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2023年4月4日
アメリカ大統領選挙2024 トランプ前大統領 アメリカ

トランプ氏最大のライバルは“賢いトランプ”? アメリカ大統領選挙

「人々は真実を語り、正しいことを主張するリーダーを望んでいる」

トランプ氏が大統領経験者として史上初めて起訴された中、来年のアメリカ大統領選挙に向けて動き出しているのが野党・共和党のロン・デサンティス フロリダ州知事(44歳)です。

主要メディアから“Trump with a brain=賢いトランプ”とも評されるデサンティス氏。

かつては“ミニ・トランプ”とやゆされた人物が、どうやってトランプ氏最大のライバルと言われるまでになったのか。いったい何を訴えているのか。その勢いの秘密に迫りました。

(ワシントン支局記者 根本幸太郎)

動き出したトランプ氏“最大のライバル”

「おはよう!自由なフロリダ州から挨拶をお届けする」

 3月10日、デサンティス氏が姿を見せたのはフロリダ州の州都から1500キロ以上離れた中西部アイオワ州のダベンポート。

共和党 ロン・デサンティス フロリダ州知事(米 アイオワ州・2023年3月)

デサンティス氏は2月末に「自由への勇気 アメリカ再生のためのフロリダの青写真」と題した自伝を出版し、全米各地を回る活動をスタート。

デサンティス氏の自伝

会場には有力な大統領候補と目される人気知事を一目見ようと、大勢の支持者が集まり大きな歓声で出迎えていました。

自伝出版後、デサンティス氏がいち早くアイオワ州を訪れたことには大きな意味があります。

この州は、大統領選挙に向けた党の候補者選びの初戦が行われてきた重要な州で、ここでの勝敗が指名争いの流れを大きく左右するからです。

野党・共和党の候補者選び開始まで1年を切ったこのタイミングでの訪問に、アメリカメディアは「大統領選挙への期待にこたえようと、アイオワの人たちに自己紹介した」などと大きく取り上げていました。

デサンティス氏ってどんな人?

現在、44歳のデサンティス氏はフロリダ州出身。名門イェール大学と、ハーバード大学ロースクールを卒業しました。

 在学中に海軍に入隊しイラクでの駐留も経験。テレビ局のニュースキャスターだった妻と3人の子どもがいます。

海軍に所属していた頃のデサンティス氏

そのデサンティス氏がフロリダ州の知事としてのキャリアをスタートさせるのに重要な役割を果たしたのがトランプ氏でした。

デサンティス氏は2012年に連邦下院議員に初当選し、共和党の保守強硬派の下院議員グループ「フリーダム・コーカス=自由議員連盟」の創設メンバーの1人として活動しました。

そこで、当時、大統領だったトランプ氏と緊密な関係を築き、2018年の知事選挙ではトランプ氏の全面的な支援を受けて初当選したのです。

2018年のフロリダ州知事選を前に演説するデサンティス氏とトランプ氏

当時の選挙のPR動画では、トランプ氏の決めぜりふ「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」を使うなど、トランプ人気にあやかろうとする姿から“ミニ・トランプ”とも言われてきました。

「アメリカで最も人種差別的な知事」?

「フロリダでは革新派のエリートたちが社会を支配するのをただ黙って見ていたわけではない。われわれは教育問題で反撃した」

デサンティス氏が共和党内で人気を高めている理由の1つは、トランプ氏にも通じる攻撃的かつ保守強硬な政治姿勢です。

「学校教育がリベラル化し過ぎている」などとして、政治的に意見が対立するテーマについて教えることを制限するよう保守層が求める中、デサンティス氏は次々に保守強硬的な教育政策を打ち出してきました。

2022年3月には小学3年生までの授業で、LGBTなど性的マイノリティーに関する話題を取り上げることを規制する法律を成立させました。

法案に署名するデサンティス氏(2022年)

さらに翌4月には、人種問題をめぐり「黒人などに対する差別が今もアメリカの制度の中に組み込まれている」と教えることを禁止しました。

人種差別を強調し過ぎた授業によって、「白人のこどもたちが罪悪感を抱いている」などとする保守派の声を受けたものでした。

こうした動きに対して、地元では反対運動が起きるなど、デサンティス氏に対する評価は真っ二つに割れています。

反対運動の参加者
「デサンティス知事はアメリカで最も人種差別的な知事だ。教師が真実を教えることを許したくないのだ」

ただ、デサンティス氏は、リベラル派との対決を前面に打ちだすことで保守層からの支持を拡大しており、強気の姿勢を崩していません。

デサンティス氏
「左翼は、税金や公的機関を利用して特定のイデオロギーを押し付けようとしている。しかし、フロリダ州では学校での“洗脳”ではなく、“教育”を行う立場を取っている」

変化するトランプ氏との関係

大統領候補としての期待が高まる中、デサンティス氏は去年11月の中間選挙の前から、トランプ氏と距離を置く姿勢を鮮明にしています。

象徴的だったのは、3月上旬に行われたアメリカ最大の保守派の政治集会「CPAC」への対応です。

これまでの「CPAC」は、大統領選挙に意欲を見せる有力候補が一堂に出席し、共和党支持層にアピールする大事な場となってきましたが、ことしはトランプ氏とその側近が多く出席し、さながらトランプ氏のための集会と化しました。

デサンティス氏は、この時、CPACには出席せず、同じタイミングで開かれていたトランプ氏と対立する保守系団体が主催した別の会合に参加していたのです。

こうしたデサンティス氏の動きに対し、トランプ氏は批判を強めています。

トランプ氏
「聖人ぶったデサンティスの名を聞いたことがあるか?保守系メディアでトランプは支持率でデサンティスを上回っていると報じられているぞ」
「デサンティス氏は私が言っていることをなぞっているだけ。私が望んでいることは何でも彼も望んでいる」
「非常に不誠実で、平均的な知事だ」

デサンティス氏への“口撃”を強めるトランプ氏。

しかし、デサンティス氏はアメリカメディアのインタビューに「私にとって、それは単なる雑音にすぎない」と一蹴しています。

デサンティス氏の評価が高いのはなぜ?

保守強硬な政治姿勢とならび人気のもう1つの理由に挙げられているのが、知事就任後の好調なフロリダ経済です。

フロリダ州の最大都市 マイアミ

フロリダ州はほかの州に比べて税率が低いことなどから、企業移転や移住者が年々、増加。2022年は新たな企業の申請件数がおよそ5万件と全米最多で、地元では、デサンティス氏の減税や規制緩和策などを評価する声が多く聞かれます。

去年11月の中間選挙では、民主党候補におよそ20ポイントの大差をつけて勝利。

勝利演説をするデサンティス氏と妻(2022年)

トランプ氏が支持した候補者が相次いで激戦州で落選するなど、共和党の勢いが伸び悩んだ中での圧勝に、大統領候補に推す声が一気に高まったのです。

共和党の候補者選びを想定した世論調査では、デサンティス氏がトランプ氏に次いで2番手につけ、トランプ氏以外では唯一2桁の支持を集めています。

ただ、デサンティス氏自身は、高まる期待をよそに大統領選挙への対応については沈黙を続けていて、立候補するかどうかが最大の関心事となっているのです。

“賢いトランプ”は立候補するのか?

「連邦政府は体制に大きな問題を抱えている。アメリカの歴史に敬意を払い、自由のための戦いに勝利しよう」

3月、カリフォルニア州にあるレーガン元大統領の記念図書館「レーガン・ライブラリー」を訪れたデサンティス氏。

集まった支持者を前に、バイデン政権がインフレを引き起こしているなどと批判し、国のかじ取りを担う決意をにじませました。

カリフォルニア州で演説するデサンティス氏(2023年3月)

ただ、各種世論調査では、共和党内の大統領候補として、トランプ氏が一貫してトップを維持しており、デサンティス氏は“岩盤”とも言われるトランプ支持層を切り崩すには至っていません。

デサンティス氏は、トランプ氏が大統領経験者として史上初めて起訴されたことについても「政治的意図に沿うために法制度を武器として使うことは、法の支配を根底から覆す」とすぐさまSNSに投稿して、捜査してきた検事を非難。

検事を非難するデサンティス氏のSNS

トランプ氏と足並みをそろえることで、トランプ支持層を敵に回さないよう慎重に対応しているものとみられます。

一方、スキャンダル続きのトランプ氏については、今回の起訴後、支持率が上がるという現象も起きている反面、今後、支持者の間で“トランプ疲れ”がさらに広がり、デサンティス氏がトランプ氏と距離を置いた支持者を取り込む可能性はあります。

“ミニ・トランプ”ではなく、“賢いトランプ”とも評されるようになっているデサンティス氏の立候補表明はいつになるのか。デサンティス氏の動向から目が離せません。

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