2022年10月25日
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ロシアとイランが接近、今なぜ?自爆ドローンとは?深まる懸念

「きょう、ミサイルとイランの無人機の両方を撃墜した。
 残念ながらすべては撃ち落とせなかった」

ウクライナのゼレンスキー大統領は、10月20日に公開した動画でこう述べました。

ロシアが攻撃に使用していると指摘されるイラン製のドローン。
ロシアとイランの接近への懸念が強まっています。

イラン製の自爆型の無人機とは?なぜ今、両国が近づいているのか?

イラン製ドローンの自爆攻撃

ウクライナの反転攻勢を受けるロシアが今、巡航ミサイルとともに攻撃で使っている武器の一つが自爆型の無人機です。

ドローンによる攻撃から逃げるキーウの人々 2022年10月17日

イギリス国防省は、ロシア軍がミサイルとともにイランが供与した自爆型の無人機も使ってウクライナ全土への攻撃の頻度を高めていると指摘。ウクライナ軍も、ロシアがイランから調達していると指摘されている自爆型の無人機「シャへド136」について、9月13日以降、あわせて223機を撃墜したと主張しました。

さらに、アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は20日、記者団に対し、ウクライナの首都キーウなどで続いたロシアによる攻撃について、ロシアが一方的に併合した南部クリミアにいるロシア軍が、イラン軍の兵士の支援のもとでイラン製の自爆型の無人機を操作して行ったという見方を示しました。

イラン製の無人機「シャヘド136」とは?

ロシア軍が戦場で多用しているとウクライナ政府に指摘されている「シャヘド136」。いったいどのような武器なのか。

イランは中東有数の軍事大国で、近年、とりわけ無人機の開発に力を入れています。隣国のアフガニスタンでアメリカ軍が使っていた無人機を回収して研究するなどして、設計技術を習得し、開発を進めてきました。

開発した無人機の一つが「シャへド136」です。

ミサイルなどの兵器を搭載しているのではなく、無人機自体が爆薬を積んだまま、標的に突撃して爆発するもので、2021年12月にイランの精鋭部隊・革命防衛隊が行った軍事演習でもこの無人機が使用されている様子が公開されています。

イラン側はその性能など詳しいことは明らかにしていませんが、イギリス国防省やアメリカのメディアによると、飛行可能な距離は2000キロ前後と推定されています。1機ごとの攻撃力は限られるものの、大量に飛ばすことで、一部の機体が相手の防空システムをかいくぐり標的を目指す運用のしかたが特徴だということです。

なぜ、ロシアとイランが接近?

欧米との対立が一段と深まる中、ロシアが関係強化に力を入れている国の一つが中東の大国であるイランです。イランは、ロシアと同じようにアメリカと激しく対立する一方、ロシアとは伝統的に友好関係にあります。

2022年7月19日テヘランを訪問したプーチン大統領、ハメネイ師(中央)、ライシ大統領(右)

それを象徴するかのように、プーチン大統領は2022年7月、軍事侵攻後、旧ソビエト諸国以外では初めての外国訪問としてイランを訪問。最高指導者ハメネイ師やライシ大統領と相次いで会談しました。

プーチン大統領は、イランとの経済や安全保障などの分野で協力を深めることで一致し、イランの実権を握るハメネイ師から直接、侵攻に踏み切ったロシアの立場への理解を取り付けました。

また、ともにエネルギー大国であるロシアとイランは、原油や天然ガスなど、エネルギー分野で協力を深める姿勢を示しているほか、いずれも欧米の経済制裁を受けるなかで通貨ドルを排除した取引を模索するなどして経済的な結びつきを強化し、アメリカに対抗しようとしています。

ロシアはこれまでも、イランに地対空ミサイルシステムを売却するなど軍事面でも関係を築いてきました。そして、ウクライナの戦況が長期化する中、ロシア軍は深刻なミサイル不足に直面していて、今度はロシアが、高い軍事技術をもつイランとの関係を利用しようとしているとみられています。

“ウィンウィン”の関係?イラン側も期待

一方、イラン側でもアメリカによる経済制裁が続き各国との取り引きが厳しく制限される中、ロシアとの経済面での関係強化に期待が高まっています。

商談会の様子 2022年9月テヘラン

首都テヘランでは9月19日、ロシアからこれまでで最大規模となる65の企業が参加する経済視察団が訪れ、商談会が行われました。

そこにイラン側からは、農業や製造業、それにITなど、さまざまな分野からおよそ650社の経営者らが参加する盛況ぶりとなりました。

特派員が話を聞いた一つが、テヘラン近郊に工場を構える機械メーカーです。従業員は16人で、製紙工場で紙の原料などを圧縮するのに使われる機械を製造しています。

制裁の影響で、質の高い欧米製の部品の輸入が難しいなか、部品のおよそ8割は国産、残りは中国などから調達しているということでした。

今回の商談会を通じて、ロシア企業との協力を深め、質の高い部品の輸入を増やすとともに、最新技術を提供してもらい製品の機能を向上させることなどを期待しています。

経営者のハッサン・ガマリさん
「制裁のおかげで輸出も輸入もできず、まるでフェンスに囲まれているように外の世界とつながることができません。ドイツや日本が持つような世界の最新技術を導入したくてもできない中、ロシア企業が良い技術を持っていたらぜひイランで利用させてもらいたい」

イラン税関によると、去年の貿易全体に占めるロシアとの取り引きは輸入が3%ほど、輸出が1%ほどですが、両国の間では商談会のように制裁を回避して取り引きの拡大を目指す動きが出ているといいます。

現地の専門家も両国の接近は必然だという見方を示しています。

イランの経済アナリスト、マフムーディアスル氏
「イランとロシアはともに石油製品の生産国としてライバル関係にもあるし、互いの市場などについて理解し合うにはまだ時間はかかる。しかし、アメリカによる制裁の影響で西側の企業が撤退してしまったため、イランはより安定的なパートナーを求めている」

“血にまみれたカネだ” 非難強まる

こうしたロシアとイランの接近を、アメリカやウクライナは強く非難しています。特に、無人機は、ウクライナのエネルギーなど電力設備の攻撃にも使われているとみられ、各地で停電のおそれがでています。

寒い冬が本格化する中、市民生活への影響の懸念が強まっています。

10月19日の記者会見

アメリカ国務省パテル副報道官

「ロシアがイランから入手した無人機を使って、意図的かつ残酷に、ウクライナの市民や

 重要な民間インフラ施設を攻撃しているという十分な証拠がある」

「ロシアが、ウクライナへの不当かつ残酷な侵略のために、イランのような国に頼り続けていることは世界にとって大きな問題だ」

ウクライナのゼレンスキー大統領(10月19日、カナダのテレビ局のインタビューで)

「彼らは公には『何も売っていない』として否定しているが、

 インフラ施設や学校、大学で何百もの攻撃を受けた。

 エネルギーのシステムを止められたことで市民が冬を越せなくなっている」

「イランは、ロシアに無人機を供与し、それがウクライナ人を殺害している。

 イランが得ているのは、血にまみれたカネだ」

“無人機の供与”両国は否定

ただ、イラン側はロシア軍がウクライナへの攻撃に使っている無人機を供与しているという指摘について否定しています。

イラン外務省 キャンアニ報道官(10月17日の記者会見)

イラン外務省 キャンアニ報道官
「イランは、ウクライナとロシアの戦争でどちらの側にも立たないし、いずれに対してもいかなる武器も供与していない。」
「何十億ドル分もの兵器などを戦争当事者の一方に供与してきた国々が、もう一方への供与を非難するのはブラックジョークだ。」

また、ロシア側も指摘する欧米への非難を強めています。20日に緊急に開かれた国連の安全保障理事会のあと、ロシアのポリャンスキー国連次席大使は、記者団に対し、会合の中で欧米側から証拠は示されなかったとした上で、「欧米は偽の情報を流してロシアとイランに同時に圧力をかけようとしている」と主張しました。

さらなる軍事協力も?警戒強まる

今後、どうなるのか。ロシアがミサイル不足に陥る中で、イランとの軍事強力を加速させる可能性があると指摘されています。

さらに、ウクライナ情勢に、核開発問題を抱えるイランを巻き込んだかたちとなり、中東全体の不安定化も懸念されます。

EU=ヨーロッパ連合とイギリスは20日、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対して無人機を供与し、ウクライナの領土の一体性と主権、独立を損なったなどとして、イランに対して制裁を科すことを決めました。制裁の対象となるのは、1つの団体と3人で、EU域内とイギリス国内の資産が凍結され、渡航も禁止されます。EUは、制裁対象の拡大も視野に入れているとしています。

アメリカもロシアとイランの双方に対してさらなる制裁を科していく考えを示すとともに、ウクライナに対する防空システムの供与など、追加の支援について国防総省が検討を始めています。

 

ウクライナのゼレンスキー大統領

「ロシアがイランに支援を求めたということは、軍事的かつ政治的な破たんを認めたことにほかならない」。

「そうした支援は、戦略的にロシアの助けにならない。ロシアが敗北に向かっていることと、テロの共犯者として誰かを引き込もうとしていることを示すだけだ」   

         

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