2022年9月29日
韓国 アメリカ 朝鮮半島

子どもの命を守る スクールバスの安全対策、海外では

静岡県で3歳の女の子が通園バスの車内に取り残され、熱中症で死亡した事件を受けて、小倉少子化担当大臣は29日、保育所などの送迎バスに安全装置の設置を義務づけるよう、関係府省に指示しました。

海外では、こうした安全装置をすでに導入している国々があります。

子どもの命を守ろうとするアメリカと韓国の取り組みを取材しました。

(アメリカ総局・佐藤真莉子、ソウル支局・長砂貴英)

スクールバス大国アメリカでは

19世紀後半、スクールバスの前身ともいえる馬車が導入されたアメリカ。映画やドラマでおなじみの「黄色いスクールバス」は、1939年に、夜明けや夕暮れ時に黄色が1番見やすいとして専門家が提唱して全土で導入が進みました。

アメリカではスクールバスの運転手になるためには身体検査など厳格な基準が設けられ、子どもの安全を守るため、特別な訓練を受ける必要があります。

後部座席の確認・置き去り防止装置の設置を義務化の州も

ただ、置き去り対策については、全国レベルでの統一された基準はなく、州や学区ごとに、さまざまな対策がとられています。

このうちオハイオ州では、州の法律で、運転手は子どもたちを降ろした後、取り残されている子がいないかどうか、後部座席まで確認することが義務づけられています。

さらに、インディアナ州では、2015年1月1日以降に製造されたすべてのスクールバスに、子どもが取り残されているか確認する装置の搭載を義務づけています。

子どもたちがバスを降りてから2分以内に、運転手が子どもがいないかどうか確認し最後尾に設置されたボタンを押さなければ、アラームが鳴り、バスのヘッドライトが点滅する仕組みです。

アラームを停止させるボタンを押す女性(画像提供:IC Bus)

州では装置の搭載を進める一方で、それでも発生している置き去りの全体像を把握するため、発生した場合の報告を義務づけました。その結果、平均して1年間に21件の置き去りが起きていたことがわかり、さらなる対策の必要性が議論されています。

インディアナ州のデータを元にNHKが制作

最新技術を導入する州も

こうした中、一部の州では、最新技術の導入も始まっています。

運転手などの見逃しを防ぐために、子どもがバスに取り残されていた場合、センサーがその心拍を感知してライトが赤く点灯するほか、通知が運転手などのスマートフォンに届く仕組みです。

子どもの心拍を感知して置き去りを防ぐ最新装置(画像提供:LiDAS)

開発した企業によりますと、現在、この装置を導入しているのは、アメリカのミシガン州やオハイオ州、それにフロリダ州の一部の都市だけだということです。

普及していない理由はコストです。バス1台につき、3000ドル(日本円でおよそ43万円)ほどかかるため、従来の装置と比べると20倍ほどかかります。導入のための負担を拒んでいる州もあり、それぞれの学区などで独自に購入し、設置を進めているといいます。

韓国は国を挙げて対策

お隣の韓国でも、国を挙げて送迎バスで子どもの置き去りを防ぐ対策が進められています。

契機となったのは2018年、送迎バスに置き去りにされた4歳児が熱中症で死亡したことでした。

韓国では、それ以前にも同じようにバスへの置き去りで幼児が死亡したケースもあり、当時、子どもの犠牲をこれ以上繰り返してはならないという社会的な機運が高まりました。

置き去り防止のための装置導入義務化を知らせる韓国警察庁などの発表資料(2019年)

その年のうちに、道路交通法などの改正が行われ、アメリカと同様の装置のスクールバスへの導入が義務づけられました。

エンジンを切ったあと、運転手はバスの後部座席付近に設置されたボタンを3分以内に押すことなどまで細かく定められています。運転手はこれに反した場合、反則金が課されることにもなりました。

そして、国が交付金を出して、幼稚園や小中学校の送迎バスへの装置の普及を進めることになったのです。

2021年からは送迎バスの窓ガラスの透明度の検査も義務づけられました。これは、子どもの置き去りが起きてしまった場合に備えて、外から車内を見えやすくするという対策です。

韓国・ソウルの子どもの送迎バス(2022年9月27日撮影)
子どもの置き去り防止を設置していることが入口に表示されている

専門家 “個人の注意力だけにまかせない”

韓国の交通行政に詳しい韓国交通研究院のモ・チャンファン(牟昌煥)研究委員は、再発防止にはバスへの装置の導入などハード面での対策が欠かせないと強調しました。

モ・チャンファン(牟昌煥)研究委員

「99回続けてミスがなかったとしても、100回目にミスがあれば、その一度で取り返しのつかないことにつながります。万一、置き去りが起きたとしても、子どもが犠牲にならないようにハード面の整備が必要です。そのためには当然コストがかかりますが、それは社会で負担すべきです。子どもを守るための予算であれば、意味ある税金の使い方といえます」

その上で、韓国でも送迎バスに置き去り防止のための装置の設置が義務化されて以降に、子どもがバスの中に置き去りになった事例があったといいます。

モさんは、装置が導入されても、適切に設置されていなかったり、車内を十分確認しないままアラームを解除したりするケースもあったとして、対策には不断の努力が欠かせないと指摘しました。

「規制や制度をつくって、反則金まで設けても、それが完璧に守られるとは限らないということです」

「システムや制度を整えれば終わりということではありません。運転手や幼稚園・学校などへの定期的な研修だとか、装置の設置や作動状況を外部の目も交えて確認するなど、対策が形骸化しないように絶えず繰り返しチェックしていくことが大切です」

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