2022年6月9日
エリザベス女王 イギリス ヨーロッパ 注目の人物

【詳しく】どうなる? イギリス王室 エリザベス女王即位70年

イギリスで行われた「プラチナ・ジュビリー」。

エリザベス女王の即位70年が6月5日まで4日間にわたって盛大に祝われました。ニュースで見たという方も多いと思いますが、そもそも、みなさん、いまのイギリス王室についてどれくらいご存じですか?

エリザベス女王が96歳と高齢であること、さらには孫のハリー王子の「王室離脱」など王室は今、さまざまな試練にさらされています。

若い世代を中心に君主制への支持の低下も指摘される中、イギリス王室は今後どうなっていくのか探りたいと思います。

(ロンドン支局 向井麻里 松崎浩子)

エリザベス女王とはどんな人?

チャールズ皇太子とエリザベス女王

エリザベス女王の長男、チャールズ皇太子は、今回のイベントのスピーチで、女王にこう呼びかけました。「女王陛下、そしてお母さん。あなたは国家元首であるとともに、私たちの母でもある。私たちとともに笑い、泣き、そしてなによりも、この70年間、いつもそこにいてくれた」

母、国家元首、そして今では祖母や曽祖母といういくつもの顔を合わせ持つエリザベス女王は、1952年に25歳で即位。それを前に、21歳の誕生日には、みずからの人生をイギリス国民のために捧げると誓い、96歳になった今も、公務を続けています。即位からこれまでの間に首相を務めたのは、チャーチル首相から現在のジョンソン首相まで、実に14人にのぼります。女王は、毎週、首相から政治状況などについて報告を受けています。

女王はどんな存在?

イギリスでは「君臨すれども統治せず」と表現されるように、女王が政治の実権を直接的に行使することはありませんが、イギリスの統合を象徴する存在で、イギリス国民にとっても母のようでも、祖母のようでもある、かけがえのない存在となっています。

テレビで演説するエリザベス女王 (2020年4月)

新型コロナウイルスの感染拡大でイギリス社会に不安が広がった際には、医療従事者やボランティアとオンラインで対話したり、テレビ演説で連帯を呼びかけたりするなど、国民に寄り添う姿勢を鮮明にし、国民が女王の存在を改めて認識する機会にもなりました。 さらに「国の顔」としての役割もあります。イギリス連邦の加盟国をはじめ、世界100か国以上を訪れ、1975年には日本を公式に訪問し、日本の皇室とも深い関係を築いてきました。女王を含めた王室は、イギリスにとっての最強のソフトパワーとも評されます。

イギリス王室は人気が高い?

70年の在位を誇る女王のもとで、王室は盤石のようにもみえますが、国民から向けられる視線は、実は、時代の変遷とともに変化しています。

「君主制を維持すべきだ」と答えた人は、2012年には80%だったのに対し、2021年には60%まで下落したという調査結果もあります。さらに、世代によって見方に大きな違いが出ています。

2022年になって行われた調査では、君主制を「維持すべきだ」としているのは、65歳以上では79%だったのに対し、18歳から24歳までの若い世代では37%にとどまっています。

今回の「プラチナ・ジュビリー」も祝賀ムードではありますが、一方で、市民に話を聞くと、生活コストの高騰などが大きな社会問題となっている中で、ここまで大規模なイベントを行う必要があるのかという懐疑的な見方をする人もいました。また、4日間の祝日を単なる「長期休暇」ととらえて、旅行する人も少なくありませんでした。

王室でのさまざまな課題も聞きますが?

そうですね。女王、そしてイギリス王室はここ数年、さまざまな試練に直面しています。2020年、孫のハリー王子夫妻が公務から退くことを発表したこと、その上で、夫妻がメディアのインタビューで王室内で人種差別があったなどと述べたことは、王室にとって大きなダメージとなりました。

ハリー王子とメーガン妃(2017年)

また、次男のアンドルー王子が、未成年だった女性に性交渉を強制していたという一連の疑惑も、王室に対する信頼を大きく損なう事態となりました。

高齢の女王は大丈夫?

女王の健康状態も懸念されています。96歳のエリザベス女王は、去年秋、公務を休んで、一時検査入院したほか、最近では歩く際にはつえを使っています。公務を欠席することも多くなりました。今回の「プラチナ・ジュビリー」でも、祝賀パレードへの女王の馬車での参加は取りやめられ、バッキンガム宮殿のバルコニーにとどまることになったほか、欠席するイベントも目立ちました。

エリザベス女王とフィリップ殿下(1953年)

女王は2021年、70年以上連れ添った夫のフィリップ殿下を亡くしたこともあり、心身ともに負担が大きくなっているのではないかと言われています。

山積する課題 王室の戦略は

さまざまな課題に向き合う王室は、みずからを「ザ・ファーム=会社」と位置づけ、世論を見ながら、王室を存続させていくため戦略を立てています。SNSを積極的に活用し、さまざまな活動を発信。伝統を残しつつも、親しみやすく、開かれた王室をアピールしていて、変遷するイギリス社会の価値観もふまえた姿を目指しています。

「プラチナ・ジュビリー」でも、イギリスを代表するキャラクターの1つで、世代を超えて愛される「くまのパディントン」とエリザベス女王がお茶をともにする映像を公開。SNSで発信し、女王のユーモアたっぷりの演技に、国内外から反響があり、好意的に受け止められていました。

気になる王室の今後は?

チャールズ皇太子(左)とカミラ夫人(中央)

エリザベス女王本人も、王室の将来に向けた布石を打ち始めています。2022年2月には、声明を発表し、チャールズ皇太子が国王に即位する際、カミラ夫人が王妃となることを望む考えを明らかにしました。カミラ夫人をめぐっては、ダイアナ元皇太子妃との離婚後に、再婚した経緯などから、将来、王妃と名乗ることに抵抗する声も根強くあります。円滑な王位継承を実現するため、女王がみずからの姿勢を明確にしたとみられています。

王位の継承も少しずつ始めています。2022年5月にイギリス議会の新しい会期が始まる際には、政府の施政方針の読み上げを、チャールズ皇太子が代行しました。「プラチナ・ジュビリー」でも、女王が姿を見せなかった多くのイベントで、チャールズ皇太子、そして孫のウィリアム王子が代わりに前面に出ました。負担の重い公務は、ほかの王室メンバーが分担して行っているのです。

今回の「プラチナ・ジュビリー」で、印象的な場面がありました。限られたイベントにしか姿を見せなかった女王が、最終日にバッキンガム宮殿のバルコニーに姿を現した場面です。今後、王位を継承していくことになる息子のチャールズ皇太子、孫のウィリアム王子、そしてひ孫のジョージ王子が女王の両脇を固める形で登場したのです。王室の伝統を未来へつないでいこうとする王室と女王自身の決意のメッセージが込められているように感じました。

エリザベス女王が築き上げてきた信頼を受け継ぎながら、さまざまな試練にどう対応し、国民、そして世界に、どのような王室像を示していくのか。簡単とは言えない挑戦が世代を超えて続いていくことになります。

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