2022年7月27日
韓国 朝鮮半島

韓国パク外相が日本初訪問 何を語った? どうなる日韓関係?

戦後最悪と言われるまでに冷え込んだ日韓関係。
その日本との関係改善を強く望むユン政権の姿勢を示すため、政権発足後、初めて日本を訪れた韓国のパク・チン(朴振)外相は何を語ったのか。今後の日韓関係はどうなるのか。単独インタビューの内容も交えて詳しく解説します。
(ソウル支局長 青木良行)

パク外相ってどんな人?

日米双方に人脈を持つベテラン政治家です。

1977年に韓国外務省に入省した後、アメリカのハーバード大学やイギリスのオックスフォード大学に留学。1990年代のキム・ヨンサム(金泳三)政権では、大統領府の広報秘書官をつとめ、大統領の通訳を務めたこともあります。

また、1987年には東京大学に1年間留学した経験もあり、日本の国会議員と交流する韓日議員連盟にも所属しています。

初訪日のねらいは?

戦後最悪と言われるまでに冷え込んだ日韓関係をこれ以上、放置できないというユン政権の姿勢を示すねらいがありました。

ただ、公式に訪日を発表したのはわずか3日前。7月18日から20日までの訪日の期間中も、パク外相の発言を取材できる機会は決して多くありませんでした。

岸田首相を表敬訪問した 韓国 パク外相(左)

通常、取材が許可されることが多い外相会談の冒頭発言も取材機会はなく、岸田総理大臣への表敬訪問に至っては終わった後での発表と慎重な取材対応が続き、日韓両国の懸案の難しさを感じざるを得ませんでした。

日韓関係の懸案ってなに?

解決が急がれるものとしては太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題と、慰安婦問題があります。

徴用工をめぐる問題

2005年2月、太平洋戦争中に「徴用工として強制的に働かされた」と主張する韓国人4人が新日鉄住金(現在の日本製鉄)に損害賠償を求めて提訴。

日本企業に賠償命じる判決を言い渡した 韓国の最高裁(2018年10月)

1審、2審とも原告側の訴えを退けるも2012年5月、韓国の最高裁判所が2審の判決を取り消して高裁に差し戻し。2018年10月に最高裁判所が日本企業に賠償命じる。

ムン・ジェイン(文在寅)政権は三権分立の原則から司法判断を尊重するとした姿勢を変えなかった。現在、日本企業が持つ韓国国内の資産を売却する「現金化」に向けた司法手続きが進む。

日本政府は、「徴用」をめぐる問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みで韓国側の対応は国際法違反だと主張。

慰安婦問題

元慰安婦支援のため設立された「和解・癒やし財団」(2016年7月)

2015年、パク・クネ(朴槿恵)政権当時、日本政府が10億円を拠出し、元慰安婦を支援する財団を設立することなどで合意し「最終的かつ不可逆的な解決」を確認。

しかし、パク政権に続くムン政権はこの合意を批判、2018年11月に財団の解散を一方的に発表し、対立は決定的に。

日本としては、いずれの問題も解決済みだったはずなのに、再び持ち出したムン政権の対応は、国際約束を破る行為で受け入れられないという立場です。こうした問題への対応について、今回、パク外相が日本側にどのように説明するのかが大きな焦点でした。

「徴用」をめぐる問題 どう説明?

「関係改善のために解決しなければならない重要な問題です。私たちもこの問題での日本側の立場を共有しています」
訪日最終日の20日、NHKのインタビューに応じたパク外相はこう答えました。

日本企業の韓国国内の資産を売却する「現金化」に向けた手続きは早ければこの夏にも裁判所の最終判断が下されると報じられています。林外務大臣との会談でも早期解決を図ることで一致したパク外相は、その解決方法についてインタビューで次のように述べました。

パク外相
「7月初めに官民合同の協議会が発足しました。裁判の原告側などの当事者や専門家が集まってどう解決するのが最も望ましいか議論しています。その議論で出た意見をもとにして問題を解決していきます。国民や原告が受け入れられる合理的な案がつくられると期待しています。原告が高齢化し『現金化』が差し迫っていることなど全体を考慮しながら、『現金化』される前に望ましい解決策を導き出すことができるよう努力します」

どんな解決策があるの?

韓国政府がいったん肩代わりする「代位弁済」という手続き、または新たな基金を設置してそこから原告側に給付する案などが韓国メディアでは報じられています。

パク外相は今回のインタビューでは、どの案が望ましいかは明らかにしませんでしたが、7月に設置した協議会の中で、裁判の原告側から日本企業との協議の場を持ちたいという意見が出ていることを今回日本側に伝えたとした上で「100%満足できる解決策を見いだすのは難しいかもしれませんが、原告側と国民が『この線なら合理的で問題解決が可能だ』というものを目指していきます」と述べました。

慰安婦問題については何を語った?

2015年の合意について「両国政府の公式合意であり尊重されなければならないと思います」と語りました。

その上で、2018年に当時のムン政権が解散を発表した財団は正常に運営されるべきではないか、という質問に対しては「結論は出ていないが、慰安婦合意の精神にそって被害者の尊厳と名誉の回復、そして傷の癒やしがなされるような解決策を見い出していく」と答えました。

パク外相 強調していたのは?

まずは信頼回復を進めたいという強い意志をインタビューでは再三強調していました。

パク外相
「日韓両国は民主的価値と市場経済を共有する国で、重要なパートナーです。関係が硬直した理由はさまざまな懸案が困難であることもありますが、両国間の信頼が損なわれたからだと思います。われわれは日本と共通の価値を持って関係を改善させていくという強い意志を持っています。私が外相として日本を訪れ外相会談を開いたこと自体、関係改善において重要なきっかけだと思います。これからこうした協議を通じて信頼を回復することが急務だと思います」

今後の日韓関係はどうなる?

パク外相
「韓国ドラマやK-POP、韓国料理などに対する関心が日本の国民、特に若者たちの間でますます高まっています。キンポ(金浦)空港と羽田空港の路線が再開しました。今後増便され、観光ビザ免除の措置がとられれば、一時は1000万人を超えた両国間の往来はいくらでも回復できると思います。双方の若い世代が交流をして相手の文化を理解し、何の偏見もなく親善を図ることは両国関係の未来のために非常に重要なことだと考えており、政府レベルでも支援しなければならないと思います」
「日韓関係が持つ潜在力は非常に大きいと思います。関係が改善され発展されれば、両国が国益を追求できる分野は無限大だと考えています」

アメリカ ホワイトハウスで会見する 韓国の男性アイドルグループ「BTS」(2022年5月)

“始まりは半分”

始めさえすればそれだけで半分終わったようなものだ、何事も始めてみることが大事だという意味の韓国のことわざです。パク外相はインタビューの中でこのことわざを引用し、今回の訪日の意義を強調しました。

外交に長く携わり弁が立つという印象のパク外相ですが、今回の単独インタビューでは時折メモに目を落としながら語ることもあり、かなり慎重な言いぶりだった気がします。

なんとか日韓関係を改善させたいという意気込みを強く感じると同時に、両国間の懸案解決の難しさを十分認識しているとも受け止めました。 一連の問題について、ボールは韓国側にあるとしてユン政権に具体的な行動を求める日本側に応えることができるのか。当局者や関係者の動きも含め、引き続き取材していこうと思います。

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