2022年11月4日
アメリカ中間選挙 トランプ前大統領

青井実キャスターが見たアメリカ中間選挙 分断の先に変化は?

まもなく投票日を迎えるアメリカ中間選挙。アメリカの有権者は政治に何を求めているのか。
ニュースウオッチ9の青井実キャスターが、4つの州と首都ワシントンで現地取材。
各地の人々を取材して見えてきたのは、社会の分断が深刻化する一方で、若者たちの間で変化の兆しがあることでした。

(ニュースウオッチ9キャスター 青井実)

熱烈なトランプ支持者とはどんな人たちか

今回の中間選挙で注目されているのがトランプ前大統領。「アメリカの分断をより深刻なものにした」とも言われ、そのニュースを伝え続けてきた私は、トランプ氏が実際にアメリカ社会に何をもたらしているのか、知りたかった。

そこでまず向かったのは、バージニア州にある「TRUMP TOWN」。熱烈なトランプ氏支持者が作った、グッズショップだ。

訪ねた理由は、支持者たちの等身大の姿を見たかったからだ。

バージニア州にあるトランプ氏のグッズショップ「TRUMP TOWN」

店に着いてまず驚かされたのが、その外観。

たくさんのアメリカ国旗とTRUMPと書かれた大量のボードが建物を取り囲んでいて、一本道を入ると住宅が広がった場所で、かなり異質な状況を感じた。

店に入ると、すぐにレジに貼られていたポスターが目に飛び込んできた。「Masks Prohibited」(マスク禁止)。トランプ支持者=ノーマスク、ここがどんな場所なのか、一瞬で理解した。

「Masks Prohibited」(マスク禁止)

奥に入ると、トランプ氏の顔がプリントされたTシャツやマグカップ、タオル、ポスターにキーホルダー…。まさにトランプ氏一色の店内に圧倒されてしまった。

店には買い物客が断続的にやってきていて、日曜日だったこともあるのか、ほとんどが家族で訪れていたことも印象に残った。

3人家族の小学生の女の子が、胸に大きく「TRUMP」と書かれたピンク色のエプロンを両親におねだりしていた。全部で200ドル以上のグッズを購入する姿に、まるで、家族みんなで応援するアイドルスターのようにも感じる。

買い物に来ていた人
「ノースカロライナ州から車で2時間かけて来たんだ」
「家にもたくさんトランプグッズがあるけど、また新しいのを買いにきたわ」

店のオーナーは、トランプ氏を彷彿とさせるカウボーイハットをかぶって、ご機嫌にインタビューに答えてくれた。トランプ氏が大統領を退いた後も、世界各地からグッズを買い求めにツアー客が訪れているそうだ。

そして2024年、つまり次の大統領選挙に向けて、大きな期待を抱いていた。

店のオーナー

「グッズショップをオープンして2年。売り上げは好調さ。もちろん、2024年に向けてこの店はやっていくつもりだぜ」

トランプ支持者のその“熱量”に触れることで、市民に対しての影響力・存在感の高さを感じる取材となった。そして、共和党の支持者というよりも、トランプ支持者ということを強く認識した。

2年間で分断はより深まった

熱烈な支持者がいる一方で、取材中、トランプ氏をめぐる分断は深まっていると感じる機会があった。

トランプ氏は、今回の応援演説で「前回の大統領選挙は不正に盗まれた」と根拠のない主張をくり返している。対するバイデン大統領も「トランプ氏とその支持者は国家の敵だ」とまで述べた。

2年前の大統領就任時には、融和を促していた姿とは対照的で、お互いの対立が先鋭化しているのだ。

こうした状況下、接戦州のひとつ、ノースカロライナ州で、共和党と民主党それぞれの集会で話を聞いてみた。

共和党の支持者たち

共和党支持者
「トランプ氏はアメリカを愛しているし、ベストを尽くしている」
「みんな、何らかの分断は経験している。議論は必要だが、最近は二極化しているからそうはいかないと思う」

一方、民主党を支持する人たちは、前回の大統領選以降、対話の機会が失われてしまったと指摘。中には、「人々が礼節を欠くようになり、尊重し合うことを忘れてしまっている」とあきらめたように話す人もいた。

分断が家族などの身近な関係まで変えてしまったという人にも出会った。

キャロル・ブレインナードさんは、代々、共和党を支持する家庭に育ったが、今は民主党を支持している。
トランプ氏が大統領になるまでは、離れて暮らす姉とは政治について議論する仲だったが、今は話すらできなくなったと打ち明けてくれた。

キャロル・ブレインナードさん
「姉は教養があると思っています。しかし今では、2年前の大統領選挙に不正があったというような陰謀論を信じています。年を取ったら考え方を変えることは容易ではないし、私はいま、人生の中で最も分断を感じています」

ブレインナードさんの30年以上のパートナー、ナンシー・ハーデンさんも悩みを抱えている。

時折、冗談を交えながら場を和ませ、明るい性格をうかがわせるナンシーさん。

異なる考え方を知りたいと思い、地元のゴルフサークルでトランプ氏を支持する友人を作った。友人とは少しずつ政治の話をするようになってきたが、今も聞きたいことをすべては議論できていないと言う。

ナンシーさん(中)、キャロルさん(右)とともに

30年余りにわたって全米規模で、異なる考え方を持つ市民同士の対話を推進してきた団体も取材した。

幹部は、違う考えの人と関わることに不安や恐怖を感じるようになった人が増え、違う政治信条を持つ人と子どもを結婚させたくないという親や、価値観が同じで親密さを感じる地域に引っ越していく人もいると話してくれた。

「分断はさらに進んでいる」と実感し、トランプ氏が今度の中間選挙でどこまで影響力を持つのか、とても気になるようになった。

分断乗り越える兆し 若者たちと出会って

家族ですら分断を経験しているアメリカ社会。しかし、今回の取材で変化の兆しも感じることができた。

Z世代と呼ばれる若者たちに出会ったからだ。

「Z世代」は、1990年代半ば以降に生まれた、10代から20代後半の世代。アメリカでは人口の20%あまりを占め、これから本格的に政治に参加してくる。

Z世代の若者は、アメリカの将来をどう考えているのか。大学が集まるノースカロライナ州の州都ローリーで聞いて回った。

今回の選挙が初めての投票になるという大学生たちは口々に、意見の異なる人と話した上で、投票に臨みたいという気持ちを持っていることを話してくれた。

中には、アメリカの二大政党制に疑問を投げかける学生もいて、支持する政党は違っても、支持しない政党の政策にも共感を示す若者がいる現状を知ったことは貴重な機会だった。

ノースカロライナ州立大学の学生
「対話の断絶こそがより二極化を進めることになるし、議事堂乱入事件みたいなことにつながる。意見を聞いて、節度をもった対話、どなり合いではない対話をしたい。考えの異なる相手の考えを聞きたいし、私の考えを聞いてもらいたい」

共和党支持者の中にも、直接、人々と会うことで世の中を変えていきたいと考える若者に出会った。

21歳の大学生、リバー・コリンズさんは、ノースカロライナ州で住宅を1軒1軒まわり、候補者のパンフレットを地道に配っていた。

自分の時間を選挙応援活動にあてている原動力がどこにあるのかを聞くと、今の下院は、60代後半か70代の議員が多く、若者の代表が圧倒的に足りないことへの危機感からだと言う。

さらに、中間選挙は、大統領選挙よりも自分たちの身近にいる候補を直接応援できる機会と考えていて、まずは中間選挙で若者の声を代弁してくれる候補を多くの人に知ってもらった上で、当選させたいと語ってくれた。

コリンズさん(中)とその友人(左)

Z世代の取材を通して意外だったのは、若者たちが必ずしもデジタルツールに頼っていないことだった。アメリカに行く前は、若者達はSNSなどのデジタルツールを最大限駆使して選挙に参加していると思っていたが、実態は少し違っていた。

SNSはもちろん利用しているが、それはあくまで一つの手段で、自分たちの意見や考えを直接交換する機会を求めて、精力的に活動していたのだ。デジタルに慣れ親しんでいる世代だからこそ、何が本当で何がフェイクなのか、判断しづらくなっていると言う。

デジタルツールだけに頼るのではなく、むしろ直接会ってコミュニケーションを取るということにニーズを感じているのではと思った。

今回の選挙、将来、大きな票田になっていくZ世代の多様な考えを各党がどれだけ受け止められるのかも、鍵になりそうだと感じた。

アメリカで感じた人々の息づかい

日本にいる時は、「分断、分断」と言葉だけが1人歩きしていたように感じていたが、実際にアメリカに来て取材をしてみると、それに悩み向き合う人が生活していることを実感し、その切実さを重く受け止めた。

一方で、取材した若い世代の「対面でのコミュニケーションを重視したい、現状を打開したい」という思いに触れて、小さいことかもしれないけれど、分断を乗り越えたいという、希望というか明るさも感じることができた。

まもなく迎える中間選挙。人々の息づかいを大切にして引き続きお伝えしていきたいと思う。

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