2022年6月20日
ウクライナ ロシア

【詳しく】核兵器禁止条約って?ロシアの軍事侵攻の影響は?

核兵器の開発や使用などを禁止する核兵器禁止条約の初めての締約国会議が、6月21日からの3日間開催されます。
そもそも核兵器禁止条約って?
核をめぐる議論の現状は?
ロシアによる軍事侵攻は議論に影響あるの?
専門家とともにわかりやすく解説します。
(国際部 能智春花)

核兵器禁止条約とは?

核兵器禁止条約は「核兵器の非人道性」を根拠に、核兵器の開発、製造、保有、使用を禁じる初めての国際条約です。

この条約が成立した背景には、核保有国による核軍縮が一向に進まないことに対する、核兵器を持たない国の強いいらだちがありました。核保有国と非保有国の対立が解消されないまま、条約は2017年に国連で採択され、50の国と地域の批准をもって、去年1月発効しました。これまでに批准を終えた国と地域は6月20日現在で62です。

一方で、アメリカやロシア、中国などの核保有国や、アメリカの核の傘のもとにある日本や、NATO=北大西洋条約機構の国々は、条約に参加していません。

なぜ日本は、参加していないの?

日本政府はこれまで唯一の戦争被爆国として核兵器の廃絶を目指しながらも、核保有国が参加していない禁止条約は現実的な核軍縮にはつながらないとして、条約に反対の立場をとってきました。

今回の締約国会議では、アメリカの核の傘のもとにあり条約に参加していないドイツやノルウェーなどの国が、オブザーバーとして出席しますが、日本はそうしたかたちでの参加も見送るとしています。

実は今回の会議の前日に同じウィーンで、オーストリア政府が主催する「核兵器の人道的影響に関する国際会議」が開かれ、こちらには日本政府の代表は参加しますが、翌日からの締約国会議には参加しないため、日本のオブザーバー出席を求めてきた被爆者からは、政府の姿勢を疑問視する声も上がっています。

日本の不参加、専門家の見方は?

軍備管理・軍縮に詳しい一橋大学の秋山信将教授は、核兵器禁止条約の役割を認めながらも日本は難しい立場に置かれているといいます。

一橋大学 秋山信将 教授

一橋大学 秋山信将教授

「核兵器禁止条約は核兵器の存在そのものを法的に禁止する法的な効果とは別に、核兵器を使ってはならないという規範を強めていくプラットホームになると思います。
ただ、問題は核兵器を保有している国が1か国も入っていないことです。『規範が広がる』と言うのは簡単ですが、核兵器に関する重要な利害関係国が入っていない場合、これは規範になりえないとも言えるわけで、核兵器がなくなるまではまだこれから長い道のりだと思うんです」

「日本が条約に入る、あるいはオブザーバー出席するというのは、国際社会全体に対して日本の姿勢を示すという意味では重要ですが、このシグナルというのは近隣の国々に対してどんなメッセージになっていくのかも考えなければなりません。
例えば、それによってアメリカと日本の間で感情的な行き違いが起きたとき中国はどう思うか。そんな状況を考えると、そのプラスとマイナス両方を考えて、なにが日本の安全と核軍縮の推進の双方にとって重要で、日本ができることなのかということをしっかり考えないといけない」

核をめぐる国際社会の議論の現状は

ひと言で言うと「核のリスク」です。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻によって、より多くの国や人が「核のリスク」を意識するようになりました。スウェーデンの研究機関によりますと、ロシアは保有する核弾頭の数が世界で最も多く、アメリカとあわせると全体のおよそ9割を占める「核大国」として知られています。

そのロシアのプーチン大統領が核兵器の使用も辞さない構えを見せたことを受け、これまで軍事的中立を保ってきたフィンランドとスウェーデンはNATO=北大西洋条約機構の加盟を決断するなど、核大国による侵攻によって国際社会でこれまで以上に危機感が高まっています。

ロシアの軍事侵攻は議論にどう影響しているの?

秋山教授は、ロシアの「核のどう喝」によって国際社会において核抑止をめぐる議論が再び高まっているといいます。

一橋大学 秋山信将 教授
「ロシアが核兵器の存在をちらつかせながら隣国に武力行使を行うことは、国際社会として許容してはいけませんが、実際問題としてそのように核兵器が使い得るということを、国際社会が意識しました。さらにアメリカが当初、介入に対して多少後ろ向きな姿勢を示したことで、大国の介入を阻止するためには核兵器は使い道があり、一方で核兵器が戦争を抑止する効果もないんじゃないかという議論も出てきます。
また、これまで比較的核軍縮に前向きだったスウェーデンがNATOへの加盟を表明し、核の傘のもとに入る決断をしたということになります。それだけ核を持った大国による侵略行為は重大な意味を持ちます」

核抑止が揺らぐと世界はどうなるの?

秋山教授は、ロシアの軍事侵攻が核をめぐる世界の論調を変え、国際社会の分断を深めてしまったと指摘しています。

一橋大学 秋山信将 教授
「例えば日本でも、アメリカの核兵器を同盟国で共有する『核共有』について、議論するべきだという声が高まるなど、ロシアの侵攻は日本を含む国際社会全体の核に関する論調を変えてしまいました。どう変わったかというと、非核化を求める人はその思いがより強くなり、核兵器の役割や核抑止の意義を考える人はその考えをより強調するようになる。国際社会の分断が一層深まったのではないかと感じます。
核兵器を持つ国と持たない国の対立というより、核兵器の存在が自国の安全保障により直接的に関わる国とそうでない国の間で、分断が深まっている状況にあると思います。こうした状況だからこそ、核について議論する必要があり、この会合がその第一歩として重要なのです」

初めての締約国会議ではどんな議論が?

オーストリアの首都 ウィーン

初めての締約国会議は、今月21日から3日間の日程で、オーストリアの首都ウィーンで開催されます。

会議では、
▽締約国を増やす取り組みや、
▽核保有国が将来条約に参加する際の核を廃棄する手順など、条約をどう履行していくか
について、各国が議論を交わすことになっています。

会議では、核のもたらす非人道性や環境被害と改めて向き合う議論も行われます。実はこの条約では「原爆や核実験による被害を受けた人たちへの援助、汚染された地域の環境を修復すること」を定めた条項があります。これは核兵器の非人道性を禁止の根拠としている条約の、根幹に関わるものです。

議論で期待されることは?

「原爆や核実験による被害を受けた人たちへの援助、汚染された地域の環境を修復すること」を定めた条項に期待する声があります。その国の1つが太平洋の島国・キリバスです。

キリバスのテブロロ・シト国連大使によりますと、キリバスではアメリカやイギリスが1950年代から60年代にかけて核実験を行い、その影響で今も苦しむ人たちがいて、被害者の数や症状などは詳しく把握されておらず、補償もないということです。

キリバス テブロロ・シト国連大使

今回の締約国会議で、キリバスはカザフスタンとともに、研究者を被害の現場に派遣して被害者の現状を調査する仕組みを提案するといいます。およそ20年前に広島を訪れているシト国連大使は、次のように話し、被爆者の認定や支援に知見を持つ日本との交流に期待を寄せていました。

キリバス テブロロ・シト国連大使
「日本の救済措置を知ることは、われわれの取り組みにとってとても重要だ。今回の会議で、日本の被爆者などからさまざまなことを学びたい」

日本に求められていることは?

秋山教授は、日本の役割について、唯一の戦争被爆国の日本こそが、核をめぐる難題の解決に向けて主導的な役割を果たすべきだという考えを示しました。

一橋大学 秋山信将 教授
「日本は、広島と長崎の被爆経験から、核軍縮の推進、さらに核廃絶は宿命づけられているわけですよね。一方でアメリカの拡大抑止のもとにあることで、『矛盾している』と批判する人もいますが、この矛盾というのは、日本に限らず多くの国々が抱えています。むしろ国際社会全体が抱える矛盾を象徴的に表しているのが、日本です。そうなると日本の役割は、『核兵器を安全保障の中の重要な一部』とする考え方と、『核兵器がない世界がよい』という理想。この間をつなげていくことだと思います」

核兵器禁止条約の初めての締約国会議に続いて、8月には核兵器の保有国も参加するNPT=核拡散防止条約の再検討会議が、7年ぶりに開かれます。

ウクライナ情勢を受け、世界の核軍縮にこれまで以上の向かい風が吹く中でも、国際社会が諦めることなく議論を積み重ねていくことで、「核のない世界」に向けて少しずつ前進していくことを期待したいです。

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