2023年5月23日
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ロシアへの反転攻勢 アメリカ政府高官はどう見る?

「今後、数週間から数か月が極めて重要です」

ウクライナの反転攻勢についてこう述べたのは、アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のジョン・カービー連絡広報調整官です。

アメリカの軍事安全保障政策全般に精通するカービー調整官。
バイデン大統領に同行し訪れていた広島で、ウクライナ情勢の見通し、中国や北朝鮮への対応、日米韓3か国の関係強化など、アメリカ政府の戦略を聞きました。

(聞き手:ワシントン支局長 高木優)
※以下、カービー調整官の話。インタビューは5月19日に行いました。

ウクライナの反転攻勢 ポイントは?

今後、数週間から数か月が極めて重要です。

私たちはウクライナで続く戦争において重要な転換点を迎えています。

アメリカ NSC=国家安全保障会議 ジョン・カービー連絡広報調整官

ウクライナは春を迎え、天候が改善しています。土地が乾いてきて、作戦が行いやすくなってきました。

ロシア軍はいま、特にウクライナ東部の激戦地バフムトに多くのエネルギーと兵力を投入しています。ロシア軍はこのあとそれ以外の地域、すなわち南部から東部のドンバス地方にいたるまでの広い範囲で攻勢を強めることになると私たちは予想しています。

砲撃を受けるバフムトの集合住宅(2023年5月公開)

ウクライナのゼレンスキー大統領は、自分たちも攻撃を仕掛けるための能力を手にしたいと話してきました。そしていま、彼は反転攻勢をどこで、いつ、どれだけの兵力を投入して実行に移すか、決めることができる立場にあります。

彼はウクライナ軍の最高司令官なのです。これから行う攻撃をどうするかを決めることができるのは彼だけです。

G7広島サミットで会見するゼレンスキー大統領(2023年5月)

われわれアメリカがやるべきことはウクライナへの支援を継続し、ゼレンスキー大統領が、この先何週間、何か月も続くであろう戦闘を成功させるために必要な手段、訓練、兵器システムを確実に手にできるようにすることです。

F16戦闘機を提供すべきタイミングか?

戦争の変化に応じて求められる兵器も変化します。

この戦争が始まった直後、実際には始まる前から、アメリカはウクライナに殺傷能力や防衛能力を提供してきました。

だからこそウクライナはロシアの攻撃から自国を防衛できているのです。戦争が引き起こされたからこそ、われわれはウクライナに能力を授けてきたわけです。

アメリカが供与している携行型の対戦車ミサイル「ジャベリン」

戦争が始まって最初の数週間は対戦車ミサイル「ジャベリン」、地対空ミサイル「スティンガー」などを提供してきました。

そして現在は、地対空ミサイルシステム「パトリオット」や主力戦車「エイブラムス」について協議しています。

アメリカの主力戦車「エイブラムス」

ウクライナがF16戦闘機を求めてきたこと、そしてヨーロッパの同盟国や友好国のうちの何か国かがそのことを検討していることを知っています。

われわれは明確に、そうした決断を尊重します。

「F16戦闘機」

一方で、われわれアメリカが注目しているのは、この先数週間から数か月という期間にウクライナが必要としているのは何なのか、ということです。そして、長期的に必要になるのは何なのかということについてもウクライナと協議しています。

極めて重要なのは、ウクライナを支援するすべての関係国が、戦後のこと、そしてこの先の長い期間について考えることです。

なぜなら、この戦争がいつ、どのような形で終わろうとも、ウクライナは引き続き国土を守っていく必要があります。彼らはロシアと接する長い国境線を自分たちで守っていかなければならないのです。

われわれは、このことについて喜んで議論しますし、行方を見守っていきます。

東アジア情勢 台湾有事のリスクどう見る?

われわれが最終的に目にしたいのは紛争の必要のない状態であり、あらゆる機会を捉えて緊張を和らげることが大切です。

アメリカの台湾政策に何の変更もありません。われわれは台湾の独立を支持しません。「1つの中国政策」を変えたことはありません。そして、台湾海峡をとりまく現状を一方的に変更することや、武力によって変更することを望みません。

「1つの中国政策」
中国政府が主張する「世界に中国は1つしかなく、台湾は中国の領土の不可分の一部で中華人民共和国が中国の唯一の合法的な政府だ」という「1つの中国」原則を、“認識する(acknowledge)”というアメリカ歴代政権の政策

アメリカには、台湾が自らを防衛する能力を獲得できるよう支援する責務があります。それは法律に記されています。

台湾軍による軍事演習(2022年7月)

そしてそのことには、何十年にもわたる超党派の支持があります。われわれは、「台湾関係法」やほかの関係文書に沿って台湾の自己防衛能力を支援し続けます。

一方で、台湾海峡をめぐり緊張を高めて紛争へと突入する理由はどこにもありません。このことは、公式にも非公式にも中国に対して送ってきたメッセージです。

アメリカの政策に何の変更もないのです。ですから、紛争を起こす理由は何もありません。われわれはこの問題をこれからも注意深く見ていきます。われわれは、地域の同盟国や友好国の多くが高まりつつある緊張への懸念を抱いていることを理解しています。

だからこそ、アメリカにとって、そしてバイデン大統領にとって、政策に一貫性を持たせることが重要なのです。

米中の軍どうしのホットラインは機能している?

ホットラインはまったく機能していません。

軍と軍を結ぶ連絡チャンネルは、去年8月にペロシ前下院議長が台湾を訪問したことに中国側が反発し、遮断されたままです。

台湾の蔡英文総統と会談する アメリカ ペロシ前下院議長(左・2022年8月)

バイデン大統領がいま取り組みたいことの1つは、この意思伝達のチャンネルを開通させることです。

最近、ヨーロッパのウィーンで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官が中国側のカウンターパート(王毅政治局委員)と会う機会がありました。

これは、去年秋にインドネシアのバリ島で開かれたG20サミットの際にバイデン大統領と習近平国家主席が会談を行ったときの精神に立ち返り、対話を維持するために行ったものでした。そしてわれわれはこうした取り組みを今後も継続します。

G20サミットで習近平国家主席と会談するバイデン大統領(2022年11月)

ブリンケン国務長官が以前、計画していた通りに北京を訪れる日が来ることを期待します。われわれはイエレン財務長官とレモンド商務長官が経済問題を話し合うため中国を訪問することについて中国側と協議しています。

対話のチャンネルは開かれています。対話を維持していきたいのです。対話を広げ、深めていきたいのです。

なぜ軍どうしのホットライン必要?

軍と軍の連絡チャンネルは、安全にまつわる情報を提供する手段として開通させるべきです。

緊張が高い状態においては、見込み違いが起きる可能性も高いのです。軍と軍のコミュニケーションは階級の低いレベルどうしであっても、衝突の引き金となりかねない見込み違いの可能性を取り除く上で、大切です。

軍事パレードを行う中国軍(2019年)

われわれは中国との衝突を追求しません。追求するのは競争であり、衝突は望みません。

連絡チャンネルを再び開通させることはいかなる衝突であっても回避する上で役に立ちます。

日韓関係改善の動き どう評価?

まずはじめに、岸田総理大臣と韓国のユン大統領が日韓関係を改善させるために大変な勇気と指導力を発揮されたことを称賛させてください。

韓国人原爆犠牲者慰霊碑を訪れる岸田首相と韓国 ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領(2023年5月)

われわれは、歴史は消し去ることができないことを理解しています。歴史にまつわる問題に取り組むことには時に困難が伴います。

しかし、両首脳はそれに取り組み、両国関係の改善という大変な仕事を成し遂げました。われわれはこれをとても嬉しく思っています。

バイデン大統領も日米韓の3か国関係の改善にずっと力を注いできました。

日米韓3か国の関係は?

広島でも日米韓の首脳が会する機会があり、この3か国の関係を改善させることによって得られる利点はたくさんあります。いま、その多くは安全保障の領域において語られています。

日本と韓国の両国は近代的で高い能力を持った部隊を保有しています。

日米韓による共同訓練(2023年4月)

そして岸田総理大臣と日本政府が打ち出した新しい国家安全保障戦略は作戦機能を向上させるもので、地域の平和と安定に貢献するのだという日本の決意のほどを反映しています。特筆すべきものであり、アメリカの国家安全保障戦略にうまく適合しています。

ユン大統領も韓国で新しいインド太平洋戦略を発表しましたが、これも適合性の高いものです。

ですので、3か国のあいだでは相互運用性や軍の作戦、演習、訓練などすべてにおいて能力を改善する計り知れない機会が存在し、このことは地域の平和と安定、繁栄に貢献することになるのです。

われわれはそのあらゆる利点を生かし、前進させていきます。

北朝鮮の脅威にどう対処?

キム・ジョンウン総書記は、アメリカが示している前提条件無しでの対話を受け入れ、朝鮮半島の非核化に向けた交渉に取り組むべきです。そのことこそが求められています。

アメリカの提案はいまも取り下げられておらず、キム総書記の選択にかかっています。

北朝鮮 キム・ジョンウン(金正恩)総書記

ところがそれにも関わらず、キム総書記は弾道ミサイル実験を継続し、兵器の備蓄と核兵器の能力向上を進めています。

キム総書記が対話のテーブルにつくことを望まない以上、われわれは、自国および地域の同盟国や友好国を守ることができるよう、やるべきことをやる必要があります。その結果、われわれはインド太平洋地域において、軍事的観点から能力の増強をはかりました。

北朝鮮国内やその周辺におけるインテリジェンスを収集する能力を向上させました。そしてこれまでよりももっと目に見える形で、より規模の大きい軍事演習を韓国とともに実施しています。

米韓合同軍事演習(2023年3月)

そしてわれわれは、日米のあいだだけでなく、日米韓3か国のあいだで協力関係を発展させています。

前提条件無しの対話が実現しないいま、われわれは、北朝鮮の脅威に対処できるよう、同盟国や友好国とともに、たくさんの対策を打ちつつあるのです。

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