2023年5月12日
NATO トルコ ロシア 中東

トルコ大統領選挙 エルドアン大統領に逆風?いったいなぜ?

ことし2月の大地震で大きな被害を受けたトルコ。

14日に行われる大統領選挙で再選を目指すエルドアン大統領に、かつてない逆風が吹いています。

20年にわたって政権の座にあるエルドアン大統領は再選できるのか。

いったいなぜ“逆風”なのか。詳しく解説します。

(イスタンブール支局長 佐野圭崇 / 国際部記者 小島明)

トルコ大統領選挙 構図は?

再選を目指すエルドアン大統領と、最大野党の党首で、6つの野党の統一候補として立候補したクルチダルオール氏の事実上の一騎打ちの構図となっています。

4人が立候補していましたが、投票を3日後に控えた11日に野党系の候補の1人が撤退を表明しました。

首相時代も含め20年にわたって政権の座にあるエルドアン大統領の長期政権の是非が最大の争点です。

そもそもエルドアン大統領とは?

エルドアン大統領は1954年イスタンブール生まれの69歳です。

イスラム教の宗教指導者養成学校を経て大学を卒業。イスラム系の政党での政治活動を行ったのち、1994年にトルコ最大の都市イスタンブールの市長に初当選しました。しかし、演説で戦闘的なイスラムの詩を朗読したことが扇動罪に問われて実刑判決を受け解任されました。

その後、2001年にAKP=「公正発展党」を立ち上げて2002年の総選挙で勝利し、翌年、首相に就任。

2014年には国民が直接大統領を選ぶ初の選挙でも当選するなど、20年にわたって政権を率いています。

“独自外交”展開するエルドアン政権

NATO=北大西洋条約機構の加盟国である一方、中国とロシアが主導する上海協力機構への加盟を示唆するなど、欧米とも中ロともバランスを取る独自の外交を進めて存在感を示してきました。

プーチン大統領との会談 2022年7月

ロシアによるウクライナ侵攻をめぐってはプーチン大統領と直接、対話できる数少ない首脳として会談を重ね、仲介役として、ウクライナ産の農産物輸出の再開を国連とともに実現しました。

一方、NATO加盟を申請したフィンランドとスウェーデンに対しては、ほとんどの加盟国が早々に支持する中、トルコは両国がクルド人武装組織への支援をやめなければ認められないとして一歩も譲らない姿勢を示し、今もスウェーデンの加盟は実現していません。

野党統一候補 クルチダルオール氏とは?

クルチダルオール氏は東部トゥンジェリ生まれの74歳です。

財務官僚として勤務したあと大学で教鞭をとるなどし、2002年の総選挙で野党CHP=「共和人民党」から立候補して初当選しました。

今回、初めて大統領選挙に臨むクルチダルオール氏は6つの野党の統一候補に指名されていて、エルドアン政権の強権的な政策やことし2月に起きた大地震への対応を厳しく批判してきました。

また、トルコでは国民投票を経て2018年に強大な権力が大統領に集中する実権型の大統領制に移行しましたが、これを元の議院内閣制に戻すとしています。

演説などで強気の発言を繰り返すエルドアン氏とは対照的に、クルチダルオール氏は選挙戦で穏やかに語りかけるような動画をSNSに多数投稿。

親しみやすさをアピールしてきたほか、イスラム教の中でも少数派の信者であることを明かし、クルド人など国内の様々な少数派に寄り添う姿勢も示しています。

選挙戦 終盤の情勢は?

5月7日付けのトルコの調査会社MAKによる世論調査の支持率ではクルチダルオール氏が50.9%と最も高く、45.4%だったエルドアン大統領を5ポイントあまりリード。

ほかの複数の世論調査でもクルチダルオール氏が数ポイントリードしているところが多くなっています。

さらに野党系の候補が11日に撤退を表明したことは、クルチダルオール氏の追い風となりそうです。

調査が都市部に偏りエルドアン大統領の支持率が実態より低いとの指摘もあり、選挙結果を予測するのは難しい状況ですが、エルドアン大統領は逆風にさらされていると言えます。

なぜエルドアン大統領に逆風?

長引くインフレと通貨リラの下落、それにことし2月にトルコ南部で発生した大地震の影響があります。

インフレ対策をめぐっては、「高い金利は経済を冷やす」と主張するエルドアン大統領の意向に沿う形で、中央銀行が物価上昇が続く中でも「利下げ」という異例の対応を継続。

去年10月には前年同月比で85パーセントを超えるインフレを記録し、食料品や公共交通機関の運賃も跳ね上がりました。

通貨リラも右肩下がりで、2年前は1ドル8リラ台だったのが今月10日は19リラ台半ばと、その価値は半分以下となり市民生活を直撃しています。

そして、ことし2月トルコ南部で発生した大地震がトルコ経済の先行きの不安に追い打ちをかけているのです。

大地震が大統領選挙にも影響?

ことし2月の大地震では、5万6000棟以上の建物が倒壊するなどの大きな被害がでていて、物理的な損害額は345億ドル、日本円で4兆6500億円あまりにのぼります。(世界銀行の推計)

南部カフラマンマラシュ中心部 5月撮影

野党候補のクルチダルオール氏は、政府の建物の耐震化への対応や初動対応の遅れが被害を拡大させたとしてエルドアン大統領を批判。

被災地のトルコ南部は保守層が多く、これまではエルドアン大統領の票田にもなってきましたが、異変が起きています。

震源に近い南部カフラマンマラシュは前回2018年の選挙でエルドアン大統領に投票した人が75%近くを占める強固な支持基盤でした。

オルハン・ヨウンさん

かつてはエルドアン大統領を支持していたという金物修理店を営むオルハン・ヨウンさん(63)は地震で自宅が倒壊しました。

店は被害を免れ、今は被災者からの依頼で鍋ややかんの修理をしてやりくりしていますが、政府からの補償は十分ではなく支援が行き届いていないと不満を募らせています。

ヨウンさん

「もっと政府としてできることが絶対にあったはずだ。被災地にもたらすべきは家を失った人に住まいを与え、働く人々を支えることだ。経済に関してはトルコがすばらしい国、強い国だとは誰も言うことができない。変化を求め、私はクルチダルオール氏を支持する」

もしも大統領がかわったら?

エルドアン大統領が“独自の外交”を展開していただけに、トルコの外交が大きく転換し国際情勢にも影響を与える可能性があります。

クルチダルオール氏は、エルドアン政権でぎくしゃくした欧米との関係改善を図るとしています。EUへの加盟にも積極的な姿勢で、トルコが障壁となっているスウェーデンのNATO加盟などにも影響しそうです。

一方で、エルドアン大統領のように強いリーダーシップで、ウクライナ情勢などでトルコの影響力を発揮できるのか、外交手腕は未知数です。

アンカラ社会科学大学 アキフ・キレチジ政治学部長

トルコの外交に詳しい専門家は、ロシアとの関係は地政学的にもエネルギー供給の観点からも断ち切ることはできないとして、親欧米路線への転換は簡単ではないと指摘します。

トルコでは1999年に起きた大地震とその後の経済の低迷への不満が政権交代につながり、エルドアン政権の誕生をもたらしました。

今回の大地震で今度は自身が窮地に立たされているエルドアン大統領が再選を果たすことができるのか。

野党統一候補のクルチダルオール氏がトルコの新たな大統領となるのか。

14日の投票で過半数を獲得する候補がいなければ、5月28日に上位2人による決選投票が行われます。

国際ニュース

国際ニュースランキング

    世界がわかるQ&A一覧へ戻る
    トップページへ戻る