2022年8月25日
経済

金融市場を動かす?ジャクソンホール会議とは?

欧米の中央銀行が積極的な利上げに踏み切るとの報道がでるたびに株価が乱高下したり、為替が円安に振れたりします。

みなさんの投資信託や年金などにも大きく影響する中央銀行の政策。その決定に携わる世界の中央銀行幹部たちが一堂に集まるシンポジウムがアメリカ西部の高原リゾート、ジャクソンホールで25日から始まります。

過去に何度も市場を動かしてきたことで知られ、市場関係者も注目するというこのシンポジウム、どんなものなのでしょうか。
(ワシントン支局 小田島拓也記者)

そもそもジャクソンホールのシンポジウムって?

アメリカ西部ワイオミング州ジャクソンホールにあるロッキー山脈を一望できる高原リゾート地のホテルで開催される経済についてのシンポジウムです。ジャクソンホール会議とも呼ばれます。

FRB・連邦準備制度理事会を構成する地区連銀の1つ、カンザスシティ連銀の主催で1978年に始まった歴史ある会議で、1982年からジャクソンホールで開かれています。

アメリカやユーロ圏、イギリス、カナダ、日本など主要な国の中央銀行総裁や幹部、経済学者、著名なエコノミストが参加。避暑地の涼しい気候の中、参加者はざっくばらんに世界経済や金融政策の課題について議論を交わします。

会議の合間に散歩をするFRBバーナンキ議長(当時・2012年)

ちなみに余談ですが、大自然あふれるイエローストーン国立公園はこのジャクソンホールの空港が玄関口の1つとなっています。

なぜ、有名なの?

G7とかG20とか政府主催の国際会議はたくさんあるけれど、中央銀行のトップたちがひざをつきあわせて、筋書きなしで真剣な議論を交わす場というのは珍しいんです。会場は招待された人だけしか入れず、通訳は一切なし。金融政策について、極めてハイレベルの意見が飛び交うといいます。

会議を伝えるメディアのテント

そして何よりこの会議を有名にしているのは発言内容が金融市場に大きな影響を及ぼすからです。中央銀行幹部の発言によって株式や為替など金融市場が大きく動いたことが何度もあり、メディアはテントを張って中継するなど毎年、世界が注目します。

過去にマーケットに影響を与えた発言は?

FRBバーナンキ議長(当時・2010年8月の会議)

2010年8月の会議では、当時のFRBのバーナンキ議長が、不況にあえぐアメリカ経済を立て直すため、金融市場に大量のドルを供給する異例の「量的緩和」に踏み切ることを示唆しました。すると株式市場では景気の先行き不安がやわらぎ、ダウ平均株価が値上がりしたのです。

2010年8月30日 日銀の決定会合での会見

このとき、ジャクソンホールの会合に参加していた日銀の白川総裁(当時)は、予定を早めて帰国。円高や株安が進むなかで週明けに臨時の金融政策決定会合を開き、追加の金融緩和を決定しました。

また、2014年8月には、当時のヨーロッパ中央銀行のドラギ総裁が、一段の金融緩和を示唆。ヨーロッパ中央銀行は、この直後に開かれた金融政策を決める9月の理事会で、政策金利の引き下げを決めました。

このため、ジャクソンホールのシンポジウムはその後の金融政策を方向付ける重要なメッセージを発信する場になっていると多くの市場関係者が受け止めているんです。

ことしの会議の注目点は?

なんといっても世界中で加速するインフレへの対応です。特に8%台と記録的なインフレが続くアメリカの金融政策のゆくえは世界の関心事です。

26日にはFRB・連邦準備制度理事会のパウエル議長の講演が予定されており、どのような内容を話すのか、市場関係者は耳をそばだてています。

去年の会議はオンライン開催でしたが、このときのパウエル議長の発言は先を読み誤ったと逆の意味で注目を集めてしまいました。

何を読み誤ったの?

ジェローム・パウエル 米FRB議長

2021年春ごろからじわじわと進んできた物価上昇の動きを「一時的なのものにとどまる可能性が高い」ときっぱり発言したのです。その際、5つの理由をあげて説明したことから若きマイケル・ジャクソンが参加した音楽グループになぞらえ「ジャクソン5」とも言われました。

さすがにこれだけインフレが進んでしまったことで、「ジャクソン5」は説得力を失い、パウエル議長は批判を浴びることになりました。

どのような発言が予想される?

物価の番人である中央銀行のトップが物価の方向性を読み誤り、利上げが遅れたことにつながったので、さすがにインフレを抑え込むことに全力を注ぐといった強い決意を示すだろうとの見方が強まっています。

FRBは、食料品など生活費の高騰は中低所得者層に大きな負担になっているとして、直近2回の会合で2回連続となる0.75%の利上げを決めています。このところ、FRBの高官からもインフレに対する強い警戒感と、積極的な利上げが望ましいという発言が相次いでいます。こうした発言に沿った講演内容になるのではというのが市場関係者の見方です。

少し前まで市場では英語で方針転換を意味する“pivot”(ピボット)に関心が集まっていました。インフレがピークを越えたのではないかとの観測から利上げのペースを緩めるのではないかという見方です。

急速な利上げは本来、FRBとしては望むものではなかったはずです。景気の減速を示す指標も相次ぐなか、FRBがどこまで金融引き締めを強化するのか、パウエル議長の発言からヒントを探ろうと世界がワイオミング州にある美しい高原リゾートに熱い視線を注いでいます。

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