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日本人よりも増加!?「外国人“依存”ニッポン」の先にある高齢化の問題ネットワーク報道部・伊賀亮人記者

この特設サイト「外国人“依存”ニッポン」に関連して、働く現場で外国人への“依存”が進む実態や、 全国で外国人の子どもたちが急増する現状について取材を進めている中で、ふと新たな疑問が浮かんできた。
「外国人の働き手と子どもがともに増えているのなら、高齢者はどうなのか?」
そこで改めてデータを調べてみると、想像を超える実態が浮かび上がってきた。

全都道府県で急増

全国に住む外国人のうち65歳以上の高齢者はことし1月時点で約17万1000人だ。これはすべての外国人住民のうち6%余りにあたり、決して多くはないようにも感じる。

そこで、この統計データをさらに細かく分析してみた。まず5年前、2014年1月と比較すると、外国人の高齢者は全国で24%増加している。

外国人の高齢者数

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」を基に作成

これを都道府県別にまとめてみるとー。

外国人高齢者は全ての都道府県で増加している。そしてこのうち実に43の都道府県では15%以上、さらに21の都・道・県では30%以上と急増しているのだ。

都道府県別外国人高齢者増加率

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」を基に作成
2014年と比較して0~15%、15~30%、30%以上に色分け

さらに市区町村別にみてみると、外国人の高齢者が増えた自治体は全国1741市区町村のうち、54%にあたる956市区町村に上っている。

市区町村別外国人高齢者増加率 ランキングTOP100

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」を基に作成
2014年と2019年を比較した増加率
2019年の高齢者住民が50人以下で増加数も50人以下の自治体は除く

日本人よりも高い増加率

次に高齢化が急速に進む日本人とも比較してみた。
まず、日本人の高齢者は3501万4000人と全年代のうち28%を占め、外国人とは比較にならないほど高齢化が進んでいる。

ただ、これを5年間の増加率にして日本人と外国人とで比較してみると、意外にも思える数値が浮かび上がってくる。

まず全国の増加率は外国人が24%と、日本人の10%よりも13ポイント余り高くなっている。
さらに都道府県別に比較してみると、実は全都道府県で外国人の高齢者の方が増加率が高くなっているのだ。

都道府県別高齢者の増加率比較

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」を基に作成

もちろん、もともとの人数が日本人の方がかなり多いので単純に比較できるものではないが、外国人高齢者も着実に増えていることが分かる。

なぜ増えているのか?

ここで新たな疑問が浮かぶ。なぜ外国人高齢者が増加しているのだろうか。

取材を進める中で、実際に外国人高齢者が増加している場所があると聞いて現地に向かった。
訪れたのは愛知県豊田市にある団地、保見ヶ丘だ。

愛知県は5年間で65歳以上の外国人が約2400人増えていて、都道府県別では4位の増加数となっている。

保見ヶ丘で迎えてくれたのは74歳の藤田パウロさん。パウロさんは日系2世のブラジル人で1990年に来日した。

「40すぎで日本に来ましたが、自動車部品メーカーに雇用されて、最初は2年契約のはずだった。それが何を勘違いしたか、もう29年目になった(笑)」(パウロさん)

保見ヶ丘の人口は約7200人。そのうち実に55%にあたる4000人余りが外国人だ。

団地を歩いているとすれ違う人の多くは日系外国人住民と思われる人たちで、看板にはポルトガル語の文字も多く見られる。

住民の多くは自動車部品メーカーで働く人たちやその家族たち。そのうち、1980年代から1990年代初期のバブル期の人手不足の中で来日したパウロさんのような日系住民が、約30年たった今、高齢化しているというのだ。

「当時は皆さん帰るつもりだったけどね。もうブラジルよりこっちの方が慣れちゃったし。知っている人の中には日本で亡くなった人もだいぶいるよ」(パウロさん)

外国人の介護をどう提供するか

10年余り前に定年退職したパウロさんが今働くのは、高齢者向けの介護サービスや障害を持つ子どもへの支援サービスを提供する事業所「ケアセンターほみ」だ。

実はこの事業所では外国人高齢者への介護サービスも提供しているという。外国人であっても3か月より長く日本に住んでいれば、介護サービスを受けられる資格がある。

そこで実際にその場に同行させてもらった。県営団地の1室で訪問介護を受けていたのは日系ブラジル人二世の四ヶ所エミリアさん(66)だ。

エミリアさんは21年前に来日。かつてはブラジルに帰ろうと考えたこともあるが、「息子を育てるため」と、自動車部品のメーカーで働き続けてきた。今は息子も成人し、自身の家族を持って離れて暮らしている。

エミリアさんはリウマチのため自分1人で歩くのもままならず、日中はほぼ寝たきりの状態が続いている。このため要介護3の認定を受けていて、週末以外ほぼ毎日、排せつケアや食事の準備、入浴の支援などの介護サービスを受けている。

通訳も外国人

しかし実はエミリアさんは、日本語を十分に話すことができない。取材に対しても日本語でコミュニケーションを取ることができたのは2、3問だった。 そこでこの事業所では日系外国人のヘルパーが必要に応じて通訳にあたっている。

この日、通訳をしていたのは並里カテリーネさん。事業所にはカテリーネさんを含めて、合わせて7人の外国人ヘルパーが所属している。

もともとは2008年のリーマンショックで仕事を失った日系外国人の労働者の雇用対策に、事業所を運営する「愛知県高齢者生活協同組合」が開いた介護ヘルパーの養成講座を修了した人たちだ。

「仕事を失い、生活に困った外国人の人たちの役に立ちたいと介護教室を始めました。それに伴って外国人住民から相談が寄せられるようになる中で、実は介護が必要な外国人の人が多くいることを知ったのです」と愛知県高齢者生協の藤井克子専務理事は話す。

失業者への支援として介護ヘルパーを養成したことが、結果として介護を受ける外国人高齢者への支援にもつながっているのだ。

意思疎通が課題に…

ただ、エミリアさんのように日本語を十分に話せないお年寄りとの意思疎通は簡単ではない。

ケアマネージャーとして介護プランを作成する藤井さんがサービスへの希望などをエミリアさんから聞き取ろうとすると・・・。病院に行った時に医師が誤った診断をしたのではないかと不信感を持ったという話や、おかゆ以外の食事もつくって欲しいという別の事業所のヘルパーへの要望を伝えられた。また、デイサービスの利用を勧めると、以前通った際に施設の職員と言葉の壁があり、コミュニケーションが取れないので行く気になれないという。

通訳ができるカテリーネさんが一緒にいられない時には、さまざまな不自由さから悩みを抱えているのだ。その一つ一つを聞いていると、この日、藤井さんの訪問は当初の予定の1時間を大幅に超えて2時間余りにおよんだ。

藤井さんは、外国人高齢者に介護サービスを提供する難しさを次のように話す。

「うちには日系外国人のヘルパーがいるので通訳してもらえますが、それでもことばからことばのやりとりで誤解を招くこともあります。それに介護保険制度は日本人でも理解がついていけないほど複雑な面があり、サービスを受けるための手続きがよく理解できていない人や、そもそも介護保険を利用できることさえ知らないという人も多くいるようです」

日本語の日常会話がままならないエミリアさん。
1人ではなかなか外出できないため、ヘルパーと一緒に近所のスーパーに買い物に行くのが何よりもの楽しみだと話してくれたが、日常生活にはどれほど苦労が多いのだろうかという思いがよぎった。

今後も増加傾向に?

それでは今後もこうした外国人高齢者は増えるのだろうか。全国に住む外国人の実態に詳しい首都大学東京の丹野清人教授は次のように指摘する。

「外国人の高齢者で最も多いのは在日コリアンの人たちです。そこに日系2世の人たちが長期滞在で入国・滞在できるようになった1990年の制度改正を受けて来日したブラジル人などが今、高齢化しているのです。地域の産業構造によっては長期的に住む人が必ずしも多くないところもありますが、外国人の定住化が進んでいる自治体では10年以上住み続けている人が5割を超えるところもあります。それに、長期的に住んでいる人の在留資格では永住資格が圧倒的に多くなっています。日本に定住する外国人は増え続けているので、今後も日本で長期間働くうちに母国の基盤がなくなり、日本を『終の住みか』にしたいという人は増えるでしょう」

統計によると、日本に住む65歳以上の外国人のうち国籍別に最も多いのは「韓国・朝鮮」で12万8000人と全体の6割を占める。

一方で5年間の増加率で見ると、韓国・朝鮮は12%なのに対して、台湾の142%や中国の89%、それにブラジルの75%などが目立つ。

国籍別高齢者増加数ランキングTOP20

法務省「在留外国人統計」を基に作成
法務省の集計方法で2013年が「韓国・朝鮮」という区分のためそれに則って比較

「在日華僑の老後」というテーマで聴き取り調査に基づいて研究する明治大学の鍾家新教授は次のように指摘する。

「戦後まもなく来日した人たちに加えて、自分も含めて1980年代以降に留学で来日し、そのまま気づけば長期間住んでいる人たちの高齢化が始まっている。中国も経済成長が進み、帰国した方がコストがかかるので、戻りづらくなっているという事情もあります」

介護通訳の育成を

介護を受ける外国人高齢者を支えようという動きも出ている。
それが「外国人高齢者と介護の橋渡しプロジェクト」だ。名古屋市を拠点としたこのプロジェクトでは、「介護通訳」を養成し介護施設に派遣している。

プロジェクトが始まったのは2015年。きっかけは代表の王榮(木下貴雄)さん自身の体験に基づく。

中国残留孤児で日本に帰国した父が高齢になり介護に携わったときの経験だ。

「父が認知症とパーキンソン病を発症し介護サービスを受ける手続きをした際、中国人の母は読み書きができず、代わりに自分が通訳をしながら進めたのですが、専門用語も多く日本語をうまく話せない高齢者だけではサービスを利用するのは無理だと感じました」

そこで王さんはNPO法人を設立し、介護に関する専門知識と語学力を持った人を「介護通訳」として養成しボランティアとしての派遣に取り組み始めたのだ。

「介護通訳」といっても公的な資格があるというわけでもなかったため、王さん自身が介護保険の制度や介護用語などを学びながら、専門家の助言を受け一からカリキュラムを作成した。 派遣先は主に介護サービスを利用する人の自宅や介護施設。訪問でのリハビリや入浴の際や、介護保険の申請の説明や介護認定の調査などで通訳を行った。

  • 画像提供:外国人高齢者と介護の橋渡しプロジェクト

まずは中国語に絞って通訳を養成したので、利用者の多くは王さんの父親と同じような中国からの帰国者や、日本で生活する中で高齢化した中国人住民だった。
プロジェクトを通じて王さんは介護通訳の必要性を痛感するともに、利用を広げる上での壁も感じているという。

「介護通訳の対象言語を増やすため、ポルトガル語やスペイン語について調査を進めています。ただ、もともとこのプロジェクトは公益財団法人の助成を受けていたのでボランティアで派遣できていたのですが、助成期間が終了したので有償化すると利用が減りました。通訳の費用は介護保険の適用対象にはならないので事業所にとっても利用者にとってもコストになってしまうのです」

老後をどう支えるのか

外国人材の受け入れをめぐる議論でよく聞くようになったことばがある。

「われわれは労働力を呼んだが、来たのは人間だった」

今回の取材の中でエミリアさんが日本語で答えてくれた次のようなやりとりの際、その言葉が頭に浮かんだ。

それは、3人の孫について質問した時。パッと明るい表情が浮かべてくれたのだ。

「お孫さんはかわいい?」
「5歳と、3歳と、赤ちゃん。カッワイイね」

国籍が違っても幸せな老後を過ごしたいという思いは変わらない。

日本で暮らし日本で働き年齢を重ねる人たちをどう支えていくのか。これからさらにそうした人たちが増えていく前に考え始める必要があるのではないだろうか。

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