2022年11月16日
台湾 中国 アメリカ 中国・台湾

元国務副長官「5年以内に台湾有事も」中国とどう向き合う?

「2027年までに台湾有事が到来する一定の理由がある」

こう語るのは、アメリカの国務副長官や国防総省の幹部を務めたリチャード・アーミテージ氏です。

長年、アジア外交や安全保障政策に深く関わり、知日派でもあるアーミテージ氏。

その目にいまの米中関係はどう映り、両国の今後をどうみているのか、聞きました。

(聞き手:ワシントン支局長 高木優)

※以下、アーミテージ氏の話

コミュニケーションが滞る米中、どうみる?

私たちは競争すべき分野では競争し、対抗すべき分野では対抗すると言ってきました。両国を完全にデカップリング(切り離し)することなど不可能です。

しかし、AI=人工知能や半導体の製造といった分野で、アメリカが中国に支配されるような事態は確実に避ける必要があります。私は中国と良好な関係を保てるよう望みます。しかし、習近平国家主席と、中国政府こそがいま、それを難しくしています。

習近平主席 2022年10月

興味深いのは、習氏が、世界のもう片方で、ロシアのプーチン大統領と同じような態度をとっているということです。プーチン氏はNATO=北大西洋条約機構がロシア国境に迫ることを嫌い、ウクライナを侵略しました。その結果、かえってNATO諸国がロシア国境に迫るという事態を招きました。

習氏は南シナ海で他国の海軍が活動することを望みませんでしたが、(人工島に基地を造るなどした)結果として、アメリカ、日本、フランス、ドイツ、イギリス、カナダ、オーストラリアといった国々の部隊が、かえって南シナ海に展開する事態を招きました。

南シナ海に中国が建設した人工島 ファイアリークロス礁 2019年撮影

習氏が、友好的なふるまいをしてこそ友好国を引きつけられるのだと学ぶまで、この困難な状況は続くでしょう。

10月の中国共産党大会で注目した点は?

中国共産党大会 2022年10月 人民大会堂にて

共産党大会を通じて、私たちはいくつかわかったことがあります。

1つ目は、習氏は、国内にたくさんの問題を抱えているのだということです。新型コロナウイルスの封じ込め、経済状況の悪化、水不足、農業の不振、気候変動の原因となる公害などです。習氏は本来はもっと対外面に時間を割くべきでした。

2つ目は明確に感じたことですが、習氏は経済のことを全く気にかけていないということです。彼のチーム(指導部)のなかに、著名な経済専門家は1人も入りませんでした。彼はどうやら中国の経済をほったらかしにして、一番後回しにしようとしているように感じます。

習氏は「台湾統一」を最優先に考えているか?

習氏が最優先にしているのは自分自身ですが、その次は明らかに台湾問題です。彼は蔡英文という、非常に有能な台湾総統が、もうすぐ任期を終えることを認識しています。

蔡英文 総統

ですので、いまアメリカでは、蔡英文氏の任期が終わる今後2年以内か、もしくは、2027年までに、習氏が台湾をめぐる現状変更を試みるのではないかという見方が出ています。それが現実となるのかは私にはわかりません。

しかし、習氏はみずからのレガシー(遺産)を必要としており、2027年というのは彼の3期目の任期の最後の年にあたるのです。習氏の心の中には、そのころ、行動を起こす一定の理由がありそうです。

バイデン政権の“3つのC”対中政策への評価は?

3つのC=協力(Cooperation)・競争(Competition)・対抗(Confrontation)

明らかにうまく機能していません。ただ一方で、中国も台湾に攻め込んでいないし、尖閣諸島に対する圧力も実際には少し和らいでいます。それらを総合して見れば、バイデン政権の対中政策は、期待されたほどではないにせよ、許容可能なレベルです。

私は、アメリカ中間選挙を経て、バイデン政権は中国により強い態度をとることを余儀なくされると思います。なぜなら少なくとも議会下院は、野党・共和党に主導権が移るとみられるからです。

議会共和党は中国に、もっと対抗することを望んでいます。

共和党が議会の主導権を握った場合、どう変化?

AI=人工知能や半導体の製造などの分野で、より強力な制裁措置をとるべきだという圧力が強まるでしょう。そして、議会は台湾への支援をさらに強化するとみています。

半導体国産化促進法案に署名するバイデン大統領 2022年8月

ただ、その支援のしかたは気をつけるべきです。議会は、台湾に実質的な支援を行うよりも、中国の目に指を突きつける(=中国をことばの上で挑発する)ことにより熱心です。

私自身は、アメリカは持ちうるエネルギーのすべてを、2つのこと、すなわち、①台湾の軍事力を一段と効果的なものにすることと、②台湾の経済状況を一段と引き上げること、に注ぐべきだと考えています。

議会上院の外交委員会で可決した「台湾政策法案」どう見る?

「台湾政策法案(Taiwan Policy Act)」=台湾への軍事支援を強化する法案で、9月に議会上院外交委員会は超党派による賛成多数で可決。台湾に対して5年間で65億ドルの軍事支援を行うことや軍事的な関係強化につながる、NATO=北大西洋条約機構の非加盟の主要な同盟相手と同等に扱うことなどが盛り込まれている。

台湾を訪問した米ペロシ下院議長と蔡英文総統による会談 2022年8月3日

台湾への軍事的支援については心の底から賛成しており、懸念はしていません。

私が懸念しているのは、この台湾政策法案のなかの、単にことばの上で象徴的なことを言っているにすぎない部分です。ものごとの象徴化(シンボリズム)は、ときに2300万の台湾の人々のためにはとても重要です。しかし、その象徴化は、中国をことばの上で挑発することではないはずです。

台湾の軍事演習 

もっと大事なのは、台湾がより効果的にみずからを防衛できるように備えることです。それはすなわち、防空システムや機雷などの武器を提供して、台湾を本当の意味で支援することです。そうすることにより、中国は武力を行使したくても行使できなくなるのです。

台湾は山がちな地形であり、台湾海峡の水深の浅さも攻撃を難しくしています。もしも、アメリカが台湾に必要な武器を提供し、中国に動きを察知されない能力を身につけさせれば、中国が攻撃を仕掛けても、台湾政府はすぐに中国側を混乱に陥れるでしょう。

バイデン氏は有事の際の台湾防衛に言及。「1つの中国」政策との整合性は?

「1つの中国」政策…「台湾は中国の一部だ」と主張する中国の立場を認識するというアメリカの歴代政権が引き継いできた政策。

バイデン大統領は幾度にもわたり、アメリカ軍を台湾防衛のために投入するという考えを示しています。そしてそのつど、ホワイトハウスは「『1つの中国』政策に変更はない」と説明し、いくらかの混乱を呼び起こしました。

これは悪い兆候ではありません。私が思うに、バイデン大統領は本当にそのように考えています。

しかし、アメリカの政治システムでは、軍を動員したり、戦闘に投入したりするには議会の承認が必要です。許可が下りて初めてOK、となるのです。

ですから、私は現時点ではまだ、「あいまい戦略(※)」に変更はないと捉えています。

しかし、もしも習氏と彼の部下らが、台湾をいじめ続けるのであれば、戦略の変更はありえます。でも、それはまだ起きていません。

「あいまい戦略」…「戦略的あいまいさ」とも言われるアメリカの戦略。台湾をめぐり軍事介入するかどうかの態度をあらかじめ明確にしないことで、中国による台湾の武力統一を抑止するとともに、台湾による一方的な独立も抑止するという戦略。

「あいまい戦略」も含めた対中政策、ワシントンでの議論は?

バイデン大統領が「われわれは台湾を防衛する」と言い、ホワイトハウスが「いやいや、まだそんな段階ではない」と否定することこそが、今日の「あいまい戦略だ」と言う人たちがいます。これは単なる冗談ですが、いまワシントンで行われている議論は、どうやって台湾への軍事支援をもっと迅速に行うのか、どうやって中国との間の軍事的な不均衡を埋めるのか、というものです。

ホワイトハウスと議会の間に温度差はありますが、それは「緊急性」に対する理解の部分です。議会の方がホワイトハウスより、もっと緊急性が高く、早く行動を起こすべきだという認識が強いといえます。

中国が台湾統一に乗り出したら台湾を防衛するか?

常にいくつかの仮説上の質問が存在します。答えられればよいのですが、私には答えようがありません。

ただ、アメリカがどう対応するかを決めるいくつかの要素があります。例えば、中国の側から台湾を攻撃すれば、アメリカはとても強い対応をするでしょう。

しかし、もし台湾の側が先行して一方的に独立を宣言すれば、アメリカの対応はさほど強くないかもしれません。つまり、その時の条件次第なのです。

中間選挙の結果が米中のパワーバランスに及ぼす影響は?

アメリカ海軍 原子力空母艦「ロナルド・レーガン」上のF/A-18戦闘機

それはありません。なぜなら、私たちには同盟関係があります。私たちは日本や韓国、オーストラリア、クアッド(日・米・豪・印)などとの関係を今後も維持し続けますから、軍事的なパワーバランスが変わることはありません。
さらに経済的なパワーバランスについては、アメリカと日本という世界第1位と第3位の経済大国が同盟関係にあります。中国はこのことを考慮に入れざるを得ません。

私たちには中国と向き合う上で険しい道のりが待ち受けていますし、それは容易なことではありませんが、戦争が起きるようなことはないと思います。

米中関係の今後の展望は?協力は?

米中首脳会談にて バイデン大統領と習近平国家主席 2022年11月14日

荒れた険しい道を歩むことになります。中国がいまのような行動を続けるのであれば、さらなる制裁措置を科すということも含まれます。

一方で、気候変動対策や感染症をめぐっていくらかの協力をすることもあるかもしれません。中国は新型コロナ対策でみずからを損ないました。おそらく中国は、国際社会からもっと学ぶべきことがあるでしょう。こうしたことはいずれ明確に答えがわかります。

しかしながら、私が予想するところでは、これから数年間は険しい道が待っています。そして、それにはかなりの外交手腕が必要となります。

いまのアメリカとロシアの関係は「冷戦」に近いでしょう。しかし、アメリカと中国の関係は「冷戦」とは言えません。なぜなら、米中両国は互いに依存し合わなければならないからです。ただ、かなり冷え込んだ関係ではあります。

北京市内中心部 高層ビルの下を行き交う人々 2021年

中国は大勢の国民を成功裏に導くことができていません。国家の運営がうまくいっておらず、これからもっと大きな課題を抱えることになります。

それに引き換え、アメリカと日本は、かつてないほど関係が深まっています。日米両国はいま、課題に立ち向かう上で、よりよい状態にあるのです。

アメリカと中国が協力できるかどうかは、習氏が何が中国の利益になると考えるかによるのです。                   

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