
連日、ニュースなどで伝えられるウクライナ各地の街は、爆撃など戦闘の様子が中心です。
でも、日常の街の様子やふだんの人々の暮らしはどうなっているんだろう?
そこで、ウクライナの首都キーウで取材をしてきた鈴木陽平記者に話を聞きました。
首都キーウの街の様子に変化は?

ロシア軍が侵攻してきた直後の2月末や3月ごろと比べると、街の様子は、ずいぶん変わりました。
最大の変化は、人が戻ってきていることです。避難していた人たちが徐々に、帰国していて、最近では若者や子どもたちの姿も見られるようになりました。
また、街の中心部では店が再開してきています。市場などは多くの人でにぎわっていて、一見すると、かつての日常が戻ってきたようにさえ感じます。
食料品などは不足していないの?

キーウの市場やスーパーには、野菜も果物も豊富に並んでいます。街の人たちからも、食料品が不足して困っているという声を聞くことはありません。
ただ、値段は上がっているようです。地元の人たちに聞くと、侵攻前と比べると、2倍ちかくにまで値上がりしている食料品もあるという話を聞きました。
一方、燃料不足は深刻です。ウクライナの製油施設が攻撃を受けた影響などで、ガソリンなどが不足していて、多くのガソリンスタンドが休業しています。
わずかに営業しているところには車の長い列ができていて、ほとんどのスタンドでは1回で20リットルまでなどという給油制限もあります。燃料を補給するために丸1日費やすという人も多くいます。
キーウではなぜ、人が戻ってきているの?
戦況が大きく影響していると思われます。侵攻直後は、ロシア軍がキーウ近郊にまで迫ってきたこともあり、多くの人が街から避難し、人の姿はまばらでした。
特に、子どもの姿はほとんど見られませんでした。それが、ロシア軍がキーウ近郊から撤退したことを受け、4月ごろから徐々に人が戻り始めています。
侵攻前の日常に戻りつつある?
キーウでは人が戻り、店なども徐々に再開され、一見、以前の暮らし、風景が戻ってきたようにさえ感じます。

ただ、2月24日から出されている「戒厳令」は今も続いていて、夜間の外出禁止令も出されています。街のあちらこちらで、土のうが積まれ、武器を持った兵士が警備にあたっている姿も見られます。
防空警報も日常的にだされていて、実際、6月に入ってからも、キーウの鉄道施設などがロシア軍によるミサイル攻撃を受けました。
破壊されているところはあるの?
キーウの中心部を歩いていると、大きな被害は見あたりませんが、中心部から車を30分ほど走らせると風景は一変します。

キーウ近郊にあり、首都を目指すロシア軍が侵攻したイルピンやブチャでは住宅などが大きく破壊され、町じゅうに銃弾の痕が生々しく残っています。破壊されたロシア軍の戦車なども道ばたに放置されていて、つい最近まで激しい戦闘があったことが分かります。
キーウの人たちの不安は?
「ミサイル、空爆がとても怖いです。毎日、安全を、平和を願っています。平和こそが私たちの望みです」
街で出会ったある女性はこのように話してくれました。キーウに戻ってきたものの、多くの人たちがこのように不安を抱えながらの生活を余儀なくされている状況です。
なぜ、ウクライナに戻ってきているの?
その理由は人それぞれのようです。4月にポーランドからウクライナに戻る人たちを取材した際には、次のように話していました。

故郷が恋しく、キーウは最近かなり静かなので帰ります。また、ここで仕事を見つけるのは本当に難しいです。
どの国でも生きていくにはお金が必要ですが、たくさんの人がポーランドにやってきました。工場での製造の仕事もありましたが、ハードな仕事です。キーウでは戦時中であっても十分な仕事があります。働きたい人は誰でも、お金を稼ぐことができます。
私たちは自分の国のことが分かっているので、ポーランドよりは楽なのです。もちろん、それほどよいものではありませんが。

ウクライナに残っている50歳の父と数日前から連絡がとれなくなっていて、どこで何をしているのか分からない状況です。このまま父をひとりでウクライナに放っておくことはできません。
父が軍に入った場合私にはどうすることもできませんが、なんとかして父に会って、ウクライナの安全な場所まで連れて行ってあげたいのです。

少し疲れたので、家に帰りたいです。他の家庭での生活は、やはり自宅のようには生活できませんから。私たちは疲れてしまったのです。
もしかしたら、戦争は何か月も続くかもしれないし、1年続くかもしれない。私たちにはここにとどまるだけのお金も時間もありません。
どれぐらいの人が戻ってきているの?
キーウにどれぐらいの人が戻ってきているのか、具体的なデータはありません。
ただ、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、避難した国々から母国に戻った人は少なくともおよそ250万人にのぼります。
このうち、最も多くの人が避難している隣国ポーランドから、ウクライナに帰国する人の数は、3月下旬ごろから増え始めていて、4月上旬には1日あたり2万人を超えるようになりました。
そして、4月15日には、帰国者数は2万5000人以上にのぼり、はじめて1日あたりの帰国者数が、ポーランドへの避難者数を上回りました。いまも1日あたり、2万人ほどが帰国しています。
ただ、依然として、ウクライナ東部や南部を中心に、各地で激しい戦闘が続いていて、これらの周辺地域から安全な地域に避難する人たちはあとを絶ちません。侵攻以降、750万以上の人たちが国外に避難し、侵攻から4か月近くたった今も、多くの人たちが避難生活を余儀なくされています。
NHKでは6月20日のあさイチでも、「ウクライナの今」について、お伝えします。