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「結婚するなら、雇い続けることはできない」技能実習生の苦悩2019年5月27日 国際放送局・大野桃記者

結婚したらクビ。妊娠したら中絶を迫られた。 外部と接触できないよう携帯電話を取り上げられた。
人を好きになることも、自由に話すこともできない。 こんな耳を疑うようなことは、 実はいずれも日本国内で起きていることでした。

解雇の理由は…

「結婚するなら、雇い続けることはできない」こう社長から言われたと打ち明けてくれたのは、ケオ・サメアンさん(30)です。

縫製技術を学ぶため技能実習生として、2年前にカンボジアから来日しました。冒頭のことばは、日本で出会った日系ブラジル人の男性と交際を始めたことから、「結婚したい」と実習先に申し出た際に返ってきたものです。

ケオさんは驚くとともに、カンボジアに帰るしかないと途方に暮れたといいます。

制度上は、実習生が結婚するか否かにかかわらず、働く意志があれば実習を続けることができます。

しかし、社長の話を受けた約2か月後、ケオさんは解雇予告通知書を渡されました。その文書には「結婚すること」が解雇の理由として明記されていました。

自由が制限された生活

会社側は、このこと以外にも、実習生であるケオさんにはさまざまな制約があったそうです。住んでいた寮の中だけでなく、プライベートな生活でも自由が制限されていました。

  • ケオ・サメアンさん

「外泊はもちろん、公の場で出会った人とは会話してはいけないと決められていました。決まりだったので、彼にもそのことを伝えました。自分たちには人権がないんだと、悲しい気持ちになりました」

去年の年末に実習先を解雇され、住まいを追われたケオさん。トラブルを抱えた技能実習生を支援する岐阜県羽島市の団体に一時保護され、今は、別の縫製会社で実習を続けています。

私生活の自由を侵害

この団体で外国人労働者向けの相談窓口の責任者を務める甄凱(けん・かい)さん。30年ほど前に留学生として来日し、これまでさまざまな相談を受けてきましたが、ここ最近「私生活の自由を侵害されている」といった相談が増えていると感じているといいます。

  • 甄凱さん

「トラブルは賃金や長時間労働などの会社内のことにとどまらなくなっています。その一方で、私生活に至るまで会社の思いどおりにならないと、すぐに『解雇!』というのはひどいと思います」

NHKの取材に対して、ケオさんの実習先は「実習生が結婚をする場合、制度上、『実習生』として雇い続けることはできないと判断した」と話しています。

情報を遮断する「理由」

実習先が実習生の結婚や恋愛といった私生活の行動まで制限するのはなぜなのか。海外から日本への実習生の派遣に関わる関係者に話を聞くことができました。

実習先からすれば、技能実習生は人材不足を解消する貴重な「労働力」。一方で、実習生が外部の人と接触して情報を得ることで、よりよい環境を求めて辞めてしまうのではないかという懸念が広がっているのだそうです。

  • 海外から日本への実習生の派遣に関わる関係者

「最近よく聞くのは『待遇が悪い』といって、途中で実習生に逃げられてしまう話。外部の留学生であったり、高度技術者であったり、異なる職種や在留資格の外国人からの情報をできるだけ遮断したいというのがあると思う」

さらに恋愛を禁止することなどは、人権上、日本では難しいため、母国から送り出す際に、実習生に約束させる仕組みになっているというのです。

「こうした違法とされるような制約は、実習生との間で手書きで書面を交わし、約束させたうえで、送り出し機関側で保管しています。恋愛禁止などをしてはいけないということは、日本側の受け入れ先も海外の送り出し側も分かってはいるが、暗黙のルールでずっと前から続いているのが実情」(関係者)

国もようやく動き出したが…

こうした状況に国も懸念を強めています。

法務省や厚生労働省などは3月、実習生を受け入れる団体に対し、実習生の私生活を不当に制限するなどの違法行為を行わないよう注意を喚起する文書をホームページに掲載。しかし、これだけでは不十分だと専門家は指摘しています。

外国人の労働問題に詳しい指宿昭一弁護士は、次のように話しています。

  • 指宿昭一弁護士

「相手国との間で二国間協定を結んで、相手国にきちんとそれを守らせるように義務付けることはできると思います。相手国の送り出し機関が、保証金を取ったり、違約金を取ったり人権侵害的なルールを押しつけたときに、その機関の許可を直ちに取り消す。もっと言えば罰則を作るとか。そういうことを相手の国の政府に要求すべきです」

妊娠したら中絶を迫られた

ケオさんのほかに取材の過程で出会った実習生の中には、妊娠した結果、中絶を迫られたケースや、外部と接触できないよう携帯電話を取り上げられたケースもありました。もちろん、こうした行為は法律で禁じられています。

しかし、国や関係機関が実習生たちの生活の細かい部分にまで目を配るのには限界があり、受け入れ先の事業者任せになっているのが現状です。

また、実習生の側も解雇されることを恐れて、なかなか外部に相談できず、被害の実態が表に出にくいことも課題です。

新たな在留資格では、国は5年間に34万5000人余りの受け入れを見込んでいます。ただ、いくら日本が外国人に門戸を開放したとしても、こうした人権上の問題が解決されないかぎり、結局は、より条件のよい、ほかの国に労働力は流れ、日本に来てくれる外国人は少なくなっていくおそれがあるのではないかと感じました。