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インバウンドは好調でも財布のひもは意外に固い2018年6月15日

去年(2017年)、日本を訪れた外国人旅行者数は2800万人以上と過去最多を更新しました。
その一方で、気になるデータが。旅行者1人当たりの消費単価は下がっているというのです。
3年前と比べると去年は47都道府県のうち、実に8割近くで消費単価が下がっています。 いったい何が起こっているのか。各地を取材しました。

観光客増も消費単価減の謎

取材したのは、九州・佐賀県。佐賀県では、年間の外国人宿泊者数が去年までの4年間で約32万人、実に6.8倍に増え、全国でトップの増加率でした。

佐賀空港にLCC=格安航空会社を誘致したことをきっかけにツアー旅行などで訪れる韓国や中国からの観光客が増えているのです。


  • 佐賀空港(平成26年)

しかし、一方で1人当たりの消費単価を見てみると。去年の消費単価は1万2602円で全国で36位でした。データがある2年前と比較すると3896円、減少しているのです。

いったいなぜなのでしょうか?記者が佐賀市中心部の商店街を歩いてみると外国人観光客の姿は見当たりません。増えているはずの観光客はどうしたのか。取材を進めると徐々に事情が見えてきました。

増えているはずの観光客はどうしたのか。取材を進めると徐々に事情が見えてきました。


午後9時すぎ。市内のビジネスホテルに韓国人観光客が続々と訪れます。これまで何をしていたのかインタビューを試みました。

しかし。韓国語が話せない記者ではうまくコミュニケーションが取れず、はっきりとは分かりませんでした。ただ、よく見ると彼らはスーツケースなどは持たず身軽な姿。すでにチェックインは済ませていてどこかから戻ってきたようです。

それを裏付けるデータも。それが訪日外国人向けの観光案内アプリのデータから旅行者が佐賀市を訪問しているタイミングを分析したグラフです。

日中は昼過ぎにかけて訪問者が減っていき、午後5時ごろから増えていきます。つまり、佐賀市に宿泊はしていても日中は他の場所に出かけている可能性があるのです。

アクセスの良さがあだに?

佐賀市は、観光客に人気の福岡県や長崎県などに近く、公共交通機関を使って40分から1時間で行くことができます。

佐賀市内にある韓国人観光客がよく使うゲストハウスに事情を聞くと、安いLCCを利用できる佐賀空港は使っても、県内には宿泊するだけという客もいて、中には深夜にチェックインして早朝に出て行く人もいるということです。

佐賀市の観光・コンベンション推進室の王丸直之室長は、「地元の観光関係者からは、せっかく来てもツアーなどで県外で買い物や観光をしていて、佐賀の消費につながっていないのではという声も上がっています」と話しています。

利便性の高い立地がかえって他県への流出を招いてしまっている可能性があるようです。

県の担当者によると、佐賀はもともと九州を移動する際に通過されてしまい宿泊者数も少なかったところを、LCCやツアー旅行の誘致などで数を増やすことに成功したということです。

ただ、今後の課題として消費単価をもっと伸ばすことが必要だととらえています。このため、県は、九州で初めて24時間365日の電話通訳システムを導入したほか、クレジットカードの決済端末の設置を支援するなどして、日中も滞在して消費してもらう仕組みづくりを進めています。


増える外国人旅行者、下がる消費単価

消費単価をどう伸ばすかは、全国的な課題とも言えます。5日に発表された観光白書によると、去年、日本を訪れた外国人旅行者は2869万人。5年前の3倍以上になりました。

一方、旅行者1人当たりの消費額は約15万円。平成27年の17万円余りから2年連続で減少しています。47都道府県のうち8割近くにあたる37の自治体で消費単価が減っているのです。

消費単価伸びている地域は?

こうした中、消費単価が伸びているところはどういうところか。消費単価の増減額の都道府県別ランキングです。

最も伸びたのは高知県で、2万円以上増えました。ほかにも1万円以上増えている県もあります。

次に、都道府県別に見た外国人旅行者1人当たりの消費額のランキングです。東京や北海道といった世界的にも有名な観光地だけではなく、高知や鹿児島なども挙がります。

一方、消費単価が低かった県を見ると。トップの東京と比べて6万円前後開きがある県もあります。

"ゴールデンルート"で爆買い!?


消費を伸ばすにはどうすれば良いのか。その鍵を探るため、注目したのは、消費単価伸び率全国トップの高知県です。

高知県は大型客船を積極的に誘致していて、外国客船の数はここ3年で約5倍になっています。ただ、客船の滞在時間は日中のわずか数時間。短い時間でどうやってお金を使ってもらっているのか?

取材した日に入港したのは、乗客2800人の豪華客船です。続々と下りてきた客が向かったのは、高知県が独自に生み出した“消費のゴールデンルート"。

客船から降りた客を県が用意した無料シャトルバスで商店街の入り口に送り、そこから観光客に人気の高い高知城まで商店街を歩いてもらおうというのです。こうしたルートを作ることで経済効果を生もうというのです。

商店街で特に人気なのは、高知特産のサンゴ製品の店です。高知県で生産される高級品の宝石サンゴは、中国人富裕層を中心に多くの観光客が買い求めるといいます。

ネックレスなどの中には100万円を超えるものもありますが、外国人客たちは値段を気にする様子もなく次々と購入していきます。多い日には1日の売り上げが数百万円以上にのぼる店も。

「おせっかい」で消費増

さらに商店街では「オセッカイスト」と呼ばれる市民のボランティアが外国人旅行者を待ち受けます。頼まれなくても「もうお昼は食べましたか?」などと、積極的に話しかけます。

いわば「おせっかい」を焼くことで、これまで外国人が行かなかったような小さな店にも旅行者を案内して買い物をしてもらうのです。

「この地域にお金を落としていただくことが大きな支援の目標です。旅行者とお店をつなぎお店の中に一歩入るというところを支援して行ければ」(オセッカイスト 田村樹志雄さん)

消費へつなげる仕掛け作りを

もはや外国人なしには成り立たなくなってきた日本の観光。消費単価が下がっている県が多いだけに、これをプラスに転換できれば、それぞれの地域だけではなく日本全体にとっても大きな経済効果につながります。

いかに外国人観光客の数を増やすかだけではなく、高知県のような観光客の増加を消費へとうまくつなげる仕掛け作りが求められている。そうした新しい段階に日本のインバウンド戦略は入っているのではないでしょうか。

高知局・谷古宇建仁記者 おはよう日本・岩野吉樹アナウンサー 佐賀局・市毛裕史記者