2022年8月8日
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「“児童婚”は当たり前だと思っていた」ベトナムの子どもたち

15歳、16歳で結婚するのが当たり前。

だから、17歳で結婚するのも“普通のこと”だと思っていました。

ただ、3人の子どもをもうけ、22歳になった今、自分の中に「何もない」感じがしています。

進学もできず、自分の人生を自分で決めることもできない。

時間が戻せるのなら、時間を戻したい。そう思っています。

(前ハノイ支局長 道下航)

10代で結婚するのが当たり前

「15歳、16歳ですでに結婚している人もいます。私のように17歳で結婚するのは、少し遅いと言う人もいます」

こう話すのは、ベトナム人のマイさん(22)です。ベトナム北部の山間部、中国と国境を接するハザン省に暮らしています。

マイさんが結婚したのは、17歳。相手の親から結婚を迫られ、決断したといいます。

ただ、若くして結婚するのは、マイさんにとっては「当たり前のこと」だったことから、受け入れることに疑問を抱くことはなかったのだそうです。

少しでも親の助けになれば

6人きょうだいの次女として育ったマイさん。末っ子の弟以外は、全員女子。

その地域では、伝統的に跡継ぎとなる男の子が大切にされてきたことから、両親も男の子を欲しがっていたようです。

しかし、大家族となったことで、常に生活は楽ではありませんでした。姉と一緒に学校に通っていましたが、高校生になる頃には「両親に苦労をかけたくない」と思うようになりました。

そんなとき、マイさんに結婚の話が持ち上がりました。相手は、同じ地区に住む少年。昔から顔見知りで、家にも遊びに行ったこともありました。

結婚を持ちかけてきたのは、少年の両親でした。遊びに行くと「結婚しなさい」と言われたといいます。

少年の家は、マイさんの家よりも暮らしぶりがいいこともわかっていました。

マイさんは、実家を離れて、この家に面倒を見てもらうようになれば、両親の負担を減らせると考えるようになっていきました。

家族のためになりたい。

その思いで少年と結婚し、どんな将来になるのかは、考えもしませんでした。

惨めだと感じる人生

結婚して、少年の家で暮らすようになったマイさん。

学校には通い続けたいと思いましたが、義理の両親は認めてくれませんでした。

3人の子どもをもうけ結婚生活に不満があるわけではありませんでしたが、その間、マイさんは徐々にある思いを募らせていきました。

「自分の中には、何もないんじゃないか」

進学できずに、多くのことを学べていない自分。仕事のためのスキルも身につけられていない。義理の両親の家に住み、生活も誰かに頼らざるをえない。

こうなった理由を考えれば考えるほど、早くに結婚したことを後悔するようにもなりました。

結婚以外の選択肢を自分で選べなかったこと、そういう選択をするためには幼すぎたこと。自分の人生を、自分で決められない。

マイさんは、自分の人生が“惨め”だと感じていると話します。

「私は、勉強などの人生のあらゆる機会を失っていて、仕事を持つことができない状況になっているんだと感じるようになりました。自分の将来のことでさえ、自分で自由に決められないことに気付いたんです」

ベトナムで続く児童婚

ユニセフ=国連児童基金は、「児童婚」について「18歳未満での結婚、またはそれに相当する状態にあること」と定義しています。

ベトナムでは、マイさんが話したように、18歳未満で結婚する「児童婚」は決して珍しいことではないのでしょうか?

ベトナム政府や国連が2020年から2021年に行った「児童婚」に関する調査があります。

この中で、ベトナム全国の20歳から24歳の女性、1352人を対象に調査が行われました。

この調査によると、18歳未満で結婚した人は、14.6%。7人に1人が「児童婚」という計算になります。

また地域別では、都市部の人のうち2.4%、都市部以外の人のうち23.2%が、18歳未満で結婚していました。都市部には、首都ハノイやホーチミンの人もいました。

民族別で見ると、少数民族のモン族のうち57.7%、多数を占める民族のうち9.5%が、18歳未満で結婚していました。

少数民族の中で「児童婚」が多くなっていますが、ユニセフは「少数民族の文化だけに関連づけられるものではない」と強調しています。

実はベトナムの法律では、結婚できる年齢は、男性が20歳以上、女性が18歳以上と定められています。

しかし、一部の少数民族が住む地域などでは、貧しい家庭が経済的な負担を減らすために娘を嫁がせ、迎える側にとっても働き手となることなどから、幼い少年や少女が結婚することは、現在でも珍しいことではないのです。

それを象徴するかのように、2022年、ある動画がSNS上で注目を集めました。

少年が力づくで連れ去ろうとしているとする動画の一部

地面にしゃがみ込む14歳の少女。その少女を、16歳の少年が力づくで連れ去ろうとしていました。少年は少女に結婚を迫っていたのです。

ただ、周りの大人は、ただ様子を見守るだけ。

大人が誰も止めなかったことに、SNS上では、驚きの声が数多く上がっていました。

この動画は、マイさんが暮らすのと同じ、ハザン省で撮影されたものでした。

「児童婚」をした子どもたちは

実際にハザン省を訪れ、「児童婚」をした子どもたちに話を聞くことができました。

2人が結婚したのは4年前、少年が13歳、少女が11歳の時でした。義務教育はまだ終えていませんでした。

少女は、14歳になった2021年、第1子を出産。2人は、父親と母親として、まもなく1歳になろうという赤ちゃんを育てています。

11歳で結婚したことをどう思っているか質問すると、少女は次のように答えました。

「同じ村に住み、一緒に成長しました。お互いが愛し合って、結婚しただけです」

結婚する前に首都ハノイに行って見たかったと屈託なく話す彼女には、まだあどけなさが残っていました。

一方、少年は、沿岸部の都市に出稼ぎに行きましたが、体力がもたずに数週間で戻って来たといいます。

今、2人には、安定した収入を得られる手段がありません。小さな農園で取れる野菜などを食べ、自給自足の生活を強いられています。

新型コロナが「児童婚」を増加させた?

「児童婚」は、国連が掲げる持続可能な開発目標SDGsの2030年に達成する目標の1つとして撲滅が掲げられています。

ベトナムでも、「児童婚」を減らす取り組みが進められつつあり、減少傾向にあるとされていました。

そんな中、新型コロナウイルスが猛威を振るいました。

学校では、一時期、対面授業を休止する措置がとられ、オンライン授業に切り替わりました。

しかし、誰もが参加できるわけではありませんでした。ハザン省のような貧しい地域では、オンライン授業に参加できない子どもも少なくなく、中には、学校に通うのをやめ、結婚する子どもたちが出てきたというのです。

対面授業を再開したハザン省にある学校を取材すると、教師たちは、「児童婚」が疑われる子どもたちと面談をして、思いとどまるように説得していました。

児童と面談する教師

ある教師は、面談した1人の少女について教えてくれました。その少女は次のように話していたといいます。

「好きになった少年がいる。その少年に学校をやめて結婚してほしいと迫られている。でも学校はやめたくない」

教師の説得を受けて、その少女は結婚を思いとどまっているということです。

一方で、その教師は、次のようにも話しました。

「長年にわたって、この地域で続く児童婚の習慣を変える努力をしてきました。私たちが児童婚をしないよう話しをすると、子どもたちもよく理解していると感じます。
 
しかし、好きな人に出会って感情が揺さぶられたり、家族からの働きかけにあったり、そして、新型コロナのような社会状況の変化に直面したりすると、子どもたちの気持ちは簡単に『児童婚』に引きつけられてしまうのです。
 
児童婚は、確かに減ってきていますが、今も、無くなったわけではないのです」

「児童婚」の状況を変えたい

子どもたちの教育の機会を奪うだけではなく、社会的な孤立にも追い込むと、ユニセフが指摘する「児童婚」。

女性の場合は、家庭内暴力を経験する可能性が高いほか、早すぎる妊娠などにつながり、命を危険にさらすリスクを高めると指摘されています。

冒頭で取材したマイさんは、こうした「児童婚」の状況を変えていきたいと、教育の大切さや若くして結婚したり、妊娠したりする危険性について、子どもたちに伝える活動を続けています。

子どもたちに話をするマイさん

児童婚の問題などに取り組む、国際的なNGOで研修を受けて、児童婚やジェンダーの平等について学んだマイさんは、地元の行政やNGOの支援を受けながら、地域の少女たちを集めて定期的に会合を重ねています。

その中で、マイさんが自分自身の経験も踏まえて、少女たちに強調していることがあります。

「結婚は誰かに無理やり決められるものではない。結婚したいと思ったときに、自分で決めるもの。私のようになってはダメ」

将来を見据え勉強を続け、経済的に自立できるようになって、自分の人生を自分で決められるように。結婚は、そのあとでも遅くない。

マイさんは、たとえ地道な活動であっても、ひとりでも多くの少女たちに、そのことを伝えてたいと考えています。

「児童婚をすでにしている私や、私の上の世代の人生は変えられないのは分かっています。でも、若い世代の人生ならきっと変えられるはずです」

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