2023年2月20日
韓国 北朝鮮 朝鮮半島

主役は娘とICBM? 北朝鮮軍事パレードを読み解く

北朝鮮は、2023年2月18日にICBM=大陸間弾道ミサイル級の「火星15型」1発、20日には「超大型ロケット砲」と呼ぶ短距離弾道ミサイル2発を発射する訓練を行ったと発表しました。

これに先立ち、北朝鮮は朝鮮人民軍の創設から75年となった2月8日に首都ピョンヤンで軍事パレードを実施しました。およそ10か月ぶりとなるパレードで特に注目を集めたのが、キム・ジョンウン(金正恩)総書記の娘と、北朝鮮として初めてとなる固体の燃料を使うICBM可能性がある新型のミサイルでした。

核・ミサイル開発を推し進めるなか、軍事パレードのねらいについて、2人の専門家に解説してもらいました。

(中国総局 石井利喜)

最後に登場した迷彩柄の新型ミサイル

防衛省の元情報分析官で軍事アナリストの西村金一氏は、軍事パレードに登場した兵器の中で、特に注目すべきなのは、新型の片側9輪の移動式発射台に搭載された迷彩色のミサイルだとしています。

パレードの最後に登場した新型ミサイル

Q. 軍事パレードで注目した兵器や演出は

最も注目したのは、新型の弾道ミサイルです。片側9輪の移動式発射台に搭載されていて、2017年に発射されたICBM=大陸間弾道ミサイル級の「火星15型」よりは大きく、北朝鮮が保有する最大のICBM級「火星17型」よりは全長が短いとみられます。形はロシアのICBM「トーポリM」に似た作りになっています。「トーポリM」は固体燃料を使うことから、北朝鮮の新しいミサイルも固体燃料式のミサイルの可能性があります。ただ、ミサイルはキャニスターと呼ばれるケースの中に入れられるため、詳細はわかりません。

軍事アナリスト 西村金一氏

Q. 北朝鮮は固体燃料式のICBMの開発を「国防5か年計画」で掲げています。固体燃料のミサイルを開発する意図は何ですか

液体燃料を使うミサイルは燃料の注入から発射まで数時間かかることがあるとされます。また、腐食もしやすいので、すぐに発射しないといけません。さらに、液体燃料を入れる給油車やそれに付随する部隊も一緒に動くため、敵に発見されやすくなります。これに対して固体燃料は一定期間入れておくことができます。発射までにかかる時間は数十分ほどと、大幅に短くなるとされます。アメリカやロシア、中国のICBMは固体燃料のため、北朝鮮も手に入れたいのです。

Q. 北朝鮮への抑止力の強化を進める日米韓3か国にとって、どのような脅威がありますか

地上にあるミサイルと空中にあるミサイルを撃つのは、どちらが簡単かというと、地上の方が簡単です。ステルス機で発射地点に潜入して、地上にあるミサイルを攻撃すれば済む話です。北朝鮮のねらいは、山の中のような場所に隠れて敵に発見されずにミサイルを発射することで、固体燃料式ならそれが可能になります。さらに、立て続けにミサイルを発射して同時に相手を攻撃する「飽和攻撃」も可能になります。パレードでは10基以上のICBM級のミサイルを登場させましたが、アメリカに対して「これだけのミサイルを撃ち込めるぞ」とアピールしたかったのでしょう。北朝鮮のICBM級のミサイルには移動式の発射台が大きすぎて機動性が悪いなどの課題がありますが、固体燃料式のICBMによって北朝鮮のミサイルの脅威度は一段と増します。

パレードに登場した火星17型

Q. 北朝鮮は軍の部隊を改編し、「※戦術核運用部隊」が初めて軍事パレードで登場しましたが、そのねらいは

この部隊は「超大型ロケット砲」と呼ぶ短距離弾道ミサイルを運用するとみられます。戦術核の部隊を作ることで「全国各地に部隊が配置されていて、いつでも実戦で対応することが可能だ」ということを見せようとしています。「超大型ロケット砲」は射程が300キロほどです。アメリカがウクライナ軍に供与した、精密な攻撃が可能だとされる高機動ロケット砲システム=ハイマースよりも射程が長い。さらに、GPSを使って誘導するため、命中率も高い。パレードではこのほか、対戦車ミサイル「ジャベリン」のような兵器を持っている部隊も確認できます。北朝鮮としてはウクライナ侵攻を念頭に「戦争でも使える兵器だぞ」というメッセージを込めたのでしょう。その一方で、ウクライナ侵攻で大きな被害が出ているとされるロシア製の古い戦車などの兵器は登場させていないことも注目しています。

北朝鮮が「超大型ロケット砲」と呼ぶ短距離弾道ミサイル

※戦術核運用部隊とは
2022年10月に初めて存在を明らかにした部隊。当時、アメリカの原子力空母を動員し日本海で共同訓練を行った日米韓3か国に「警告を送るため」として、7回にわたり戦術核兵器の使用を想定した弾道ミサイルを発射した。

キム総書記の娘が初めてパレードに出席。後継者?

今回の軍事パレードで同じく注目を集めたのが、キム・ジョンウン総書記の娘です。

キム総書記の娘が初めて公開されたのは2022年11月、「火星17型」の発射実験のときでした。この3か月の間に6回動静が伝えられたことになりますが、市民が参加する行事に姿を見せたのは今回が初めてです。

キム総書記が娘を登場させたねらいについて、北朝鮮政治が専門の慶應義塾大学の礒﨑敦仁教授に聞きました。

慶應義塾大学 礒﨑敦仁教授

Q. キム総書記の娘についてどのような印象を受けましたか

「尊敬するお嬢様」という言い回しで、リ・ソルジュ(李雪主)夫人とは別格で特別な人物として演出されていたように思います。キム総書記と2人でひな壇に立ちましたが、北朝鮮の人々がこうした映像を見た場合、極めて特別な人物として認識するでしょう。

パレードに出席したキム・ジョンウン(金正恩)総書記と娘

Q. 「尊敬する」という敬称はどれくらい重みのあるものですか

わかりやすいのは、キム総書記の妹、キム・ヨジョン(金与正)氏には「尊敬する」のような敬称はつきません。キム総書記が父キム・ジョンイル(金正日)氏の後継者に決まり表舞台に登場した頃につけられた敬称が「尊敬する」でした。キム・イルソン(金日成)主席、キム・ジョンイル総書記、そしてキム・ジョンウン総書記と3代にわたって続く北朝鮮の最高指導者には、最も重みのある「偉大な」のほか、「敬愛する」という敬称がつけられます。10歳前後とされる子どもに「尊敬する」とつけたのは極めて異例です。

Q. 表舞台に最高指導者の子どもを登場させるにはとても早い印象があります

そのとおりです。ジョンイル氏はキム総書記が9歳の時に後継者にしようと決めたと言われていますが、それがすぐに公にはなりませんでした。結局、かなり後になってから出てきました。キム総書記の娘は10歳前後とみられていますが、表舞台に出てくるのはかなり早い動きだと思います。

Q. 韓国の情報機関・国家情報院はキム総書記には3人の子どもがいるとしていて、軍事パレードに登場したのは「ジュエ」という名前の第2子とみられるという見方を示しています。後継者なのでしょうか

後継者だと確定的に言える段階ではありません。留意すべきことは、未確認の情報が1人歩きしてしまっているということです。果たして何人子どもがいるのか、彼女は第2子なのか。そもそも「ジュエ」という名前も公式には発表していません。北朝鮮では最高指導者の後継者を話題にするのはタブーです。今後は、彼女がどのような場面で、どれくらいの頻度で登場するか、敬称に変化はあるか、さらに称揚する歌などが流布されるかを見極めていく必要があります。

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