2022年7月15日
ドイツ ロシア ヨーロッパ

ロシアの“武器”は天然ガス?ドイツでいま何が?日本に影響は?

「ロシアはエネルギーを“武器”にドイツを攻撃している」

ドイツのショルツ首相の発言です。ロシアからのガス供給が完全に止まるのではないかと懸念が広がるドイツ。

ヨーロッパ最大の経済大国で今、何が起きているのか。
ロシアからのガスが止まるとドイツはどうなるのか。
日本でもロシアからの調達がこれまでどおりできるか不透明になるなか、ドイツの現状をわかりやすく解説します。

(ベルリン支局長・田中顕一)

ドイツで何が起きているの?

ロシアからの天然ガスの供給が大幅に減っています。

ロシアからドイツに天然ガスを送る主要なパイプライン「ノルドストリーム」について、ロシアの政府系ガス会社ガスプロムは6月、設備の問題などをあげて供給量をおよそ6割削減。

さらに7月11日には供給を完全に停止しました。これについてガスプロムは7月21日までの定期的な点検だと説明し、実際に21日には供給が再開されました。

しかし、ドイツ政府は、再開はされたものの供給量はおよそ60%削減された状況が続いていると発表していて、全面的な再開にはなっていません。このため、ドイツは引き続きロシア側の出方を警戒しているのです。

供給停止されると影響は大きいの?

「ノルドストリームの設備」(2011年撮影)

ドイツにとって天然ガスは暮らしと経済を支える重要なエネルギーです。

寒さの厳しい冬には家庭用暖房の燃料として欠かせないほか、製造業に必要な電力の燃料、さらには、自動車部品などの製品の原料としても使われています。

ドイツ政府は暖房需要が増える冬に備えて、今年11月1日には天然ガスの貯蔵率を90%に引き上げる目標を掲げていますが、7月21日時点の貯蔵率はおよそ65%。

供給が大幅に減れば、この目標を達成できないおそれも出てきます。そうした場合、ドイツ政府は「緊急事態」を宣言する可能性があり、ガスの供給に国が介入し、供給先の優先順位決めに関与することになります。

有力紙「ツァイト」は電子版で「国の繁栄はパイプライン次第だ」と伝えるなど、危機感が広がっています。

どうしてそんなに影響が大きいの?

ベルリン市内(2022年3月)

ドイツが、エネルギーをロシアに依存しているからです。

ドイツは石炭や石油もロシアから輸入してきましたが、とりわけ天然ガスは輸入に占めるロシア産の割合がロシアによるウクライナ侵攻前は55%に上っていました。

侵攻を受けてドイツはロシア産の天然資源に依存しない「脱ロシア」を進めています。それでも、ことし4月時点でロシア産のガスが35%を占めるなど、短期間で代替の調達先を確保するのは非常に難しいのが現実です。

なぜ供給停止の懸念が広がっているの?

ロシア プーチン大統領

ロシアがガスを政治的な“武器”として使い、ドイツに揺さぶりをかけていると受け止められているからです。ドイツの政治経済界では、ガスの輸入はドイツに有益なことであるだけでなく、ロシアも潤い、互いにメリットがあることという受け止めでした。

しかし、ロシアのプーチン大統領は7月8日、クレムリンでエネルギー関係の会合を開き「ヨーロッパ諸国はロシア産からの代替エネルギーを求めているが価格の高騰につながるだろう。さらなる制裁は世界のエネルギー市場に、より深刻で破滅的な結果をもたらすかもしれない」と欧米側を強くけん制しています。

パイプラインの点検でガスの供給が止まることはこれまでもありました。しかし、今回は大きく状況が異なります。

欧米とロシアの対立が深まる中、ショルツ首相は「ロシアはエネルギーを“武器”にドイツを攻撃している」と強く反発しています。

ロシア側の説明は?

ロシア大統領府のペスコフ報道官は21日報道陣に対し、ガスプロムは義務を果たす用意があるとする一方で「天然ガス供給に関する技術的な問題はEU側の制限によるものだ」と述べています。

また、「EU側は、ロシアが政治的な圧力や恐喝のために天然ガスの供給を利用していると非難している。しかしこれは全く事実ではなく、断固として受け入れられない」として、ロシア側に責任を転嫁するべきではないと反論しました。

ドイツ政府の対応は?

冬に使えるガスを残しておくための“節ガス”の呼びかけを始めています。

さっそく呼びかけに応じて公共のプールではガスで温めている水温を下げたり、団地でお湯が使える時間を限定したりといった動きが伝えられています。

ベルリン ブランデンブルク門

また、首都ベルリンの観光名所ブランデンブルク門では、夜間ライトアップの中止も検討すべきという声も上がっています。

さらにドイツ政府は発電でのガスの消費を抑えるため、一時的に石炭火力発電所を稼働させて必要なエネルギーを補う方針も決めました。

脱炭素社会の実現を目指し石炭の利用からの脱却を進めてきたドイツですが、これまでとは逆行する対応まで迫られる事態になっています。

環境政策を重視する「緑の党」の前党首、ハーベック経済・気候保護相は不本意な対応を迫られる悔しさをあらわにしています。

ハーベック経済・気候保護相
「ロシアはエネルギーを“武器”にドイツに攻撃を加えている。そのために二酸化炭素の排出を増やすことになる。極めて不愉快だ」

市民の受け止めは?

ガスの供給が点検で止まった11日に首都ベルリンで市民に話を聞くと、先行きへの不安の声が多かった一方、これまでの政府の対応を批判する声も聞かれました。

男性
「いまはシャワーを2日に1度にしてガスを節約しています。ただ、冬場も続けられるかはわかりません」

女性
「自宅の暖房にはガスを使います。年金暮らしなのでガスが止まれば価格が上がり、生活が苦しくなります」

男性
「ロシアへの依存は最大の失敗でした。過去の政治家たちはロシアを信用しすぎました」

日本とどう関係しているの?

今のドイツの状況は、エネルギーを海外から輸入する日本にとってもひと事ではありません。

ロシア サハリン州の天然ガス工場

ロシアのプーチン大統領は6月30日、日本企業も参加する極東での石油・天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」について、事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名。ガスプロムを除く株主に、1か月以内に出資分に応じた株式の譲渡に同意するかどうか通知するよう求め、日本に対しても揺さぶりをかけています。

ドイツは、「脱ロシア」のためLNG確保を進める方針で、世界のエネルギー獲得競争がさらに激しさを増すことは必至です。

天然資源に乏しい日本にとっては、「サハリン2」の問題だけでなくドイツ国内のエネルギー事情がどうなるかも、今後のエネルギー安全保障に大きな影響を与える可能性があるのです。

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