2023年5月16日
スウェーデン 経済 フランス ヨーロッパ

ヨーロッパ ファッションの変化 “もう動物を傷つけない”

世界をリードしてきたヨーロッパのファッション業界が今、大きく変わり始めています。
有名ブランドが次々と“脱毛皮”を宣言しているのです。
さらに革を使わず、新しい素材を開発する動きも活発になっています。
「動物を傷つけない」という考え方が広がるファッション業界はどこに向かうのか、探りました。

(World News部記者 古山彰子)
※この記事は2022年5月2日に公開したものです

ファッションブランドの“毛皮フリー”宣言

パリに本社を置くケリングは、グッチやサンローランといったブランドを傘下に持つファッショングループ大手です。

このグループが去年9月、ことし秋のコレクションから、すべてのブランドで毛皮の使用をやめると宣言しました。

すでに取りやめたグッチに続いて、傘下の有名ブランドが次々と“毛皮フリー”に移行しています。

ケリング フランソワアンリ・ピノー会長兼CEO

ピノー会長兼CEO
「世界は変化しており、ラグジュアリーブランドも当然、それに適応させていく必要があります」

イタリアのアルマーニは2016年、プラダは2020年から“毛皮フリー”になりました。

この数年、ファッション大手の間で毛皮の使用中止の動きが相次いでいるのです。

あのファッション雑誌も

有名ブランドを扱うファッション雑誌も続きます。

パリで創刊され、世界43の国と地域で販売されている「ELLE」は、毛皮を使った商品の掲載を一切やめることになりました。

世界を代表するファッション雑誌がなぜこうした決断にいたったのでしょうか。

コンスタンス・ベンケCEOに聞くと、「毛皮はもはや価値観に合わない」という言葉が返ってきました。

エル・インターナショナル コンスタンス・ベンケCEO

ベンケCEO
「私たちがこうした取り組みをすれば、読者の動物愛護の意識を高めることができます。それは、持続可能で革新的な代替素材を生み出し、ファッション業界をけん引することにもつながるのです」

アニマルウェルフェアの広がり

こうした動きの背景にあるのが「アニマルウェルフェア」という考え方です。

もともと1960年代のイギリスで、ニワトリやウシなどが劣悪な飼育環境におかれていたことを問題視して生まれました。

今では対象がペットなどにも広がっています。

フランスでは2024年からペットショップでの犬や猫の販売が禁止されることが決まりました。

フランスのペットショップ

安易に飼われて捨てられる犬や猫を減らさなければならないという考え方からです。

業界からはインターネットでの販売が多いにもかかわらず対面販売だけを規制するのはおかしいという強い反発があります。

それでも、国民の75%がそもそもペットショップでの動物の販売に反対しているという調査結果もあり、広く理解されるようになっているのです。

高まる消費者の意識

このアニマルウェルフェアへの意識の高まりが、ファッション業界にも広がり始めています。

ことし1月にフランスで行われた世論調査では、89%が本物の毛皮を使った商品に反対すると回答しています。

ヨーロッパを拠点にファッション業界を取材する井上エリさんは、若い世代の支持を得たいブランド側の事情もあると指摘します。

ファッションジャーナリスト 井上エリさん

井上エリさん
「Z世代(1990年後半~2000年代生まれ)は環境に対する意識が高く、モノ選びでエコであることや倫理的な問題がないかを重視します。将来の主要な顧客層になる彼らを取り込みたいファッションブランドは“動物を殺して作られた毛皮”を使うという悪いイメージを払拭ふっしょくしたいのです」

代替素材の活用広がる

ファッション業界では、毛皮や動物の革にかわる素材の開発が進んでいます。

このうちグッチは去年、新たな素材を発表しました。

非動物由来で再生可能な原料から作ったもので、スニーカーなどに使用しています。

再生可能な原料から作ったグッチのスニーカー Courtesy of Gucci

もったいない!すし屋で廃棄される魚の皮を素材に

ことし2月、パリ近郊で開かれた見本市では、さまざまなファッション素材が披露されました。

サボテンやパイナップルなど新しい素材が展示される中、ひときわ注目を浴びたのは「魚の皮」です。

魚の皮を使った素材の見本

開発したのはバンジャマン・マラトレさん。

フランスのすし店で大量に廃棄される魚の皮を見て、再利用できないかと考えました。

すし店でさばかれたばかりのサーモンの皮を丁寧に洗ったあと、着色料で色づけ。

乾燥させ、色合いに深みを持たせたあと、機械を使って柔らかく加工すれば完成です。

サーモンの皮を使った素材を作るマラトレさん

耐久性があり、10年以上は使えるということです。

これまでに世界の1400近くの取引先に商品を販売し、今、世界の大手ブランドとも交渉しているといいます。

開発したバンジャマン・マラトレさん

マラトレさん
「フランス人はたくさんの魚を食べ、ほとんどの皮が捨てられています。ごみになる皮に再び価値を見出し、長く使える素材に生まれ変わらせることができないかと考えました。
ほかの魚の皮も利用できないか、開発を続けていきます」

どこまで広がる?アニマルウェルフェア

アニマルウェルフェアが広まる動き、実はファッションにとどまりません。

スウェーデンの自動車メーカー、ボルボ・カーは去年9月、すべての新型電気自動車のシートで革の利用を取りやめ、再利用されるなどした素材で代用すると発表しました。

ボルボ・カーの革を使わない素材の自動車シート

ボルボは「先進的な自動車メーカーであることは、二酸化炭素の排出量だけでなく、サステイナビリティーのあらゆる分野に取り組む必要があることを意味する」と説明しています。

急速に普及するアニマルウェルフェア。

それは企業の社会的責任になるとファッションジャーナリストの井上エリさんは話します。

井上エリさん
「アニマルウェルフェアに取り組むことはもはや絶対条件です。ただのイメージ作りでないことを示すために、企業は生産過程の透明性を高め、信憑性の高い情報を発信することが求められるようになるでしょう」

飼育されているミンク

私たちにとって選択の幅が広がれば、デザインや価格、素材などと並んで「動物にやさしいか」を考えることは、当たり前になるかもしれません。

あなたは何を基準に、衣類を選びますか。

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