリーから帰国し、大阪の小学校に転入したのです。

日本で、たくさんの友達ができることを楽しみにしていた岩澤さん。

しかし、彼女を待っていたのは、予想もしなかった厳しいことばでした。

「早く外国帰りや」

「なんで日本人ちゃうのに日本語しゃべんの?」

関西弁を話さない転校生というだけでも珍しいのに、海外からとなればなおのこと「特殊」な存在として見られたといいます。

そのうえ西洋人のような顔だちが、彼女をよけいに目立たせたのです。

同級生から投げかけられたことばの数々。

「外人」「ハーフ」と「よそ者」のように扱われ、岩澤さんの心は深く傷ついたといいます。

岩澤さん
「なぜそのようなことを言われるのか。ただ悲しい気持ちでいっぱいでした」

偏見は「不慣れ」だから?

やがて、自分なりの答えを見つけるきっかけが訪れます。

6年生のときに家族でドイツに引っ越し、インターナショナルスクールに通うようになりました。

そこには、さまざまなルーツを持つ子どもたちがいて、外見や出身を気にする人はいませんでした。

  • 中学3年生のとき(ドイツ)

岩澤さん
「どこの国の人かは一切聞かれず、何が好きで何が得意かということにみんな興味を持っていて、人種やどこから来たかに全然関心がないのかなと思ってびっくりしました。その理由をひもといていくと、さまざまな人と交流することに慣れているからなんだと気付き、小学生のときのことは『不慣れ』が原因だったと思うようになりました」

外国人や異国の文化と接する機会が少ないと無意識のうちに相手を区別し、傷つけてしまうのではないか。中学3年生で日本に帰国したあと、その考えが強まります。

「外人なのに寿司店で働くな」

高校生になり、寿司店でアルバイトを始めたころのことです。

店で接客をしていると、客から突然、胸に付けていたネームプレートを取り上げられました。

その客は、漢字で書かれた名前をみて、外国人が日本人の名前をかたっていると誤解し、腹を立てたのです。

  • 岩澤直美さん

岩澤さん
「ショックよりも怖いという気持ちが大きかったです。でもバイトに入ったばかりで大ごとにしたくなかったので、誰にも言えませんでした」

つらい体験はその後も続きました。

「外人なのに寿司を出す店で働くな」

「ヨーロッパだからビールめっちゃ飲むんでしょう」

客から「よそ者」のように扱われたり、ひどいことばをかけられたりしたというのです。

それがどれだけつらいことか、周りの人に話しても理解してもらえないと思った岩澤さんは、ただ我慢するしかなかったといいます。

岩澤さん
「悪気はないんだろうなと思いつつも結構傷ついて、バイトに行く回数が減っていって、そのうち行かなくなってしまいました」

みずから活動する決意

岩澤さんは高校3年生のとき、みずから活動を始める決意をしました。

立ち上げた組織の名前は「Culmony(カルモニー)」

さまざまな文化(culture)が調和(harmony)する社会を実現したいという願いを込めました。

  • Culmonyとしての初めての活動(高校3年生のとき)

「Culmony」では、子どもたちにさまざまな文化や価値観に触れてもらおうと、異文化に親しむイベントや学校で授業などを行っています。

  • Culmonyの活動

「外国人お断り」の張り紙

その授業を取材させてもらいました。

去年(2020年)11月まで、鳥取市内の私立中学校で2年生を対象に開かれたオンライン授業です。

授業では、外国にルーツを持つ人たちをゲストに招いて生徒を5人のグループに分け、外国にルーツを持つ人への中傷や偏見などについて考えました。

ゲストの1人として参加した、ニナ・ギャメルさん(25)はアメリカ人と日本人の両親の間に生まれ、約2年前から東京に住んでいます。

東京・新宿では新型コロナウイルスの影響で感染予防のために「外国人お断り」と店頭に紙が貼り出されているのをよく見たといいます。

張り紙をどう思うか尋ねると「よくないと思う」と答えた生徒たち。

そして、ギャメルさんは張り紙を見たときの気持ちを伝えました。

ギャメルさん
「悲しいです。どうして日本人しか入店できないのでしょうか?」

外国人のような外見ではなく新型コロナウイルスに感染しているかどうかで判断すべきだというのです。

「日本語上手ですね」そのことばで…

授業ではさらに議論を深めました。

テーマは、外国にルーツを持つ人がよくかけられるという「日本語上手ですね」ということばについて。

「コンビニで働く外国人店員が日本人の客から『日本語上手ですね。どこから来たんですか?』と尋ねられたら、どう思うと思いますか」

アメリカ人と日本人の両親の間に生まれ、京都で育った20歳の男性がゲストのグループでは、複数の生徒が「いいと思う」と肯定的に受け止めたと答えました。

ところが、男性は実は不快に感じる人もいることを知ってほしいと話し「何でだと思う?」と理由を尋ねました。

「わからない」と答えた生徒たち。

よくこうしたことばをかけられるという男性は、自分の考えを話しました。

ゲストの男性
「外国人だということをめちゃくちゃ強調しているように聞こえるんです。日本の文化になじみたいと思っている人たちは、『私たち(日本人)対あなたたち』みたいな差を感じてしまいます。自分の場合は、外国人扱いされているみたいで嫌だなと思います」

生徒の考えにも変化が見られました。

  • 男子生徒

男子生徒
「これまであまり考えたことがなかったけど、国籍やどこの生まれかということが関係ない社会にできたら、嫌な気持ちになる人もいなくなるんじゃないかと思いました」

気持ちを想像してみて

岩澤さんは、これからも子どもたちに異文化や国籍、アイデンティティーなどについて考え、多様な人たちを受け入れていってほしいと願っています。

岩澤さん
「相手を日本人だと思っている場合は、『日本語上手ですね』ってたぶん言わないと思うんです。それくらい無意識に外見で判断しているということです。外見で日本人じゃないと思ってしまうのはしかたがないとしても、どういう言動をとるのかは、その人の意識次第ではないでしょうか。相手の気持ちを想像しながら、その場その場で判断してもらえたらと思います」

2021年のことし、開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピック。

オリンピック憲章では、人種や宗教などの理由によるいかなる差別も否定する理念が掲げられています。

「外見や文化の違いなどではなくひとりの人間として向き合い、受け入れてほしい」

岩澤さんの思いが届くことを願っています。

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