2022年9月27日
アメリカ中間選挙 トランプ前大統領 バイデン大統領 アメリカ 注目の人物

トランプ氏が切り札?アメリカ中間選挙 民主党の選挙戦略は?

「“バイデンのアメリカ”か、“トランプのアメリカ”か。それを問う選挙に変えようとしている」

ことし11月に行われるアメリカの中間選挙。
大統領選挙の「中間」の年に行われる、連邦議会上下両院の議員などを選ぶ選挙で、大統領を選ぶ選挙ではありません。

にもかかわらず、与党・民主党はいま、あえてバイデン大統領とトランプ氏との対立構図をつくり出そうとしています。
いったいなぜなのか、背景には何があるのでしょうか。

(ワシントン支局 渡辺公介)

“民主主義を救う”のはどっち?

「トランプ氏と一部の支持者たちは過激主義を打ち出し、われわれの国の根幹を脅かしている」

9月1日、バイデン大統領は、独立宣言が採択され「民主主義発祥の地」とも呼ばれる東部ペンシルベニア州の最大都市フィラデルフィアでこう訴えました。

2020年の大統領選挙の結果を受け入れない共和党のトランプ前大統領と一部の支持者らが民主主義の脅威となっていると非難。

その上で、“民主主義を守る”ためだとして、民主党員や無党派層だけでなく、共和党穏健派に対しても民主党候補への投票を呼びかけたのです。

演説するアメリカ バイデン大統領(2022年9月1日)

バイデン大統領
「はっきりさせたいのは、すべての共和党員がトランプ氏の過激な支持者ではないことだ。
民主党員、無党派層の人たち、そして、共和党主流派の人たちよ。
われわれはアメリカの民主主義を破壊しようとしている過激なトランプ支持者よりもより強い決意を持ってアメリカの民主主義を救わなければならない」

これに対して、トランプ前大統領もこの演説の2日後、ペンシルベニア州で演説を行い、強く反論しました。

反論するトランプ前大統領 (2022年9月3日)

トランプ前大統領
「バイデン氏は歴代大統領の中で最も憎しみに満ち、分裂を招く演説を行った。彼は国家の敵だ。
われわれこそが、アメリカの民主主義を救う。
11月の選挙では不健全で無秩序、そして死の専制主義に立ち向かい、この国を取り戻す」

なぜトランプvsバイデンに?

「バイデン大統領と民主党のねらいは、共和党内の分断だ」

専門家はこのように指摘した上で、トランプ前大統領との対立構図をつくり出すことで、“政権に対する有権者の審判の場”ともいわれてきた中間選挙を、従来とはまったく違う形の選挙にしようとしていると分析しています。

ジョージ・ワシントン大学 トッド・ベルト教授

ベルト教授
「バイデン大統領の支持率が50%を下回っている現在の状況では、民主党が議席を増やしたり、あるいは、議席の減少に歯止めをかけたりするのは難しい。
そこで、中間選挙をバイデン政権の是非を問う選挙ではなく、“バイデンのアメリカ”か“トランプのアメリカ”かを問う“選択選挙”と呼ばれる形に変えようとしている。
バイデン大統領は、『トランプ氏の過激な主張に賛同する候補に投票すれば、民主主義を支持しない候補に投票することになる』と強調することで、共和党の分断をねらっている」

中間選挙では、有権者は、現政権が打ち出してきたさまざまな政策に対する「不満」をエネルギーに投票所へ足を運ぶとも言われています。

こうした個別の政策への反発をかわすため、バイデン政権と民主党は、トランプ氏を持ち出してきているというのです。

民主党が個別の政策の是非を問う選挙にしたくない背景は?

個別の政策では国民の批判が高まっている分野があるためです。

その1つがバイデン政権の移民政策です。

「前政権の有害で非生産的な移民政策を見直すための大統領令に署名する」

大統領令に署名するバイデン大統領(2021年2月)

このように述べて、バイデン大統領は就任後、移民や難民を厳しく制限したトランプ前政権からの転換を強く打ち出し、受け入れの拡大を表明しました。

しかし、共和党側は、この政策転換が寛容な対応を期待する中南米からの移民や難民の無秩序な流入につながり、“国境危機”をもたらしたと批判しています。

“国境危機”の実態はどうなっているのか。

わたしたちは8月末、メキシコとの国境の町アメリカ南部テキサス州イーグルパスに向かいました。

アメリカとメキシコを隔てるリオグランデ川の河川敷には、川沿いに有刺鉄線が張り巡らされ、国境警備当局の車両が頻繁にパトロール。

メキシコとの国境の川沿いに張り巡らされた有刺鉄線

自動小銃を携えた部隊や番犬が警戒するなど、ものものしい雰囲気に包まれていました。

それでも川を泳いで渡ろうとする人は後を絶ちません。

国境の川を泳いで渡ろうとする人たち

わたしたちが取材に訪れている間も浮き輪の代わりに空のペットボトルを首や腕に身につけている人や生後まもない赤ちゃんの姿までありました。

昼間だけでなく、夜も国境を越えようとする人は後を絶たず、国境警備局の担当者が川から上がってきた人たちを取り調べていました。

国境警備当局に検挙された人は9月末までの1年間にのべ200万人を超え、過去最多になる見通しです。

トランプ前政権下だったおととしの同じ時期と比べると4倍以上に増えています。

バイデン大統領の移民政策を「支持する」と答えた人は9月時点で35%にとどまっています。

伝統的な支持層からも反発が

こうした国境の状況は、民主党の伝統的な支持層とされる中南米にルーツを持つヒスパニックの支持にも影響を与えています。

ヒスパニックが人口の8割を占めるテキサス州マッカレンの郊外に住むデブン・ガルシアさんは、メキシコからの移民5世です。

中南米から国境を越えて来た人たちの中には、当局の管理から逃れようという人たちもいて、治安が悪化していると不安を募らせています。

壊されたフェンスを見せるデブン・ガルシアさん

ガルシアさんは民主党支持の家庭に育ち、おととしの選挙ではバイデン大統領に投票しましたが、移民政策に失望し、中間選挙では共和党の候補者に投票するつもりだといいます。

ガルシアさん
「農場を囲うフェンスは“国境危機”を迎えてから何度も壊され、頻繁に修理しなくてはならなくなっている。
国境に関する政策でも雇用に関する政策でも共和党の方がすぐれていると思う。
“国境危機”をなんとかしてほしい」

記録的なインフレも逆風に

もう1つ、バイデン大統領に逆風となっているのが記録的なインフレへの対応をはじめとする経済政策です。

取材を進めると、バイデン政権の経済政策に不満を感じ、支持を変えたという人が少なくないこともわかりました。

中西部ウィスコンシン州の最大都市ミルウォーキーで法律事務所に勤めるクリスタ・ペルクさんも、その1人です。

クリスタ・ペルクさん

ペルクさんは自分のことを中間層だと考えていますが、インフレの影響で生活に余裕はなくなってきているといいます。

2020年の選挙では、中間層や労働者を重視する姿勢を強調するバイデン大統領に投票しましたが、11月の選挙では、共和党候補に投票することを決めたといいます。

ペルクさん
「果物も肉も野菜もすべて値上がりしている。
旅行に行くこともあまりなくなり、近所を散歩するくらいだ。
バイデン大統領が経済に強いとはとても思えない。
中間層を支援すると言っているが、わたしが考えている中間層とは違うようだ。
共和党の候補者の方が中小ビジネスにとってよい環境を整えてくれると信じている」

政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」のまとめによると、バイデン大統領の支持率は、このところやや上向いてはいますが、9月25日時点の各種世論調査の平均で42.8%と依然、低い水準です。

中間選挙は、議会選挙などへの投票を通じて、そのときどきの大統領の政権運営に対して有権者が審判を下す機会と位置づけられてきました。

その中間選挙で、バイデン大統領のこの2年間の政権運営の是非ではなく、“民主主義を救う”という論点で民主党が“バイデン対トランプ”の構図に持ち込み、従来の支持層だけでなく、無党派層や共和党穏健派まで取り込むことができるのか。

それとも共和党が、インフレや移民対策などで民主党を徹底して批判する戦略が功を奏するのか。

攻防は激しさを増しています。

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