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災害時に外国人がどれだけ大変か知っていますか2019年1月23日 大阪局 建畠一勇記者

263万人。この数字わかりますか?
実は日本に暮らす外国人の数です。今や日本に住む100人のうち2人は外国人という計算になります。確かに都市部ではコンビニや居酒屋で店のスタッフが外国人ということも、当たり前になりましたよね。

しかし、こうした身近な“お隣さん”とも言える外国人が、地震や台風などの災害時にどうしているのか、想像したことはありますか。

国会では人手不足を背景に外国人材の受け入れを拡大するための法律が成立し、今春からはさらに多くの外国人が日本で生活するようになります。日本に暮らす外国人の防災対策はどこまで進んでいるのか、取材しました。

外国人観光客が右往左往

そもそもの取材のきっかけは去年、各地で相次いだ災害でした。私が働く大阪でも、大阪府北部の地震(6月)や台風21号(9月)など立て続けに起きました。

このときは海外からの観光客への対応が問題になりました。鉄道の運休など、災害時の情報を把握できないため駅や観光地で立往生する外国人観光客が相次いだのです。

その後、国や自治体、鉄道会社などは、多言語での情報発信など対策の強化を次々に打ち出しました。

ところが、そこで感じたのが、一時的な滞在ではなく長期にわたって日本で生活する外国人にも同じような問題が起きているのではないかということでした。そうして今回の取材は始まったのです。

震度6弱の揺れ 大阪の外国人は

まず取材したのは、最大震度6弱の揺れが襲った大阪府北部の地震のとき、大阪に住む外国人がどのような状況だったのかということでした。

ネパール出身で、大阪 豊中市に住むニローズ・シュレスターさんに話を聞くことができました。

  • 自宅でくつろぐニローズさん(中央)

「日本に来て7年目で初めて経験した大きな地震でした。住んでいるアパートの部屋の中はめちゃめちゃ。背丈ほどの棚は倒れ、中にあった食器が割れて、あちこちに散乱しました」

  • 地震直後の自宅の様子

「何より怖かったのは、家が倒壊してしまうのではないかということでした。しかし、日本で初めての大きな災害に、何をすればいいのか、どこに逃げればいいのか、全く分かりませんでした」

災害時ゆえの言葉の壁…

ニローズさんは来日前はネパールで日本語教師をしていました。取材の際も流ちょうな日本語で当時の状況を説明してくれました。

しかし、そんなニローズさんでも地震のときは災害に関する情報を十分に理解できなかったといいます。

「スマートフォンで地震に関する情報を調べていました。でも日本語の情報は専門用語が多くて困りました。『避難所』や『勧告』『緊急』といった言葉はふだん、あまり使いません。辞書を引かないと意味の分からない漢字もたくさんありました」

ニローズさんによると、長く日本に住んでいても漢字で書かれた専門的な用語は、読んだり意味を理解したりするのが難しいということでした。ニローズさんは近くに避難所が開設されていることもわからず、余震への恐怖から公園で何時間も過ごしたということです。

外国人が殺到した避難所も

大阪府北部の地震では外国人が殺到し、対応に苦慮した避難所もありました。大阪 箕面市の小学校に開設された避難所です。

「近くにある大学の外国人留学生、約140人が地震の直後から押し寄せてきました。留学生たちは、日本語の災害情報を理解できなかったため、仲間の1人が発信したSNSの情報を頼りに集まってきたようです」

話をしてくれたのは地区の防災責任者の井上芳明さんです。

  • 井上芳明さん

「多少日本語を話せる留学生がいましたが、当初は会話することもままなりませんでした。また、外国人ならではの宗教上の配慮も指摘されるまで気づけませんでした。提供する非常食は、豚肉など食事制限のある人でも食べられるのか、礼拝を行う場所を設けることはできるのか、対応は後手に回りました」

井上さんは地震後、避難所での対応マニュアルに外国人の項目を盛り込む準備を始めていると話してくれました。

外国人防災の先進地 静岡県浜松市は

災害時の在住外国人をどう支援するのか。取材を進めていくと、先進地があることを知りました。静岡県浜松市です。日系ブラジル人を中心に2万人の外国人が暮らし、南海トラフの巨大地震では津波被害が想定されています。こうしたことから外国人の防災対策に以前から積極的に取り組んでいるのです。

自治会の防災担当は外国人

取材したのは住民の4割を外国人が占めるという遠州浜地区です。最大の特徴は自治会の防災担当を外国人が務めていることです。

7年間にわたって地区の防災担当を務めている日系ブラジル人の新開清二さんに話を聞きました。

  • 左:新開清二さん

「大事にしているのは、日本語が苦手な外国人とのコミュニケーションです。家庭訪問などを重ねて、災害時の行動を伝えたり、年3回の防災訓練への参加を促したりしています」

地道な呼びかけの結果、防災訓練には多くの外国人が参加するようになりました。炊き出しでは、宗教上の配慮から豚肉を使わない豚汁を用意するなど、外国人側の視点にたった配慮も行えるようになっています。

  • 訓練で作った豚汁

「日本語が堪能でない人は地域とのつながりも乏しいですね。同じ外国人の立場だからこそ伝えられることもあるんです。日本と外国の住民をつなぐのが私の使命です」(新開さん)

外国人防災リーダー育成も

浜松市では、新開さんのような外国人の防災リーダーを育成する取り組みも行われています。

市の国際交流協会が行う研修には日本語が堪能な外国人住民たちが参加していました。取材に訪れた日は、24年前の阪神・淡路大震災を経験したペルー人の大城ロクサナさんが講師として招かれていました。

  • 大城ロクサナさん

「当時は日本語がほとんど理解できず、パニックになってしまったり、避難所での生活に苦労したりしました。災害時は外国人の視点にたった支援が必要だと思います」

研修では災害についての知識や必要とされる外国人支援の内容を専門的に学びます。そして、研修を終えると外国人防災リーダーの認定証が交付されます。これまでに研修を受けたのは9か国128人で、災害時、日本人と外国人の橋渡し役となることが期待されているということでした。

外国人防災 まずは接点作りから

浜松市での取材を終えて、私は大阪では今後どのような取り組みが必要か、豊中市の国際交流協会の山野上隆史さんに話を聞きました。山野上さんによると、大阪など都市部では特有の課題があるということでした。

  • 山野上隆史さん

「留学生や技能研修生などさまざまな目的で外国人が生活する都市部では、外国人住民が点在する形になり、つながりが薄くなりがちですね。その結果、支援の目が行き届きにくくなるおそれがあります」

山野上さんは都市部では、まずは地域に住む外国人との接点を作るところから始めなければならないと強調していました。

具体的には地域のイベントや子育てのセミナーなどです。近所にどのような外国人がいるのかを知って初めて災害時の支援を行うことができるということでした。

私たちの社会は、これからさらに多くの外国人を受け入れていく方向へと動き出そうとしています。その中では、お互いに生活や文化を尊重し、共生していくことが求められます。そのまず一歩として、災害という難局を手を取り合って乗り越える、外国人の防災対策を位置づけて、取り組んでいくことが大切だと感じました。