2023年2月21日
プーチン大統領 ウクライナ ロシア 習近平国家主席 中国 アメリカ ヨーロッパ 中国・台湾 注目の人物

「ロシアに“負けない戦い”から“勝つ戦い”へ」 アメリカ前国防長官の提言とは?

「ウクライナの戦場は第1次世界大戦と酷似している」

こう着状態が続くウクライナでの戦闘について、こう指摘するのはアメリカのトランプ前政権で国防長官を務めたマーク・エスパー氏です。

湾岸戦争に従軍し陸軍長官も務めたエスパー氏はこの1年の戦いをどう見ているのか。ウクライナに巨額の武器を支援してきたアメリカに戦争終結の見通しはあるのか。話を聞きました。

(聞き手 ワシントン支局長 高木優)
※以下、エスパー氏の話

この1年アメリカはうまく戦ってきたか?

私はもっとうまくやることができたと考えています。

NATO=北大西洋条約機構とアメリカが主導した西側諸国は、ロシア軍を押し返しウクライナを支援するという点において、うまくやってきたと言えるでしょう。

ただし、ウクライナに提供した主要な武器システムが届くのが遅すぎました。決断に時間がかかりすぎ、ウクライナ軍が勝利するためのすべを身につけて速やかに進軍することができなかったのです。

アメリカ マーク・エスパー前国防長官

確かに西側の結束は非常に固く、注目に値するものでした。結束はヨーロッパやアメリカ、NATOにとどまらず、オーストラリアや日本、韓国、そして中南米諸国にまで及びました。

西側のほとんどの国々がウクライナを支え、ロシアによる違法で正当性のないウクライナへの侵略を押し返したのです。

徐々に武器のレベルを上げるやり方は有効か?

私はそうは思いません。

ウクライナに少しずつ武器システムや兵器を提供するというやり方は、ウクライナが負けないようにするには十分であっても、ウクライナが勝利するには速さが足りません。

私の見立てでは、高機動ロケット砲システム=ハイマースはもっと迅速に提供するべきでしたし、パトリオットミサイルも戦車もそうでした。

高機動ロケット砲システム=ハイマース

戦車について言えば、ヨーロッパが提供するものは配備までに数か月とまでは言わなくとも数週間はかかりますし、アメリカが提供する戦車に至っては数年かかります。ロシアは今まさに、春期の攻勢をかけようとしているのに、です。

私の抱く懸念は、ロシアがまもなく始める攻勢を押し返すのに十分な数の戦車や戦闘用車両が、ウクライナに届かない事態です。

こう着状態の戦闘の流れを変える鍵は何か?

鍵を握るのは、ウクライナ軍が戦車を素早く操り、敵陣に入り込むことができるかどうかです。

現在のウクライナの戦場は、第一次世界大戦と酷似しています。

つまり、4、5か所の塹壕を掘って歩兵がにらみ合い、砲兵隊が対決するという戦場です。

こうした手詰まりのような状況は、第2次世界大戦になって、装甲した戦闘部隊が航空機などの支援を受けて俊敏に動き、それに伝統的な火力を組み合わせることで克服されました。

ドンバス地域や、最終的にはクリミア半島にそうした部隊を投入できれば、ロシア軍の攻勢に対して反撃し、短期間のうちにロシア軍を押し返すことができるでしょう。

イギリスが供与を表明した戦車「チャレンジャー2」

さらには、西側の高度な戦闘機をウクライナに提供することも必要です。

これによりウクライナ軍はウクライナの領空からロシア軍の航空機を追い出すとともに、機甲化した部隊が前進する先にいる標的をたたくこともできるのです。

高度な武器の供与がプーチン大統領を刺激することはないか?

ありません。願わくば、プーチン氏が道理をわきまえてくれることを望みます。

ロシア プーチン大統領

「プーチン氏はこの戦争に勝てない」という道理です。西側が一段と武器や支援物資の提供を増やせば、それが可能です。

いまロシアは何に束縛されることもなく戦っています。

彼らは戦車、戦闘用車両、弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人機、すべてを利用しているのです。

ウクライナ国内を飛行するロシアの戦闘機

ところが私たちは、ウクライナに同等の兵器を渡していません。これは事実上、ロシアに「聖域」を与えているのと同じです。ですので、ウクライナを単に延命させるだけでなく、本当に戦争に勝たせたいのであれば、もっとやれることがあるのです。

この紛争は21世紀に入って初めての、ロシアや中国のような専制主義国家と、アメリカ、NATO、日本、韓国などの民主主義国家が対峙たいじした戦いなのです。それが今、まさに起きているのです。

だから私たちは結束し続けなければなりません。

私たちの友好国を支援し、独裁者たちを押し返さなければならないのです。

軍事支援を減らすよう主張する共和党議員もいるがどうか?

そのような議員は共和党にも民主党にもいますが、いずれも少数派です。

そうした声がまさることはないと思います。ほとんどのアメリカ国民、そしてほとんどの連邦議会議員は、不当に領土を侵略し、脅しをかけるような大国から、若い民主主義国家を守ることの重要性を認識しています。

ウクライナ ゼレンスキー大統領の演説を聞く米連邦議会議員(ワシントン 2022年12月)

もちろん、支援する国々で汚職が起きていないか、物資がきちんと扱われているかを監視すべきだという声は的を射ています。それが議会の役割です。

しかし、私たちアメリカはウクライナへの支援を継続します。バイデン政権も何度もそのことを強調しています。私はとにかく、武器や弾薬の輸送を急がなければならないと考えています。

プーチン大統領が核兵器使用 どんな状況か?

私は、そうなるかもしれないという仮定の話をするのが嫌いです。

私はプーチン氏が核兵器を使用するとは思いません。彼は核兵器の使用をほのめかし続けるでしょうが、核兵器を使うとは考えていません。

プーチン氏が核兵器について語るとき、注意を払うことこそ必要ですが、私たちは過剰な懸念を抱いたり自制したりするべきではないのです。

ロシアによるICBM=大陸間弾道ミサイル発射実験(2022年4月)

プーチン氏は「国家としてのロシアが脅威にさらされれば、核兵器を使う可能性がある」と述べましたが、誰もロシアの人々や政府に脅威を与えていません。

私たちがやりたいのは、違法に侵略したロシアを領土から追い出せるようウクライナに手段を与えるということだけです。

ことし中に戦争が終わる可能性はどれくらいあるか?

戦争は何が起きるかわかりません。意志と意志のぶつかり合いなのです。

プーチン氏は西側の政治的、物質的支援がどこかの時点で弱まると踏んで賭けに出ているのです。

私たち西側諸国の確かな手応えは、ウクライナが私たちの武器、弾薬で戦い続けるであろうということです。西側による武器の提供が速やかであればあるほど、ウクライナがことし、ロシアを領土から追い出す可能性が高まります。

少なくともウクライナ南東部のドンバス地域からは確実に追い出すことができ、南部のクリミア半島も、ロシアは必死に守るでしょうが、可能かもしれません。

ことしの終わりまで、まだ10か月あまりあります。
いま重要なのは、西側諸国がウクライナへの支援を弱めないことであり、その決意をクレムリンに示すことです。そして武器、弾薬などの運搬を加速させれば、ウクライナはやるべきこと、やりたいことができるようになります。

日本の果たすべき役割は?

日本が、軍事支援であっても財政支援であっても、また、人道支援であっても、ウクライナへの支援を表明することは、世界に正しい政治的なシグナルを送り、ウクライナが戦い続ける上で必要な手段を提供することにつながります。

私は日本、そして岸田政権が、同盟国や友好国を支援する上での憲法上の制約を見つめ直し、対GDP比で防衛予算を大幅に増やす判断をしたことを賞賛したいと思います。

このことは、日本が、そして願わくば日本の国民が、私たちは今、“専制主義”対“民主主義”という21世紀の壮大な戦いのなかにあることを認識していることの証しだと思います。

地球のもう片方の側を見てください。アジア地域で、もしかしたら中国による台湾侵攻が起き、ヨーロッパの支援を求める事態が生じるかもしれないのです。

そのときヨーロッパ諸国は立ち上がらなければなりません。なぜなら、私たちは民主主義のもと、皆つながっているからです。私たちは皆、共通の価値観、共通の利益を持っているからです。

私たちは、共産党が支配し、自由と民主主義が認められないような世界で生きたくありません。今はまさに私たちが共有する歴史のために立ち上がり、民主主義を支えるための大事な瞬間なのです。

ウクライナ情勢が台湾めぐる問題に影響するか?

まず初めに、私は“台湾有事”が差し迫っているとは思いません。起こりそうだとも思いません。

可能性はあると思いますが、その予定表を知るのは習近平国家主席だけです。

仮に習主席が予定表を持っているとしたら、私は一歩引いた立場から「何か行動を起こすよりも前に、まず中国人民解放軍の能力を疑い、軍の指揮官たちの主張を疑うべきだ」と助言するでしょう。

軍事パレードに参加する 中国 習近平国家主席(2019年)

もしプーチン氏がウクライナ侵攻前日の2月23日にさかのぼって、ロシア軍の将軍たちが主張したこと、すなわち、首都キーウを速やかに制圧し、ウクライナの国民を簡単に掌握できるという主張について再考していたら、異なる判断に至っていたことでしょう。

習主席は再考すべきですし、台湾のような若い民主主義に対して行動を起こせば、西側諸国が立ち上がることになり、何の利益ももたらされないと認識するべきです。

もし中国が台湾に侵攻したり、台湾を脅迫したりすれば、経済制裁、金融制裁、個人への制裁、外交上の制裁など、ロシアがウクライナを侵攻したことで経験しているのと同じあらゆる制裁が、中国に対して科せられます。そして結局のところ、台湾を掌握することなどできないと私は思います。

台湾も、掌握されないためには、やらなければならないことがたくさんありますし、私たち西側諸国も台湾の背後で結束することが求められます。 習近平氏は行動を決断する前にこうしたあらゆることを考慮する必要があると思います。

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