2023年5月19日
G7 イギリス

「ロシアに無駄だと分からせる」イギリス スナク首相の決意とは?

「ロシアに、違法でいわれのない戦争を続けても無駄だと分からせる」

ウクライナに対して、アメリカに次ぐ規模の軍事支援を続けるイギリスのスナク首相はNHKのインタビューにこう話しました。

今後のウクライナ情勢の展望は?インド太平洋地域、そして中国への対応は?

G7広島サミットに出席するため、来日したスナク首相に話を聞きました。

(聞き手 ロンドン支局長 大庭雄樹)

核保有国ロシアによる軍事侵攻 G7サミットの重要性は?

ロシアによる違法かついわれのないウクライナ侵攻は、いかなる条件においても容認できません。去年特に懸念されたのは、ロシアによる「核の脅し」のエスカレーションでした。

これについて岸田総理大臣が去年のG20サミットで「そのことばづかいやレトリックは受け入れられず間違っている」と先頭に立って非難したのは正しいことでした。

その後、ロシアはそのレトリックを緩和しましたが、私たちが全く受け入れられないことをしかねない国と対じしているということを、あらためて思い知らされる出来事でした。

ロシアはいまもウクライナに対して違法な戦争を仕掛け、戦争犯罪を犯しています。

G7サミットのテーマの1つは、ウクライナがロシアを撃退できるよう、G7の国々が断固たる支援の継続で結束することです。

ウクライナは反転攻勢準備 局面変わり始めている?

わが国は主力戦車だけでなく、長い射程を持つ巡航ミサイルも供与した最初の国です。

それらはウクライナの反転攻勢の成功に寄与するもので、私がG7サミットで伝えたいメッセージの1つは、すべての国にウクライナへの支援を継続するよう促すことです。

ウクライナを訪問したスナク首相(2022年11月)

私たちは皆、この戦争に終止符が打たれることを望んでいます。

それはウクライナにとって受け入れられる結末である必要があり、そのためには、これまでと同じように彼らを支援し続けなければなりません。

私たちは、ロシアの侵攻に伴う多大な苦しみに耐えているウクライナ国民の、信じられないほどの勇気と不屈の精神に敬意を表すべきです。

多くの国がウクライナを支援するために結集していて、その中でイギリスがリーダーシップを発揮していることを誇りに思います。

イギリスによる軍事支援
2022年、ウクライナに行った支援は軍事面と経済面を合わせて38億ポンド(日本円で6400億円余り)とアメリカに次いで2番目に多くなっています。
2023年も同じ規模の支援を行う方針で、3月に主力戦車「チャレンジャー2」、5月には欧米各国から供与された武器の中で最も長い射程を持つ巡航ミサイル「ストームシャドー」を供与しました。
さらにイギリス国内ではウクライナ兵の軍事訓練を行っていて、これまでに1万5000人が訓練を終了、夏以降はパイロットを対象に戦闘機の操縦訓練を行う予定だとしています。

さらなる軍事支援に踏み切る可能性は?

戦闘機に装着される巡航ミサイル「ストームシャドー」

ウクライナはロシアのミサイルによる容赦ない攻撃を受けているため、防空能力は重要です。

また、「ストームシャドー」のような射程の長い武器や「チャレンジャー2」などの戦車は、ウクライナが軍事作戦を確実に成功させるための重要な要素です。

今月ウクライナのゼレンスキー大統領がイギリスを訪れたとき、私たちは追加支援を発表し、今後数週間、あるいは数か月以内にさらなる支援を打ち出すつもりです。

ロシアが違法な戦争を続ける限り、私たちはウクライナを支援し続けます。どこかにいなくなったりはしません。

将来的に、ロシアによる侵攻に対してウクライナが効果的な抑止力として機能するような、長期的な安全保障の協定についても、私たちはすでに検討しています。今回のサミットでも話し合われるでしょう。

ウクライナでの戦い どうすれば終結?

最終的にはプーチン大統領にウクライナから軍隊を撤退させる必要があります。彼はウクライナの主権と領土の一体性を侵害し、国民に苦しみをもたらしています。

演説するプーチン大統領 (2023年5月)

実際、ロシアの行為に対する非難は広範囲に広がっています。国連総会では140か国以上が、ロシアに対する非難決議案に賛成しました。ICC=国際刑事裁判所も、ロシアによる戦争犯罪の責任を追及しようとしています。

このように世界的に孤立していることをロシアは認識し、軍隊を撤退させるべきです。それが戦争を平和的に終わらせる最も早い方法なのです。

ロシアに、この違法でいわれのない戦争を続けても無駄だと分からせるためにも、私たちはウクライナに必要な軍事支援を続けます。

イギリスは中国にどう対応?

中国は世界秩序を再構築する能力と願望を持っている国で、その存在は私たちにとって重大な挑戦となっています。

国内ではますます権威主義的になり国外では独断的な行動をとっていて、非常に懸念すべきことです。

イギリスはこの挑戦から自国を守るために必要な対抗策を講じていますが、同盟国と協力することは極めて重要です。

今回のG7のテーマの1つは経済安全保障です。

中国は明らかに、私たちの経済安全保障にリスクと脅威をもたらしているため、日本とイギリスは同盟国と協力してその脅威から身を守ることが重要です。

両国は中国の問題、そして武力または一方的な手段による現状変更を認めず、自由で開かれたインド太平洋地域を目指しているという点で完全に一致していると思います。

インド太平洋地域の重要性とは?

インド太平洋地域は、世界の安全保障と経済においてますます重要な部分を占めるようになっています。

向こう10年間ほどの経済成長はインド太平洋地域が中心となるでしょう。安全保障面でもヨーロッパ大西洋地域とインド太平洋地域は切り離せません。

インド太平洋地域はイギリスにとって非常に重要で、この地域にもっと積極的に関与したいと考えています。

だからこそ、私たちは去年、次世代の戦闘機を共同開発するためのプログラムに、日本とイタリアとともに署名し、TPP=環太平洋パートナーシップ協定にヨーロッパから参加する初めての国となったのです。

日英円滑化協定の署名を交わした岸田・スナク両首相(2023年1月)

そして、アメリカ、オーストラリアとの安全保障の枠組みAUKUSの中で原子力潜水艦の共同開発や配備を決めました。

さらに日本の岸田総理大臣と、防衛・経済・技術面での協力を強化する新たな協定を発表しました。これらはすべて、インド太平洋地域にイギリスが積極的に関わっていることの証拠です。

私たちはこの非常に重要な地域の発展を望んでおり、日本だけでなく、この地域のほかの国々とも緊密なパートナーでありたいと考えています。

G7広島サミットどう臨む?

私が首相として日本に来るのは初めてで、G7サミットをとても楽しみにしています。

また、広島が地元の岸田総理大臣にとって、個人的にも非常に重要なことだと承知しています。

私たちが被爆地・広島を訪問し、平和公園を訪れ、歴史から学ばなければならない教訓を理解することはとても大事だと思います。

広島 平和公園で献花したスナク首相

過去の核戦争の恐怖を思い出させ、私たち全員が信じる「核不拡散の未来」への指針を与えてくれるはずです。

核保有国として核廃絶をどう考える?

イギリスは核不拡散を支持しており、その点で多くの条約に署名しています。

私たちが直面している安全保障環境を考慮すると、核廃絶はゆっくりとしたプロセスとなるでしょう。特にロシアやイランといった国々が状況を不安定化させようとするのを、私たちは見てきました。

核の開発や脅しといった行為を協力して阻止し、それが見られる場合には断固とした行動を取る必要があります。

日本国民へのメッセージは?

今日ほどイギリスと日本の関係が強くなったことはないと思います。

私は岸田総理大臣と個人的に親しくさせてもらい、共通の関心分野にともに取り組むことを楽しんできました。

日英両国はともに、自由で開かれたインド太平洋地域を信じています。

安全保障だけでなく、公正なルールに基づいた地球規模の貿易や、イノベーションを土台とする経済など、非常によく似た価値観を持っているため、パートナーシップがうまく機能しています。両国が協力すれば雇用が創出され、ともに繁栄につながります。

日本の皆さん、あなた方のすばらしい国に滞在できるのは大変光栄なことです。そして、G7サミットでの議論を楽しみにしています。

日本が主催するサミットが成功することを確信しているし、日本の人たちがイギリスのことを緊密なパートナー、同盟国、そして何よりも友人として見てくれることを願っています。

広島カープの靴下を履いて現れたスナク首相

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