2022年10月12日
中国

ゼロコロナ政策まだ続くの? 中国人の本音は

世界各国が“Withコロナ”に舵を切る中、中国では今も“ゼロコロナ”政策が続いています。

経済の低迷に追い打ちをかけ、人々の生活を制約するゼロコロナ政策、中国ではどう受け止められているのでしょうか。

現地で特派員が耳にした、中国の人たちの本音とは?

(中国総局記者 松田智樹)

ゼロコロナ政策で犠牲者も

中国では感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ政策」が続いています。ひとたび感染者が出れば建物や地区全体が封鎖されるため、常に行動制限のリスクと隣り合わせの日々です。

中国入国後 隔離中の記者の部屋を検査する担当者

中国の国民はこの政策をどう受け止めているのか。実のところ、複雑な思いを抱えているようです。それをまざまざと感じたのは、ことし9月のバス事故でした。

内陸部・貴州省の高速道路で、大型バスが横転し、乗っていた47人のうち27人が死亡。実はこのバス、当局が新型コロナウイルスの感染リスクがあると判断した人を隔離先に搬送する途中で事故を起こしていたのです。

中国では、本人が感染していなくても、感染者が確認された集合住宅に住んでいるだけで感染リスクがあるとみなし、強制的に隔離させるケースが相次いでいます。ゼロコロナ政策を徹底する中での悲惨な事故でした。

その直後、中国人の知人がメッセージを送ってきました。

「貴州省でこれまでコロナで死んだのは2人だけだ。それなのに、感染対策中の事故で27人が犠牲になった。ゼロコロナ政策と人命、どっちが大事なんだ。おかしいよ」

深刻な病状を訴える人や妊娠中の人などが治療を受けられず亡くなったり、みずから命を絶ったりするケースも相次ぎました。当局によるゼロコロナ政策の犠牲者が、実際に感染して亡くなった人よりも多くなるという矛盾が起きているのです。

検査員はアニメのキャラ?

PCR検査を待つ人の行列

一方、厳しい感染対策が続く中で、皮肉めいた言葉を耳にしました。

中国各地では、感染を調べるためのPCR検査が行われ、時に大行列になっています。私が空港で列に並んでいたとき、「ダーバイ(大白)がたくさんいるな」という声が聞こえてきました。

「ダーバイ」とはいったい何でしょうか。

調べてみると「ダーバイ」とはディズニーアニメのキャラクター「ベイマックス」を指しているようです
。中国人の知人に聞いてみたら「白い防護服で身を包むコロナの検査員の姿がアニメのキャラクターにそっくりなので、ダーバイと呼んでいる」と教えてくれました。

表立って当局を批判するのが難しい中で、市民のささやかな抵抗とも感じました。

いま、北京市内では、あらゆる施設の立ち入りや交通機関の利用に72時間以内のPCR検査の陰性証明が求められています。また、市外から北京を訪れた場合などには48時間以内の陰性証明が必要です。

このため市民は数日おきに街角のPCR検査場で検査を受けなければなりません。

ダーバイたちの多忙な日々は当面続きそうです。

スマホの行動履歴から感染リスクを判定!?

自分の行動が、大きな制約を受けていると感じることもあります。

北京市内では、PCR検査の結果はたいてい翌日、スマートフォンの「健康コード」と呼ばれるアプリに反映されます。
オフィスビルや地下鉄・バスなど、ありとあらゆる場所でこのアプリの提示を求められるため、スマホがなければどこにも外出できません。

さらに、この「健康コード」の特徴は、スマホの通信記録などをもとに持ち主の行動を把握し、感染リスクを独自に判定するところです。

感染者が出た地域に行ったと認識されると、濃厚接触者でもないのに「健康コード」に「あなたはリスクのある地域と関係があるかもしれない」というポップアップメッセージが表示されます。

ポップアップメッセージが表示された「健康コード」

この表示は自分では解除できず、数日間、自宅で隔離生活を強いられることになります。メッセージが消えるまでただひたすら待たなければなりません。

PCR検査で数回陰性になるなど、感染していないことをみずから証明できれば、地元の当局がメッセージを消してくれますが、大変な労力が必要です。

ビルに入るため「健康コード」を提示する人々


常にスマホを持ち歩き、感染情報を確認する日々。

万が一、スマホを自宅に忘れると、どこにも行けません。自宅に戻ろうとしても、入り口でスマホの健康コードの提示が求められるのです。

移動の自由もプライバシーも制限されるゼロコロナ政策の厳しさを実感させられます。

中国のゼロコロナはいつまで続く?

習近平国家主席(2022年6月)


いま、世界各国が“Withコロナ”で規制の緩和に向かっています。しかし、中国では感染対策を緩めれば短期間のうちにたくさんの死者が出るとして、感染を徹底して抑える方針を堅持しています。

そして、10月16日からは、5年に1度開かれる最重要会議、共産党大会が開かれます。
その後、政府の陣容が固まる来年3月の全人代=全国人民代表大会も控え、中国は政治の季節を迎えています。

そのため来年の春ごろまではゼロコロナ政策が続くのではないかという見方が一般的です。

「もう勘弁して」 国民の忍耐はどこまで

中国の人たちはゼロコロナ政策に黙々と従っているように見えましたが、胸の内は違うということに気付かされた出来事がありました。
日中国交正常化から50年となるのを記念して9月に北京で開かれたイベントでのことです。


会場では日本酒や化粧品など中国に進出している日系企業の商品を展示。日本の観光地や漫画とアニメの舞台となっている場所も紹介されました。
訪れた中国の人たちは久しぶりに自由に外国旅行ができた“Beforeコロナ”のころを思い出しているようでした。


30代の女性は、「感染が拡大する前は食器や工芸品、日本酒などを買いによく日本に行きました。日本製は品質やデザインがいいですから。隔離が不要になって旅行ができるようになったら、いつでも出発できるように準備をしています」と話していました。

50代の男性も「新型コロナの影響でこうしたイベントは長い間中止されてきたので、新しい情報を探しています。自由に往来ができるようになったら、すぐに日本に行きたいです」と話していました。

笑顔でインタビューに応じてくれ、長引くゼロコロナ政策にストレスを感じているのは自分だけではなく中国の人たちも同じだと感じました。
中国人の企業経営者からは「ゼロコロナはもう勘弁してほしい。ビジネスにならない」というぼやきも聞こえてきます。

中国では国民の行動が制限されるとともに、国内のニュースで、規制緩和に向かう世界の動きが伝えられることはありません。国民に知らされるのは、国内の感染状況ばかり。

若い世代はSNSを使って外国の情報を入手していますが、大部分はほとんど知らされていません。いわば“鎖国”のようにゼロコロナを目指しています。習近平指導部は共産党大会で、党の一党支配のもと、効果的に感染を抑え込んだとアピールするかもしれません。

ただ、それは中国で生活する1人1人の負担によって絞り出された成果ともいえます。“開国”を願う声は習指導部に届くのか。ゼロコロナ政策が終わり、両国の人々の往来が以前のように戻ることを祈らずにはいられませんでした。

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