
「プーチン大統領は新たな攻撃を計画しています。そう遠くない時期に」
日本を訪れたNATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長はウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について、そう語りました。
世界最大の軍事同盟のトップは今後のウクライナ情勢をどう見ているのか。そして、ロシア、中国にどう対峙しようとしているでしょうか?
(ブリュッセル支局長 竹田恭子)
NATOトップが6年ぶりに日本訪問
アメリカやヨーロッパ各国など30か国が加盟する世界最大の軍事同盟NATO。
そのトップ、ストルテンベルグ事務総長が1月30日から2月1日まで日本を訪問しました。
岸田総理大臣などと会談し、ウクライナへの支援を続けることの重要性を訴えたストルテンベルグ事務総長。

NHKとの単独インタビューや都内での講演で何度も強調していたのは「この戦争でプーチン大統領を勝たせてはいけない」ということでした。
※以下、インタビューや講演の内容などをもとにストルテンベルグ事務総長の発言をまとめました。
ロシアのウクライナ侵攻どう見る?
これまで何十年にもわたって続いてきた世界の秩序が危機にさらされています。

ロシアと中国を筆頭に、権威主義的な国がこれまでの秩序に抵抗しています。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻はヨーロッパの平和を打ち砕きました。
北朝鮮はむこうみずなミサイル発射で世界の安全を脅かしています。テロや気候変動、サイバー分野での脅威や核拡散などの世界的な課題も増しています。
これが新たな安全保障の現実なのです。
なぜウクライナへの支援続ける?
ウクライナでの戦争は単にヨーロッパの危機なのではありません。世界の安全保障と安定に対する挑戦です。
もしプーチン大統領が勝利すれば、中国の習近平国家主席をはじめ世界中の権威主義的な国の指導者に「軍事力を使えば欲しいものが手に入る」という危険なメッセージを送ることになります。

そうすれば世界はより危険になり、わたしたちはより攻撃を受けやすくなってしまいます。
ウクライナが確実に、占領された領土を解放し、ロシアの侵略者たちを押し戻し、独立した主権国家として勝利できるよう、ウクライナに兵器や弾薬の供与などの軍事支援を行うことが極めて重要なのです。

ウクライナは緊急に追加の兵器を必要としています。
ロシアという侵略者を退ける唯一の方法は強力に武装した軍です。ウクライナはNATO水準の近代的な重装備を必要としているのです。
今後どう支援を強化する?
NATO加盟国やウクライナの間で継続して協議がおこなわれています。

協議の過程では、国によって評価もさまざまですから、今の時点で次に何を供与するのか、言うことはできません。
NATOはこれまでウクライナに前例のない支援をしてきましたし、最近では装甲車や戦車の供与などでさらに支援を強化しました。
支援を続けることが必要です。
NATO加盟国は今後もウクライナを支えていきます。ウクライナが独立した主権国家として勝つよう支援することが、私たちの安全保障上の利益だからです。
重要なのはこの戦争が始まってから「NATO加盟国が常に結束してきた」ということです。これが支援のカギであり、ロシアに向けたメッセージです。
ウクライナ情勢 今後の見通しは?
プーチン大統領は新たな攻撃を計画しています。その攻撃がいつか具体的には踏み込みませんが、そう遠くない時期にです。
和平に向けて準備しているきざしはなく、逆に戦争の継続に向けた準備を進めています。追加動員の可能性もありますし、兵器の増産も試みています。

イランや北朝鮮からも兵器を調達しています。
プーチン大統領がウクライナを支配するという目標を変えた兆しはありません。ロシアは隣国の行動をコントロールできる、今とは違うヨーロッパを求めているのです。
ウクライナ侵攻の教訓は?
私たちはウクライナでの戦争から「レアアースやエネルギーなど重要物資の調達において、権威主義的な国に過度に依存することは危険だ」という教訓を学びました。
ヨーロッパで今起きていることが、明日、東アジアで起きる可能性もあります。
中国はNATOの敵ではありませんが、彼らがますます攻撃的な主張を強め、威圧的な政策をとっていることは、インド太平洋の安全保障にも、北大西洋の安全保障にも影響を及ぼします。

NATOの加盟国はこれからも中国と貿易をしますが、安全保障にどのような結果をもたらすか考慮し、今後私たちの利益に反する使い方をされる可能性がある技術は中国に輸出しないようにする必要があります。
中国とはどう対峙していくのか?
中国との対立を求めているわけではありませんが、中国は私たちの安全保障や価値観、利益に難題をもたらしていると言わざるを得ません。
中国はますます、権威主義的な勢力になっていると認識しなければなりません。
香港だけでなく国内のいたるところで人権を弾圧しています。新たな近代的な戦力、NATOの加盟国を射程におさめる長距離ミサイル、核兵器、AIなど革新的な技術を使った先進的な兵器などに大幅に投資しています。
南シナ海での領有権を主張し、台湾を威嚇しています。
これらはすべて私たちの安全保障にかかわります。インド太平洋地域はもちろんですが、NATO加盟国にとっても、です。サイバー空間、アフリカ、北極圏で中国の存在があり、ヨーロッパの重要インフラを支配しようとしています。

中国は私たちに近いところまで来つつあり、NATOにとって関係ないというのは誤りです。安全保障は世界的なもので、地域的なものではないのです。
私たちは日本を含むインド太平洋の友人たちと連携し対処しなければならないのです。