2022年9月12日
ウクライナ ロシア

「私が黙ったら死を意味する」ロシア人たちの反戦の声

「私が黙ったら死を意味する」

「心の底からこの政権が憎い」

厳しい弾圧、言論統制の中、ロシアからSNSなどで反戦の声を上げ続ける人たちがいます。

一方、政権批判などで1万6000人以上の人たちが拘束されています。

リスクがありながらも、どうして声を上げ続けるのか。

そうした人たちにSNSを通じて連絡をとり、反戦への思い、生活状況、政権による弾圧などについて聞かせてもらいました。

(国際部記者 松田伸子)

質問項目は?

今回連絡を取った2人のロシア人に、以下の質問をしました。

(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
(2)2月24日以降、ロシア国内でどのような変化がありましたか?
(3)抗議の声を上げることにどのようなリスクがありますか?
(4)リスクがありながらも声を上げるのはなぜですか?
(5)今の政権をどう考えますか?

※取材に応じてくれた方の中には、名前を公表してもよいという方もいましたが、安全のためすべて匿名としています。

「私が黙ったら死を意味する」

29歳女性(モスクワ在住、英語教師)

(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?

2021年11月に、ロシア軍がウクライナ国境まで迫っていることを知ったとき、とても心配でした。そのときにSNSで発信を始め、今も発信を続けています。

でも、その願いも届かず、戦争が始まりました。それは途方もない悲しみです。毎日のようにウクライナの人たちの運命が、痛みを伴いながら崩れていっています。

ブチャ、マリウポリ、ヘルソンで起きたことは、直視することができません。モスクワの中心部にある赤の広場に行って、自分に火を付けようとさえ思いました。

でも、それによって何かを変えることができないのはわかっています。ウクライナで殺された人たちの命が戻るわけでもありません。

(2)2月24日以降、ロシア国内でどのような変化がありましたか?

今感じているのは、戦争が始まってからの国内の変化は、中間層以下の国民に大きな影響があるということです。本や紙の価格が上がっています。そして、その他のすべての物価も徐々に上がっています。

しかし、もっと深刻なのは国の規制です。

今はロシアに住んでいること、思っていることを口にすることが、とても怖いです。戦争の前も、平和的なデモであったとしても拘束されましたが、罰金も少なく、拘束期間も短かったのです。

ただ、今では真っ白な紙を掲げただけでも、(ウクライナの国旗と同じ)黄色と青のスニーカーを履いているだけでも拘束されることをみんな知っています。

小さなデモでも、SNS上で反戦の投稿をするだけでも、罰金を科せられたり、刑務所に入れられたりするのです。

当局は完全にランダムに狙っているので、いつ目を付けられるのかはわかりません。そして、弁護士は助けてくれません。ここは、もう安全ではありません。

(3)抗議の声を上げることにどのようなリスクがありますか?

女性と抗議活動をする仲間たち

戦争が始まった数日後、デモに行きました。街の中心部を歩きながら「戦争するな」と叫んでいました。

すると、パトカーが私たちの列に割って入ってきました。私は逃げることもできたのですが、警察に捕まった見ず知らずの10代の女の子を助けようとその場に残りました。

警察は私と彼女を警察署に連れて行き、私たちを脅して、デモが実際よりも過激なものだったと言わせようと迫ってきました。

私が解放されたのは朝の4時で、科された罰金は1万8000ルーブルでした。この金額は、ロシアの接客の店員や教員などの平均的な給与1か月分と同じ額です。それを2か月の間に払わなければなりません。

もし再び捕まれば、2度目の罰金は10倍になります。さらに刑務所に送られるのです。

3月には、平和や戦争反対を訴えるポスターを掲げたりそうした趣旨をSNS上で投稿したり、ロシア軍をおとしめるような行為をしたりした人を刑務所に最長で15年入れるという法律ができました。

(4)リスクがありながらも声を上げるのはなぜですか?

私は、ごく普通の人間として、この現実から逃げることはできません。

私のSNSアカウントには1万人ほどのフォロワーがいます。戦争が始まる前は、私の生活のことなどを投稿していました。

でも、今は、毎日のようにウクライナからの避難民やロシアへの抗議活動をしている人たちへの寄付を呼びかけています。

また、情報を拡散したり、今起きていることの真実を書いたりして、人々を鼓舞し、支援しています。

母は私のことを心配して、やめるように言いますが、私はこう答えます。

「私が黙ったら、それは死を意味する。私の声は消えてなくなる。そうなったら、私は何のために存在しているの?」

(5)今の政権をどう考えますか?

小さかったとき、世界は全く違うものになると思い描いていました。戦争がある時代は終わり、すべての国が仲間になり、いっしょに宇宙を探検して、地球の森や海を守っていくのだと思っていました。

しかし、大学を卒業する頃になると、ロシアで生きることは自由ではない、美しいことではないと気付きました。それは年々悪くなっていき、息苦しくなっています。

「戦争するな」と叫んだことで警察に腕を捕まれてから、祖国に対する気持ちは天と地がひっくり返ったように変わってしまいました。

今の政権は腐敗しています。そして、政府を支える人たちにも腐敗は深く根をはっています。警察、裁判所、そして普通の人たちまでもです。そのすべてが私たちの社会を破壊しているのです。

この国のトップがいなくなったとしても、この“殺人者”を支えた人々の中に入った毒を取り除くのには、長い時間がかかるのではないかと心配しています。

そして、もうひとつ。外国人から見ると「本当に80%ものロシア人が戦争に賛成しているのか?みんな血に飢えているのか?」と思うかもしれません。

これには2つの理由があります。ひとつは「無関心」、もうひとつが「帝国主義」です。

無関心の問題は、多くの人たちが自分たちに関係あることにしか関心を示さないことです。政府を変えようとは思わないですし、ぼやいて多数派につくだけです。多数派とは、戦争に賛成する人たちです。

政府の主張と反対のことを言っただけで刑務所に入れられてしまうような環境では正しい統計を取ることはできません。

もうひとつの帝国主義の問題というのは、過去、ロシア帝国やソビエト連邦が、その周辺の国に対して何をしてきたかということです。

そして、多くのロシア人は、そのことについて反省していません。すべてのロシア人は、私たちが過去に何をしてきたのか、知る必要があります。

将来、プロパガンダを用いた知性に欠ける政府が、ほかの国を攻撃したり国民を抑圧したりしないように。

「心の底からこの政権が憎い」

19歳女性(トベリに住んでいた、コールセンター勤務)

※警察に拘束されるおそれがあったため2022年5月からロシア国外にいる

(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?

嫌で嫌でたまりません。こんなことは起きてほしくなかったです。私の国の帝国主義的な政策には反吐へどがでます。

ロシアは、ベラルーシやウクライナについて、一度も独立した国だと思っていなかったのです。

そしてそのことが、ロシアがウクライナを攻撃するという、この悲劇を起こしたのです。

8年前にも、そして今も。

※8年前の2014年、ロシア側はウクライナの南部クリミアを一方的に併合した。

(2)2月24日以降、ロシア国内でどのような変化がありましたか?

仕事が少なくなり、求人がどんどん減っています。

そして、軍の検閲、おびただしい数の逮捕者。物価の激しい高騰。

私が利用していた企業は、ロシアから離れていっています。例えばマクドナルドなどです。

(3)抗議の声を上げることにどのようなリスクがありますか?

刑務所に入れられる可能性があります。罰金を科せられたり、暴行されたり、解雇されたりする恐れもあります。

私は戦争に反対するデモに参加したことで、大学を退学させられました。警察は私を警察署に連れて行き、拘束しました。

(4)リスクがありながらも声を上げるのはなぜですか?

この戦争に心を痛めています。私ができることは抗議の声を上げることです。ほかに手段がないのです。

抗議をするか、胸を痛めたまま死ぬのか。

ウクライナ人を殺している自分の国に反対です。

(5)今の政権をどう考えますか?

私はこの政権になってから生まれました。ずっとこの政権の下で暮らしてきました。

でも、心の底からこの政権が憎いです。

この政権は、私から教育の機会を奪いました。私が辞めさせられた大学では、反戦を掲げる行為は禁止され、授業の中では、ウクライナは「ナチスの国」だと教えていました。

この政権が大嫌いです。

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