2022年10月4日
ウクライナ ロシア

ロシア 予備役の部分的な動員 市民はどう思っているの?

9月21日にロシアのプーチン大統領が踏み切った予備役の部分的な動員。

抗議活動が相次いだり、招集を逃れようと市民が周辺国に出国する動きが広がったりしています。

こうした中、ロシア人は今回の発表をどう受け止めているのか。

SNSで反戦を訴えていたロシア人2人に、考えを聞くことができました。

※取材に応じてくれた方は、安全のため匿名としています。

(国際部記者 松田伸子)

質問項目は?

今回、SNSを通じて連絡を取ったロシア人2人には、以下の質問をしました。

1.プーチン政権が動員を発表したことをどう受け止め、ウクライナで戦う義務があると思いますか?

2.自身、家族、知人が招集される可能性や、すでに招集された人はいますか?

3.動員の発表で生活や社会全体に変化がありますか?

4.抗議活動と、それを取り締まる動きについて、どう感じていますか?

5.プーチン政権に求めることはなんですか?

※予備役の部分的な動員
プーチン大統領は、9月21日に予備役を部分的に動員すると表明。ロシア政府は、招集される対象は予備役で、学生、高齢者、家族の介護やケアをする必要がある人、子どもが4人以上いる家庭の人などは、招集しないとしている。

ただ、ロシアの独立系メディアは、優先的な招集の対象ではない人も動員されていると指摘し、プーチン大統領も持病がある人や対象年齢を過ぎた人なども動員されているとした上で「誤りがあったとすれば正さなければならない」と、動員の過程で誤りがあったことを認めた。

招集される人数について、ロシア国防省は30万人という規模を示しているが、ロシア独立系メディアは、優先的な招集対象ではない人も動員され、100万人に上る可能性があると伝えている。

「足の骨を折る方法について話している」

男性28歳 モスクワに在住していたIT技術者(現在は出国)

1.プーチン政権が動員を発表したことをどう受け止め、ウクライナで戦う義務があると思いますか?

国は、さまざまな公的サービスを利用している国民には、国のために戦う義務があると言いたいかもしれませんが、そのサービスは国民から集めた税金で行われているものです。だから、国民と国の間に貸し借りはありません。

それに、私は収入の4割ほどを税金として納めていますが、税金は誰かのヨットや豪邸を買うために使われていて、市民の生活向上や、幸福や自由の享受のためには使われていません。

2.自身、家族、知人が招集される可能性や、すでに招集された人はいますか?

私の周りで招集されたのは2人います。そのうちの1人は、私が“同志”のように慕っていたおじさんです。もう1人は友人の同僚です。招集があり、断ることはできなかったそうです。彼が今どうしているのか、誰もわかりません。

ですから、私も招集される可能性は高いと思います。政府は、IT関連の仕事に就いていれば招集しないとしていますが、それには多くの条件を満たさなければならず、私は対象から外れることはないでしょう。

みんな、プーチン氏と戦争そのものを憎んでいます。もし、戦争に連れて行かれたら、死ぬか、生き残るために誰かを殺すしかないのですから。

3.動員の発表で生活や社会全体に変化がありますか?

私の人生そのものが変わりました。私は急いで出国し、ロシアで生活することはできなくなりました。

私の仲間たちは、ロシアから脱出する方法、招集令状を持った軍の担当者が玄関のドアをノックしたら10分でできるだけ痛い思いをせずに足の骨を折る方法について話しています。

少し前までは冷静だった人たちが、今は国境を越えようと車を走らせています。ロシアの同胞たちは、プーチン氏から逃れるため、数十時間もかけて長い列に並んでいるのです。

4.抗議活動と、それを取り締まる動きについて、どう感じていますか?

抗議をする時間は終わりました。

抗議をするために出てきた人たちは、動員されてウクライナで死ぬか、刑務所に入れられるか、幸運なら殴られるだけで済むでしょう。

抗議する市民を殴る警察官たちは、プーチン氏に最も従順な連中です。そうした連中によって、抗議デモは“殺される”のです。

言論の自由も死んでいます。SNSは規制されていますし、自由な報道も壊されてしまいました。

5.プーチン政権に求めることはなんですか?

私がいつもプーチン政権に求めていることは、“終わり”です。

(プーチン氏が初めて政権の座に就いたときから)20年以上もの間、ロシア人は奪われ続け、プロパガンダに踊らされ、周囲の人間を憎む“卑しい国民”にされてきました。

その間、ロシアからはすべてが奪われました。この国で生活を送る自由、言論の自由、繁栄などです。

そして今、ロシア人は、生きるか死ぬかを選択する機会すら奪われてしまったのです。

哀れなロシアの市民は、血に飢えたプロパガンダをまき散らす人たちのせいで、死にゆくのです。

「ロシアのために戦うことと、プーチン氏のために戦うことは同じではない」

男性40歳 モスクワ在住医療関係者

1.プーチン政権が動員を発表したことをどう受け止め、ウクライナで戦う義務があると思いますか?

私は、今回の決定もプーチン氏による大罪であり、とんでもない歴史的な過ちだと思います。そして、これはプーチン氏が大量破壊兵器を使用する前の、最終的なステップだと思っています。

ロシアのために戦うことと、プーチン氏のために戦うことは同じではありません。

今は、誰もロシアのために戦っていません。だって、“うそ”に基づいて始まった戦争なんですから。

ロシアが危機に瀕しているとしたら、それは、腐敗、プロパガンダなどのせいです。そしてこれらは、いずれもプーチン政権にとっては、望ましいことなのです。

2.自身、家族、知人が招集される可能性や、すでに招集された人はいますか?

私の親戚の多くが、招集される基準を満たしていますが、そのうち誰が連れて行かれたのかは、まだ知りません。私が反戦の立場を明らかにしているので、ほとんどの親戚と連絡が取れなくなっているためです。

私の職場では、同僚2人が招集令状を受け取りました。そのうちの1人は20歳の男性です。彼が外出中に軍の担当者が招集令状を渡しに来ましたが、両親は受け取らず「息子はどこにいるか分からない」と言ったそうです。

そうすると、軍の担当者は「息子を脱走兵として登録して、10年刑務所に入れるぞ」と脅してきたというのです。彼は弁護士に相談しているようですが、今どうしているのかはわかりません。

もう1人は34歳の男性です。彼の母親が招集令状を受け取り、彼に電話して、次のように言ったそうです。

「男になれ、祖国があなたの助けを必要としている。祖国の危機だ」

私も招集される可能性があります。

町で歩いていると声をかけられ徴兵されるとも聞きますので、私の雇用主は、交通機関を手配してくれて、自宅と職場の間をドアツードアで移動できるようにしてくれました。

また、買い物に行かなくて済むように、自宅への宅配サービスを導入してくれました。

3.動員の発表で生活や社会全体に変化がありますか?

日常生活にはあまり支障はありませんが、それよりも、不安が大きくなっています。

心配なのは、20代、30代の若い人たちです。みんな怖がっています。政権を支持する人も反対する人もおびえています。

特に、これまでこの事態に無関心だった人たちが、動員の発表を受けておびえ、情報を探し始めています。

しかし、私たちに待ち受けている本当のことを想像することは難しいと思います。

動員されるのは、建設作業員、運転手、農業に従事する人、物流の作業員など、多岐にわたるのです。同時に、納税者でもあり、父親だったり、息子だったりするのです。

社会は、いま恐怖と混乱の中にあります。

一方で、多くの人たちに、当局に対する怒りの欠如と、当局への服従が見られるのは、驚くべきことです。

4.抗議活動と、それを取り締まる動きについて、どう感じていますか?

反対意見を示したり、抵抗したりできることは、良いことですし、正しいことです。

しかし、それが可能なのは、警察が市民の味方となっている国家での話です。

動員といったロシアでなされる決定について、プーチン氏はそれを覆すことはありません。彼は、ロシアを血の海で溺れさせるでしょうが、自分の決定を変えることはないでしょう。

5.プーチン政権に求めることはなんですか?

プーチン氏とその政権に何も期待しないし、何も求めません。

一方で、ウクライナにはもっと支援が必要です。そして、もっと意思決定を早くするべきです。

この戦争は、世界にあまりにも多くの犠牲を強いています。

一刻も早く終結させなければなりませんが、それはウクライナだけではできないのです。

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