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平成最後の成人式に変化の波?全国で外国人急増のワケは2019年1月16日 仙台局・佐藤惠介記者 旭川局・ 山田裕規記者 ネットワーク報道部・飯田暁子記者 伊賀亮人記者

「新宿の新成人は半数が外国人ー」
日本に住む外国人が急増する実態を取材する中で、浮かび上がってきた驚きのデータ。 去年の成人式に合わせて報道すると、ネット上を中心に大きな反響がありました。
そして今年。さらに取材をすると、日本全体で二十歳の外国人は5年間で約2倍と、 東京だけではなく全国で急増していることが分かりました。各地で何が起きているのか。 外国人新成人急増の背景を取材しました。

23区は8人に1人

実は新成人の日本人と外国人の内訳がわかる正式な統計はありません。そこで冒頭の話を聞いた私たちは東京23区に聞き取りを行いました。各区では、前の年の4月2日からその年の4月1日までに20歳を迎える、つまり学年ごとに、国籍問わず区内に住む人を「新成人」としています。成人式についてもこれらの人を対象に案内状を送っているのです。

ことしの成人式の取材にあたり、昨年末、改めて取材をしたところ、23区の新成人約8万5000人のうち、実に8人に1人にあたる1万1000人が外国人でした。

詳しい内訳は、外国人の新成人が最も多かった新宿区は約1810人、次いで豊島区が約1210人、中野区が約850人、江戸川区が約780人、板橋区も約780人などとなっています。

新宿区は2人に1人 豊島区は3人に1人

  • 昨年末 取材時点の数字

また、これを外国人の占める割合で分析すると。新宿区は約2人に1人、次いで豊島区が約3人に1人にあたるほか、荒川区、台東区、中野区、北区でいずれも20%を超えています。

さらに、5年前の詳細なデータが残っている19の区について今年度と比較しました。するとすべての区で外国人の新成人が増えていて、このうち11の区で2倍以上の増加と、幅広い地域で急増していることがうかがえます。昨年度と比べても23区全体で約460人増えていて増加傾向が続いています。

新宿の成人式では

では実際の成人式はどのような様子なのか。取材したのは「2人に1人」の新宿区です。

会場となったホテルの宴会場は振り袖やスーツを身にまとった初々しい様子の新成人で埋め尽くされていました。そして一角には「交流コーナー」というスペースが設けられ、外国人の参加者向けに日本文化を紹介したりほかの参加者と交流したりできるようになっていました。

そこにはそれぞれの国の伝統衣装や振り袖を着た多くの外国人の参加者が。話を聞いただけでも、アメリカ、メキシコ、ブラジル、中国、カンボジア、バングラデシュなどと、世界各国の出身者がいました。実は新宿区には現在、約130の国の人たちが住んでいるので、こうした光景も納得ということでしょうか。

新宿区に外国人が増えている理由は、区内に大学や日本語学校が多くあることです。成人式で話を聞いた人たちも全員留学生でした。彼・彼女たちに式の感想や将来の夢などを聞いてみるとー。

「日本の文化を体験できる珍しい機会で楽しいです。日本語を勉強して大学に進学したいと考えています」(中国人・男性)

「バングラデシュでは18歳で『大人』なので2年前だったけど、式に参加して日本のルールではきょう『大人』になったと感じます。将来は日本で就職したいです」(バングラデシュ人・女性)

初めは緊張した面持ちだった参加者たちが、徐々に周りと打ち解け、一緒に楽しそうにお祝いしている姿が印象的でした。

全国でも2倍に

ではこうした現状。新宿、そして東京が特別なのでしょうか。それを探ろうにも全国の新成人の日本人と外国人の内訳がわかる統計はありません。そこで今回私たちが分析したのは、日本に住む外国人について国がまとめる「在留外国人統計」です。

この統計からは、都道府県ごとの年齢別の人口が分かります。去年6月時点では二十歳の外国人は合わせて約6万4000人。5年前と比べて3万1000人余り増えていて約2倍になっているのです。

都道府県別では、最も多いのが東京都で1万4000人余り、2番目が愛知県の5000人余り、次に大阪府が4000人余りなどとなっています。

一方で増加幅を見てみると。最も高かったのが、沖縄で2.99倍、次いで熊本が2.9倍、宮城が2.68倍など幅広い地域の県が。17の都と道、県では2倍以上と急増していて、全国各地で二十歳の外国人が急増していることがうかがえます。

【背景1】人手不足

ではなぜ二十歳の外国人が急増しているのか。増加幅が3番目に大きかった宮城県で取材をしました。

塩釜市で開かれた成人式に参加したのは2年前に来日し、水産加工会社で技能実習生として働くインドネシア人のハフィダ・リズカ・フマイローさんです。

ハフィダさんは同僚の技能実習生らとインドネシアから持ってきた伝統衣装を着て参加していました。振り袖姿の日本人の参加者と話したり記念写真を撮ったり。式のあと「日本人の着物の姿がとてもすばらしかったです。インドネシアには成人式がないので参加できてうれしいです」と話していました。

全国有数のかまぼこの生産地で、水産業が盛んな塩釜市では360人の外国人技能実習生が暮らしています。東日本大震災の後、深刻な人手不足が進む現場では欠かせない存在となっています。このため塩釜市では、地域との交流を深めてもらおうと技能実習生に成人式の案内状を日本語と英語で送ったということです。

塩釜市の高橋睦麿教育長は「外国から働きに来ている方も含めて塩釜市民なので、国は関係なく日本人も含めて皆で楽しんでもらいたい」と話していました。

【背景2】人口減少

一方、北海道中央部、大雪山の麓にある東川町では人口減少対策の一つとして留学生を呼び込み活性化を図っています。

そのため、東川町では平成27年に全国で初めて自治体が運営する日本語学校を設立し、留学生を対象に町独自の奨学金を設けるなどして受け入れを進めています。その結果、町内の外国人は去年末で380人と5年間で7倍以上に増えています。

東川町の成人式には63人のうち、韓国やベトナム、タイから日本語を学びにきた留学生や農業の技能実習生、合わせて7人も出席しました。

式の中で新成人がことしの抱負を語る一コマも。留学生らが、ややたどたどしくも「日本語の勉強を頑張りたいです」「成人式に参加できてうれしいです」などと力強く語ると、会場から大きな拍手が上がっていました。

参加した韓国の留学生、イ・ソンジェさんは「1人の大人になったなと思います。将来は日本で就職できたらいいと思います」と話していました。

また、日本人の新成人、宮坂舞花さんは「バスを利用すると、いまでは半分ぐらい外国のかたで、東川町は北海道の1都市ですが、グローバル化に貢献できているならうれしいし、こんなに日本語を学びたいというかたがいるのは感動を覚えます」と話していました。

日本人は減少傾向

二十歳の外国人が増える一方で、日本人は減少傾向が続いています。総務省によると、日本の二十歳の人口は、1月1日時点で外国籍の人も含めて合わせて125万人と推計されています。去年と比べると2万人とやや増加していますが、平成7年からは減少傾向が続き、平成に入ってからのピーク時と比べて80万人余り減少しています。

社会の一員に

日本に住む外国人の実態に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの加藤真研究員はこうした成人式の状況について「日本に住む外国人は、これまでは『顔の見えない定住化』といってなかなか触れあう機会が無い存在だったが、いろいろな言葉を話す人たちが普通に生活して一緒に働く社会という時代が到来しているということだ」と指摘します。

そして今後、外国人労働者の受け入れ拡大に伴って外国人の新成人の増加は続くと分析したうえで「共生というのは、海外の例を見ても課題が少なくなく簡単ではないことも覚悟しなければいけない。地域の担い手として外国人に活躍してもらうような取り組みや仕組み作りがこれからますます重要になってくると思う」と話しています。

日常生活の中で周りにどのくらい外国人が住んでいるかを意識する機会は少ないように思います。ただ、成人式の取材を通じて改めてその存在感の大きさに気づくとともに今後社会の中でどのような役割を果たしてもらうのかを考える必要があると感じました。

最後に、今回の取材で印象に残った新宿区での成人式の言葉を紹介します。

「式に参加して新宿の人たちみんなとつながったように感じますし、日本社会の一員になったと感じています」(アメリカ人の女性)

「日本社会だけではなく自分は世界の一員だと思っています」(メキシコ人の女性)