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お友達は外国人 国際化する保育園の現場は2018年5月23日 国際部・及川利文記者

今や、日本に暮らす外国人の子ども(5歳以下)の数は10万人以上。
どこの保育園や幼稚園でも外国人の子どもを見ることは珍しくなくなりました。
実際、私の子どもが通う保育園にも外国人のお友達がいます。 急速に進む保育園での国際化に、現場はどうやって対応しているのか?
先進的な取り組みをしている保育園を訪ねました。

外国つながりの子どもが80%の保育園

神奈川県横浜市にある、市立北上飯田保育園。園児73人のうち58人、約80%が外国人または、外国につながる子どもです。

外国につながる子どもとは、両親のどちらかが外国人か外国出身者の子どものこと。この保育園には、ベトナム、中国、カンボジアなど7か国のルーツを持つ子どもたちが通っています。

20年ほど前、このエリアに多くのインドシナ難民が引っ越してきたころから外国人の子どもが増え始めました。今では、親の就労や留学にともなって来日した外国人の子どもや、日本生まれの外国につながる子どもが増えています。


保育園では、「おはよう」と「さようなら」のあいさつは9か国語でしますが、それ以外は全員日本語で話します。0歳から5歳の子どもたちは年齢でクラスが分かれ、外国人のクラスはありません。

遊ぶのもお昼寝も一緒です。記者が訪れた日、中国から来た趙梓煕くん(5)と出会いました。2年前に入園しましたが、中国に戻っていた時期もあり、少し慣れない様子。

その趙くんと追いかけっこして遊んだり、給食中も隣に座って話しかけたりして寄り添う大人の女性の姿がありました。よくよく耳を澄ますと、会話は中国語!園の保育士ではなく、横浜市が派遣した「外国人相談員」だというのです。

鍵を握るのは外国人相談員

「相談員」は、保育園の依頼に応じて横浜市が派遣するもので、現在、ベトナム、中国、カンボジア、ラオス出身の相談員4人がいます。日本語がわからない保護者と保育園側の間の通訳や保育園便りなどの翻訳を行うほか、子どもが環境に溶け込めるまで一緒に過ごすなど、橋渡し役を務めます。

  • 入園面談

この日、新たに入園する子どもの保護者面談が行われていました。保育園側は日本人の園長と担任、保護者側はベトナム人の母親と祖母が出席。そして、もう1人。相談員のトルオン・ティ・トゥイ・チャンさん(ベトナム出身)が同席し、通訳を務めました。


園長「お子さんにアレルギーはありませんか?」

母親「ありません」

園長「食事のときはお茶は飲みますか?」

母親「お茶は子どもが飲むものではありません。ここではあげるんですか!?」

チャンさん「ベトナムのお茶と違って、麦茶といってカフェインが入っていないものをあげるので、大丈夫です」

祖母「ほかの子も飲んでいますか?」

チャンさん「ベトナムの子も飲んでいます」

祖母「ほかの子も飲めるのであれば、うちの子も飲めますね」


日本語が全くわからない祖母の顔は当初、こわばっていましたが、チャンさんがベトナム語で丁寧に説明すると、会話に加わってきました。

園長が「心配なことがあれば、チャンさんに相談してくださいね」と声をかけると、この日初めて、安心したような笑顔を見せました。

園では15年ほど前までは、外国語がわかる地域の人にボランティアで通訳をお願いしていましたが、日本語がわからない保護者が急増。対応が難しくなり、平成17年からは横浜市が予算を組んで相談員の費用を負担することになりました。

こうした先進的な取り組みは、新宿区など外国人が多く暮らす他の地域でも徐々に取り入れられています。

配慮は給食にも

保育園では、給食にも特別な配慮をしています。この日の献立は豚肉と野菜の炒め物、みそ汁とご飯。ところが、2人だけ給食が青いお盆(写真左)に載っています。

園長に尋ねると、この2人はイスラム教徒の子どもだと言います。イスラム教徒は、戒律で豚肉などを食べることが禁じられています。そこで園では、イスラム教徒の子どもには、食材を別の物に代えて提供しているのです。

この日の豚肉はツナに代わっていました。こんなことができるのは、毎月1回、保育園と保護者が面談してあらかじめ献立を確認しているからだそうです。保育園では以前、イスラム教徒の子どもには野菜だけを用意し、主菜となるおかずは家から持ってくるようお願いしていました。


しかし、保護者が忙しく、おかずを持ってこられない子どもが出てきて栄養が偏ったり、他の子と違って寂しい思いをしたりする問題が起きました。それ以来、保育園は予算をやりくりして代わりの食材を購入し、すべての子どもが給食を楽しめるように配慮しています。

異なる文化で困惑も

  • 翻訳された園便り

給食以外にも異なる文化による問題が持ち上がります。

例えば、子どもが病気になった時の対応。ある外国人の親は子どもが食べ物をもどしたりしていても、「熱が出ていないから」と保育園に連れてきたり、「かぜだから大丈夫」と言って持参した薬をみると、子どもがインフルエンザにかかっていることがありました。

日本人の私としては驚く対応ですが、「大丈夫」と思う感覚が違ったり、日本語が読めず処方された薬の中身がわからなかったり、外国人が言葉のハンデを抱えながら異なる価値観を持って生活していることを理解する必要に迫られます。

異文化を知る保育士が必要

保育園の国際化が進むなか、異なる文化や言葉を理解する保育士を育成しようという新しい取り組みが始まっています。

横浜市の「かながわ国際交流財団」は奨学金制度を設け、外国につながりがある人が保育士になるための勉強をする間、授業料の半分を支給しています。

奨学金は返す必要がなく、これまでにブラジルやペルー、フィリピンなどの親を持つ9人が奨学金を受けています。

  • 小浜ビビアナさん(写真中央)

その1人、ペルー国籍の小浜ビビアナさん(19)。日系ペルー人の父とスペイン系の母のもと、日本で生まれ育ちました。自宅での会話はスペイン語だったため、4歳で保育園に入った時は日本語が全くわからず頭が混乱したといいます。

言葉のほかにもお正月などの日本文化を知らずにばかにされたり、見た目が日本人と違うからと差別を受け、いやな思いをしたこともありました。


そんなビビアナさんの心の支えとなってきたのは、やさしく声をかけてくれた保育園時代の保育士でした。いつしか自分も同じような境遇の子どもたちの力になりたいと保育士を目指すようになりました。

ビビアナさんは「私なら外国とつながる園児と保護者の気持ちは、手に取るようにわかる。逆に日本の子どもたちには、外国の良さを伝えることができると思います」と話しています。

積極的に支援を

取材した保育園の子どもたちは、外見の違いや、宗教の違い、言葉の違いを気にするそぶりは全くありませんでした。“自分と違う"ことが差別のきっかけになることが多い世の中で、幼いころから多様な文化に触れている子どもたちは頼もしく見えました。こうした子どもたちが増えていくには、国や行政が国際化する保育園を積極的に支えることが必要だと思いました。