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「多様性は私たちの力だ」カナダにみる寛容政策国際部・岡野杏有子記者

2017年、アメリカのトランプ大統領はシリアなどからの難民や移民の受け入れを制限した。 この時ツイッターに「多様性は私たちの力だ」と逆に歓迎するメッセージを投稿したのがカナダのトルドー首相だ。
1867年、ヨーロッパからの移民たちが建国し、今も寛容な移民政策で知られるカナダ。
その政策からは、したたかな企業の採用担当者のような姿が見えてくる。

移民国家カナダ

カナダはこれまでに1500万人を受け入れ、今や国民の5人に1人が移民。公用語の英語とフランス語のほか、200以上の言語を話す人がいるとされ、移民の受け入れを担当する大臣もソマリアからの移民という、まさに移民が前提となった社会だ。
「移民は国を経済的に豊かにしてくれる」という考え方が、その根幹を支えている。

  • トルドー首相のツイッター

「経済移民」求む!

カナダが受け入れる移民は3とおりある。結婚などに伴う「ファミリー移民」、自国を逃れてきた「難民移民」、そして仕事を目的とした「経済移民」だ。

このうちカナダが注目しているのが「経済移民」。日本の場合、「外国人材の受け入れ」は労働力が不足する分野での一時的な受け入れにとどまっているが、カナダはこれと対照的に母国と比べてよりよい経済活動を求める移民を受け入れ、積極的に定住を促している。

受け入れは計画的で、政府は州からの要望も参考に、毎年受け入れの上限、つまり目標を議会に示すことになっている。社会保障などへの影響が出ないようにするためだ。

受け入れたい「移民」像も明確だ。どのような「経済移民」を求めるか、職歴や学歴、言語レベルなどの受け入れの条件を示し、ホームページに掲載する。まるで企業の採用計画のようだ。

受け入れにあたっての審査にはポイント制がとられている。移民を希望する人の年齢や学歴、職歴や言語レベルなどが点数化され、ポイントが高い人ほど評価される透明性の高い仕組みだ。

欲しい人材をどう確保するか

カナダの「欲しい人材を能動的に確保する」という姿勢は個別の政策にも反映されている。例えば留学生だ。カナダは人気の留学先としても知られ、昨年末に学生ビザを保有していたのは57万2000人に上る。

留学生はこれまで、カナダの大学などを卒業してもすぐ就職することができなかった。移民になるには、就労経験が必要なため、申請するためには一度国外に出て、就労ビザを取得した上で、改めてカナダに渡る必要があった。

しかし、2015年に制度を変更。これで、卒業後すぐに就職することができるようになったため、移民申請がしやすくなった。優秀な学生が流出するリスクを最小化した形だ。

さらに高齢化や地方の人口減を見据え、若い移民を地方に優先的に受け入れるプログラムも始まっている。対象となるのはプリンス・エドワード島などカナダ東部アトランティック地方の4つの州。州内の学校を卒業し、特定の事業所での就労が決まった人を移民として認定し、定住してもらうというものだ。就労経験がなくても申請できる利点があり、多くの移民受け入れにつながっているという。

緊急ダイヤルは100言語に対応

  • トロント市

積極的に受け入れた移民をカナダ社会はどのように受容しているのか。キーワードとなるのが「多文化主義」だ。

例えば、トロント市。救急車を呼ぶための緊急ダイヤルは100の言語に対応し、地元ケーブルテレビも多言語放送だ。その「多文化主義」を国として初めて打ち出したのは今のトルドー首相の父親、ピエール・トルドー首相だった。1971年、実に約50年前のことだ。

移民に自国の言語や文化に順応することを求める国もあるなか、多様な文化や価値観を受け入れる土壌が社会に根づくカナダ。しかし積極的な移民の受け入れによる社会の変化を市民がもろ手を挙げて支持しているのかというと、必ずしもそうとは言い切れないようだ。

  • ピエール・トルドー首相(右)、鈴木善幸首相(左)と

調査会社「イプソス」がことし1月に発表した世論調査の結果によると、「移民が多すぎる」が44%。「移民がカナダに好ましくない変化を与えている」が48%、「移民によってカナダ人が就労するのが難しくなった」が40%と回答している。

一方で、「移民は経済的によい」が45%、「特定の専門職不足を補うため高い教育水準や資格のある移民を優先的に受け入れるべき」が53%となっていて、国の考え方が一定の理解を得ているという側面は確かにある。

そもそも移民国家としてスタートしたカナダの積極的な移民政策をそのまま日本の現状に当てはめることは適当ではないのかもしれない。しかし移民を国の成長の原動力につなげつつ、社会の寛容性を保つことができるのか、その挑戦的な試みのモデルケースであることに違いはなさそうだ。