2022年11月11日
ウクライナ ロシア

「動員は明白な殺人」不安と不満を募らせるロシアの市民たち

「戦争に行くくらいなら、刑務所に行った方がまし」

「この政権が終わってほしい」

ロシアのプーチン大統領が踏み切った予備役の部分的な動員に、ロシアの市民たちが明かしてくれた思いです。

ロシア国内では、抗議活動が相次いだり、招集を逃れようと市民が周辺国に出国する動きが広がったりしています。

動員について、どう受け止めているのか。SNSで反戦を訴えていたロシア人3人に、考えを聞くことができました。

※取材に応じてくれた方は、安全のため匿名としています。

(国際部記者 松田伸子)

質問項目は?

今回、SNSを通じて連絡を取ったロシア人3人には、以下の質問をしました。

1.プーチン政権が動員を発表したことをどう受け止め、ウクライナで戦う義務があると思いますか?
 
2.自身、家族、知人が招集される可能性や、すでに招集された人はいますか?
 
3.動員の発表で生活や社会全体に変化がありますか?
 
4.抗議活動と、それを取り締まる動きについて、どう感じていますか?
 
5.プーチン政権に求めることはなんですか?

「戦争に行くくらいなら、刑務所に行った方がまし」

男性 52歳 サンクトペテルブルク在住 フリーランス

1.プーチン政権が動員を発表したことをどう受け止め、ウクライナで戦う義務があると思いますか?

動員は、プーチン氏の政治的利益のみを考えて発表されました。彼は、この“恥ずべき戦争”に負けることができないのです。それは彼にとって、政治キャリアの終わりであり、政権の完全な崩壊を意味するからです。

私は、ロシアが崩壊する可能性は非常に高いと考えています。ロシア連邦を構成するいくつかの共和国では、すでに抗議活動が起きています。私はこの戦争に反対です。この政権に反対です。

戦争に行くくらいなら、刑務所に行った方がましです。

2.自身、家族、知人が招集される可能性や、すでに招集された人はいますか?

私自身も動員される可能性があります。

モスクワやサンクトペテルブルクでは、軍の担当者が、街を歩いている男性に声をかけたり、アパートに踏み込んだりして、招集しています。私の家にも先週3回、誰かが訪ねてきました。私はドアを開けず、居留守を使いました。

早朝に2回、午後に1回来ました。この方法がいつまで有効かは分かりませんが…。今のところ、私の親戚や友人たちは誰も連れて行かれてないですが、みんな私と同じように目立たないように行動していたからです。

3.動員の発表で生活や社会全体に変化がありますか?

社会の不満が高まっています。特にロシア連邦を構成する共和国においてです。この政権に対する不満や抗議は、まだ、始まりに過ぎません。

これからさらに広がり、政権にとってはダメージとなるでしょう。一方で私の人生は、困難なものになっています。

私は以前から(出国禁止令が出ているから)国外に出ることが不可能でした。そして、今度は、私の年齢や健康問題の悪化とは関係なく、いつ捕らえられ、戦争に駆り出されるのかわからない状況なのです。

4.抗議活動と、それを取り締まる動きについて、どう感じていますか?

抗議活動は、残酷に打ち砕かれるでしょう。すでに先日、各地で起きたデモ隊と治安部隊の衝突では発砲がありました。これまでのところ、治安部隊は空中に向けて発砲していますが、近いうちに抗議している人たちが撃たれるのを見ることになるでしょう。

私は、プーチン氏を支持する人の中からも抗議活動が起きることを期待しています。侵攻が始まって以来、反戦デモを行っているのは、反対派ですから。

おそらく、プーチン氏の支持者たちは、自分たちが崇拝してきた人が、何をもたらしているのか、ようやく理解し始めたのだと思います。

だって、彼らの中にも、明らかに死ぬ覚悟ができていない人は大勢いるでしょうから。あと、徴兵を行ったり、志願者の募集・登録をしたりする軍の事務所では、放火が相次いでいます。

5.プーチン政権に求めることはなんですか?

望むことはひとつだけ。

この政権が崩壊し、戦争犯罪者のプーチン氏、その友人、関係者らが国際法廷の被告人席に座ることです。

「動員は明白な殺人」

女性 20歳 トベリに住んでいた(現在は出国)

1.プーチン政権が動員を発表したことをどう受け止め、ウクライナで戦う義務があると思いますか?

私は、この血にまみれた戦争でロシアのために戦う必要があるとは思いません。

この戦争は、主権国家の領土を占領し、民間人を殺害するという、ロシアのファシズムの現れなのです。軍隊が頼りにしている多くの男性たちも、この戦争を望んでいません。

ロシア南部にあるダゲスタン共和国でも抗議活動が起きています。多くの人は動員に反対しているか、政府のやり方に無力感を覚え無関心でいるかのどちらかです。

少なくとも私の周りでは、動員を支持する人はあまりいません。

2.自身、家族、知人が招集される可能性や、すでに招集された人はいますか?

私の父と叔父は、動員されると思います。すでに動員された人たちがどうなっているのかは、SNSで少し情報が流れてくるだけで、詳しい情報は全くと言っていいほどありません。

3.動員の発表で生活や社会全体に変化がありますか?

あまりにもショックが大きすぎて、心を落ち着けるためにたくさんの薬が必要になるようになりました。気が狂いそうになるのです。

今回の動員は、明白な殺人であり、大量虐殺です。

ロシアにはエベンキという少数民族がいるのですが、今、彼らも動員されています。ロシアの血塗られた歴史の中で、少数民族は迫害されてきたのです。そして今、ロシアはエベンキの人たちを永久に滅ぼそうとしているのです。このことに、とても胸が痛みます。

社会は不安に包まれています。軍の徴兵事務所に火を付けようとしたり、多くの都市でデモが起きたりしています。

エベンキの人たちと同じ少数民族のブリヤートやダゲスタンの人たちは、動員に強く抵抗していて、とても誇りに思います。彼らの抗議は注目すべきです。

カディロフ氏(※)に支配されているチェチェン共和国でさえも、女性も出てきて抗議をしています。拷問、レイプ、死をちらつかせて脅迫されている中で、とても怖いだろうに。

※カディロフ氏
プーチン大統領に強い忠誠心を示す武闘派の側近。ロシア南部のチェチェン共和国の指導者で、ウクライナへの侵攻では戦闘員を率いて、ウクライナの東部の要衝マリウポリでの戦闘などに参加している。

4.抗議活動と、それを取り締まる動きについて、どう感じていますか?

抗議デモがあると、私はうれしくなります。

私はこの政権が心の底から嫌いです。

この政権は、私からあまりにも多くのものを奪いました。私は自暴自棄になり、自殺を考えるほどです。

なぜならとてもつらくて、怖いからです。

そして、多くの人が先の見えない日々を送っています。せいぜい1日か2日先くらいしか見通せないのです。

5.プーチン政権に求めることはなんですか?

早くプーチン氏がいなくなってくれればいいと思います。そして、この政権が終わってほしい、壊れてほしい。

この血塗られた政権はあまりにも多くの人を殺しました。途方もない数の人たちを殺し、希望を打ち砕き、社会を弱体化させました。本当に嫌いです。崩壊しなければならない政権です。

「望むのは、政権の崩壊」

男性 37歳 モスクワ在住 IT技術者

1.プーチン政権が動員を発表したことをどう受け止め、ウクライナで戦う義務があると思いますか?

私は否定的な態度をとっています。今の状況では、国民を動員することは、たったひとりの願望に過ぎません。

ただ、多くの人はプーチン氏を選んでいないし、彼にそのような決定をする権限を与えたつもりはないのですが。

プーチン氏への支持を拒否する人を罰するために、動員するのです。

2.自身、家族、知人が招集される可能性や、すでに招集された人はいますか?

家族の誰かが間違いなく動員されるでしょうし、招集令状を受け取った知人もいます。連絡をとっていないので、どうなっているのかはわかりません。

3.動員の発表で生活や社会全体に変化がありますか?

9月上旬には、動員することを予想していました。独立系メディアのニュースを読めば、9月20日には戒厳令か、動員のどちらかが行われることが明らかになっていたのです。

4.抗議活動と、それを取り締まる動きについて、どう感じていますか?

抗議を避けることはできません。いくらテレビで戦争のプロパガンダを流しても、社会の中には今回の戦争への支持はほとんど広がっていません。

反対する人たちを罰する法律が、すべての立法の規則や手続きを守らず、正常な議論も行われず、ものすごいスピードで成立しています。

5.プーチン政権に求めることはなんですか?

最低でもこの戦争を終わらせること。そして本当に望むのは、政権の崩壊と、裁判による国の指導者の断罪です。

※予備役の部分的な動員
プーチン大統領は、9月21日に予備役を部分的に動員すると表明。

30万人にのぼる予備役の動員について、10月14日にはすでにおよそ22万人を招集し、今後2週間で完了するという見通しを示している。首都モスクワの市長は17日、招集が完了したと発表。

ロシア政府は、招集される対象は予備役で、学生、高齢者、家族の介護やケアをする必要がある人などは、招集しないとしている。

ただ、ロシアの独立系メディアは、優先的な招集の対象ではない人も動員されていると指摘し、プーチン大統領も持病がある人や対象年齢を過ぎた人なども動員されているとした上で「誤りがあったとすれば正さなければならない」と、動員の過程で誤りがあったことを認めた。

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