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「依存」の影で取り残される子どもたち

外国人がいなくては成り立たないー。
外国人が支える日本の現状について取材を進める中で数多く聞いてきたことばだ。
これまでに取材してきたのは、主に働き手としての外国人。 ところが、さらに取材を深めてみると、大きな変化が起きていることが分かってきた。
それは外国人の「子どもたち」の急増だ。 なぜ働き手ではない子どもたちが増えているのか。
日本で暮らす外国籍の子どもたちの現状からは“依存”するだけでなく、向き合わなければいけない現実が浮き彫りになってきた。

4割の自治体で増加

日本に住む15歳未満の外国人の子ども2018年1月時点で約21万4500人。
5年前と比べて3万7000人余り増えている。

その詳細を今回、取材班は独自に分析してみた。

外国人の子どもが増加した市区町村 トップ100

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」を基に作成
2013年を100とした2018年の増加率
増加人数が50人未満の市区町村は除く

実に全国の41%にあたる711の市区町村で増加しているのだ。

増えているのは都市部だけではない。
島根県、沖縄県、それに埼玉県や千葉県。全国津々浦々で外国人の子どもたちは急増していた。

増加の理由は「家族滞在」

では外国籍の子どもたちはどのように日本に来るのか。
外国人が日本に滞在するためには36種類ある在留資格のうち何か1つを取得する必要がある。

子どもたちの在留資格を見てみると増えているのが「家族滞在」だ。

「家族滞在」の子どもの数

法務省「在留外国人統計」を基に作成
15歳未満の人口のみ

これは主に働くために来日した外国人の子どもや配偶者が取得できる在留資格だ。

申請できる人は幅広い。国内の企業で働く正社員の外国人や外国料理店の調理師として働く人、大学で学ぶ留学生も。
17種類の資格を持つ外国人の子どもや配偶者が「家族滞在」で入国できるのだ。

「出稼ぎ」ではなく「呼び寄せ」

実際に「家族滞在」の一家を取材した。
新宿区に住むベトナム人のダオ・バン・トゥアンさんと妻のサーさん、そして長男のロック君。
3年前に通訳として日本企業に就職して来日したトゥアンさんが、半年前に2人を「家族滞在」で呼び寄せたのだ。
トゥアンさんは日本で家族とともに暮らすことを決めた理由を「ベトナム人の考え方では家族は一緒に暮らす、離れ離れになるのはよくない。働いて帰って奥さんの手料理があると疲れが取れる」と話す。

実はこのトゥアンさん、18年前に技能実習生として来日して金型の溶接技術を学んだあとベトナムに帰国した。
大学で日本語を勉強して、現地の日系企業で通訳の経験を積んだ。
その後、今の会社に就職したのだ。

今、こうしたケースが増加していると外国人の子どもの実情に詳しい専門家は指摘する。
「家族での来日を希望する外国人が増えていて、日本で就職した元留学生や元技能実習生など家族で来日できる在留資格を持つ外国人はそうした傾向が高い」(愛知淑徳大学 小島祥美准教授)

これまで日本で働く外国人は母国の家族に給料を仕送りする“出稼ぎ”だと言われてきた。
それが家族もいっしょに日本で暮らす“呼び寄せ”が急増しているというのだ。

5人に1人が外国人

“呼び寄せ”は「家族滞在」だけではない。
家族も含めて「定住者」という在留資格で来日できる日系人の間でも広がっているのだ。

約4300人の外国人が住む福井県越前市。大半が市内にある大手電子部品メーカーなどで働く日系ブラジル人の工場労働者だ。

今、越前市ではその子どもたちが急速に増えている。
取材で訪ねた武生西小学校では全校児童355人のうちの79人が外国人。実に5人に1人だ。
さらに毎月のように新たな外国人児童が入学してきているという。

その多くが日本語を十分に理解できないため、通常の授業とは別に特別クラスを設けている。
特別クラスでは、子ども1人に対して教員やスタッフがつきっきりで、ひらがなや数字の読み書きなど、日本語の指導にあたる。

指導したいけど…

しかし、通常の授業に目を向けると、そこには外国人の子どものことばを理解する教員やスタッフはいない。
このため、授業が中断することもしばしば。比較的、日本語を理解できる外国人の子どもがほかの子に通訳しているのが現状だ。

なぜ通訳を配置できないのか。予算の壁に直面しているのだ。
特別クラスで外国人児童の指導にあたる教員2人の人件費は国や県が負担している。
しかし、それだけでは子どもたちの急増に追いつかないため、市は独自で5人の臨時職員を雇用している。

越前市 外国人児童・生徒数と日本語指導の予算額

越前市への取材を基に作成
児童・生徒は小中学校に通う人数(左軸)
予算額は小中学校の臨時職員の人件費(右軸)

その予算が5年間で倍増し、これ以上、負担しきれなくなっているのだ。
ましてや通常の授業まではとても対応できないという。

越前市の奈良俊幸市長は、さらなる財政支出は限界だと訴える。
「この2、3年の外国人の子どもたちの増え方は急激で教育現場では十分に対応し切れていない。一方で、越前市でこのまま負担が増えることは現実的に不可能だ。国が現場に予算措置をして必要な教員が配置されるようにして欲しい」

人件費38億円 15倍に

外国人児童の指導に頭を悩ませるのは越前市だけではない。

文部科学省の調査によると、2016年5月時点で、小中学校にいる日本語の指導が必要な外国人の児童・生徒は3万1000人近くに上っている。
5年間で約6000人も増えているのだ。

日本語指導が必要な子どもが全国でもっとも多いのが愛知県だ。
県内の小中学校に通う外国人の子どもは約1万1000人いて、そのうちの6割、7000人は日本語がほとんどできない。

このため愛知県では、1992年度から国の予算上の支援も受けながら、日本語指導のための教員を小中学校に配置し今年度は542人いる。

愛知県 日本語指導の人件費

愛知県への取材を基に作成

人件費は国の負担分も含めて実に38億円余り。制度を始めた時と比べると約15倍に跳ね上がっている。

こうした状況に愛知県と群馬県、それに静岡県など、合わせて29の道と県は、国に外国籍の子どもの学習支援の充実に向けて財政措置を拡充することなどを求めている。

実態は「移民」との指摘も

前述の小島准教授は、国による仕組み作りが不十分だと指摘する。
「外国人は家族と定住化し永住を希望する人も多い。日本で育ち、日本を『地元』と呼ぶ子どもたちもたくさんいて、地域社会の中で確実に『移民』が起きている。日本語の指導が必要な子どもたちが地域で増加しているのに、対応は自治体や学校任せになっていて、国による法整備・制度が追いついていない」

子どもたちが取り残されないために

こうした状況の中、心配されるのは、子どもたちの将来だ。

話を聞いたのは、越前市の小学校に通うヴィクトル・ナカギシ君(10)。
父親の仕事のため6月に家族4人で来日。
家でも日本語の勉強を続けているが、まだ日本語を理解するのは難しいと言う。
「授業の内容は全然わからない。人でも機械でもいいから通訳がいてくれたらいいのに・・・」

話を聞いていると、突然、ヴィクトル君の目から涙があふれてきた。

「ブラジルが恋しいよ。ブラジルではたくさん友だちがいて、いつも友だちといっしょだったのに、日本ではいつもひとりぼっち・・・」

政府は今、外国人労働者の受け入れ拡大に向けて大きく舵を切った。
今回の制度改正では来日後すぐには家族を呼び寄せることはできない。
しかし、いずれは家族とともに日本で住むことを希望する人が増え、結果として家族滞在がさらに増えることも予想される。
外国人の存在に期待するだけでなく、向き合わなければいけない課題も重い。

名古屋局・篠田彩記者 福井局・藤田陽子記者
報道局・和田麻子記者 木下隆児記者
報道局 三宅明香ディレクター

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