
「早く現地に戻って苦しんでいる人たちの支援にあたりたい」
国連機関の職員として、スーダンで女性たちの支援にあたってきた阪上晶子さん。
たまたまスーダンを離れていたときに武力衝突が始まり、今は日本に戻って現地の支援にあたっています。
日本人の退避が完了したスーダンは今、どういう状況なのか。現地では何が求められているのか。話を聞きました。
(国際部 松田伸子)
話を聞いたのは
UNFPA=国連人口基金スーダン事務所の職員として、女性に対する暴力への対応など、現地で支援を続けてきた阪上晶子さんです。

阪上さんは2021年からスーダンで働いていて、隣国エジプトの首都カイロに滞在していたときに、今回の武力衝突が始まりました。
その後、スーダンに戻ることができなくなったため、今はいったん日本に戻り、毎日、オンラインでやり取りを行うなどして、現地に残っているスタッフたちの支援にあたっています。
※以下、阪上さんの話。インタビューは4月26日に行いました。
今の現地の状況は?
停戦協定はありますが、今も戦闘は続いていて、首都ハルツームではいたるところで激しい戦闘が行われているようです。

現地から入った情報では、大統領府の近くで空爆があったり市街地で戦闘が起こったりと非常に厳しい状況が続いています。
退避しようと空港に向かう人が少なからずいますが、空爆や戦闘に巻き込まれる危険性が高くて引き返さざるを得ないといった状況です。
市内での移動は非常に難しく、買い物に行くだけでも大きなリスクを冒して外に出ているというのが現状で、いつどこで何が起こるか本当に予測ができません。
これまでの紛争とは違う?
今回の武力衝突では、首都がターゲットになり一番ひどい状況になっているということが、これまでスーダンでたびたび起きていた紛争とは違う点です。

首都ハルツームの市内の移動は非常にリスクが高く、首都の機能がまひしています。
武装した兵士がいくつかのビルを占拠し、ビルの屋上にスナイパーが陣取って屋上から路上にいる人を撃っているのです。
攻撃も無差別で、ストリートチルドレンや路上で生活している女性など、何も抵抗できない子供や女性すらターゲットになっているという話を聞きました。
ロックダウンのような状況で、家から出られない人がかなりいます。

外に出なくても空爆やミサイル攻撃で住宅などが破壊され、自分の家を失ってしまう人もいます。そうした人たちが大量に首都から退避しようとしているような状況です。
私の住んでいる場所の隣にあった集合住宅も攻撃を受け、大家の男性とその娘さんが亡くなったと聞きました。
ライフラインの状況は?
水と電気が断続的に止まっています。
今、現地は気温が40度を超えるかなり暑い時期ですが、衝突が始まってから最初の1週間は大規模な停電が続いたそうです。
発電所の一部が機能しなくなっているため、その後も断続的に停電するなど、電力は全く足りていないような状況です。発電所が機能しないとインターネットにも影響が出ますし、携帯電話会社のネットワークも断続的にダウンするというような状況がおきています。
また、ガソリン価格がいま非常に高くなっています。物価は場所によって2倍ぐらいになっていて、ガソリンの価格はさらに高騰しているそうです。
一部では店が略奪にあって売るものがないという状況で、一刻も早い支援が必要です。

医療機関の状況は?
少なくとも14カ所の医療機関が攻撃を受け医療関係者など8人の方が亡くなっています。(OCHA=国連人道問題調整事務所の4月24日発表)
医療機関自体の破壊以外にも水や電力の不足、それに医薬品が足りないというような状況が発生しています。
薬に関しては国外から調達することが多いのですが、国外からの調達網が遮断されてしまっています。
また、国内では、調達したものをハルツームで保管しておいて地方に運ぶということが行われていますが、その国内の倉庫で略奪が起きたり空爆で被害を受けたりして貴重な医薬品が失われてしまうということも起きています。
ハルツームなどでは危なくて外出できないので、そもそも医療従事者が出勤できないという問題もあります。

医療機関もターゲットに?
今回の武力衝突では、一般市民や病院が攻撃の対象になっています。一番脆弱な人たちを救うための施設が狙われているというのは本当に悲しい状況です。
銃を持った兵士が入ってきて銃撃されるケース、ミサイル攻撃や空爆でそこにいた患者さんや医療従事者がなくなるといったケースが報告されています。

病院が攻撃されると、そこにいた患者さんは行き場がなくなり全く医療を受けられなくなるという、危機的な状況に陥っています。
妊産婦や新生児のケアは?
ハルツーム市内だけで21万9000人の妊婦さんがいて、そのうち2万4000人は数週間の間に出産を控えています。
ハルツームの病院はほとんど機能していませんし、機能していたとしても市内の移動は非常に危険なので、妊婦さんが病院にたどり着けません。
倒壊しかけの建物の中で出産する妊婦さんや、車の中しか安全なところがないので車内で出産する妊婦さんもいます。
ハルツームではないですが、銃撃戦をくぐり抜けながら病院まで30分かけて歩いてたどり着き出産したというケースもありました。

産後も電気や水、食べ物がない場合があります。
ミルクなどもないので、長期化した場合は、妊産婦や新生児の赤ちゃんの健康に影響が出ますし、無事に産まれたとしても非常な困難な状況が待ち受けています。
女性や子供への暴力の懸念は?
武力衝突が起きる前からスーダンは人道危機の状態にありました。
ことし初めの時点で推定で1580万人が支援を必要としていて、このうち310万人の女性が暴力にさらされる危険があるとされていました。そのリスクが武力衝突で非常に高まっています。

地元のNGOなどから寄せられた情報では、女性に対する暴力は大きく3つのタイプがあります。
1つは、ハルツームから移動するときに武装した兵士などによって性暴力などを受けるケース。女性や子供が移動する際にそうした暴力を受けたというケースが報告されています。
もう1つはハルツーム市内で特に多いのですが、ロックダウンのような状況なので、家の中での家庭内暴力が非常に増えているという報告があります。
そして、最後に、水や食料などを取りに外出したときにその途中で被害にあうといった報告も増えています。
支援の態勢はどうなっている?
残念ながら、今のところ十分とは言えません。私も本当はスーダンに残りたかったのですが、このような状況でやむを得ず海外から遠隔支援することになりました。
国連職員は外国籍の職員は全員退避ということでスーダン人の職員が現地に残っていますが、ハルツームにいる職員は非常に厳しい状態で他の州に退避する人もいます。
一方で、スーダンの人の助け合いの精神が見られることもあります。
商店が牛乳を小さなトラックに積んで、街中で人々に無料で配っているような光景もあります。近所の町内会のようなものがあって、助け合っていると言います。

また、アプリが新しく立ち上がっていて、必要なものとそれを持っている人をつなぐような役割をしていると言います。
ただ、助け合いだけで解決できる問題ではなく、人道支援が非常に必要な時期なのですが、やはり態勢が非常に厳しい状況にあるというのも事実です。
一刻も早く停戦が実現して、国連などの人道支援機関も含めて、早く戻れるような状況になることを望んでいます。