2023年4月20日
ドイツ プーチン大統領 ロシア

”血の風呂に浸かる” プーチン大統領 風刺が映す軍事侵攻

血の風呂にかるロシアのプーチン大統領に、ヤギに後ろから突き上げられるドイツのショルツ首相。

目の前に現れたのは、各国の首脳を皮肉るなどした、巨大な山車。

ロシアによるウクライナ侵攻は、世界の祭りにも影響を与えている?

いったいどういうこと?取材しました。

(国際部記者 松本弦)

3年ぶり、伝統のカーニバル

2023年2月、ドイツ西部にある、多くの日系企業のヨーロッパ拠点でもあるデュッセルドルフは、熱気に包まれていました。

沿道には大勢の人

新型コロナの影響を受けて2年連続で中止されていた、伝統のカーニバルのパレードが3年ぶりに開催されたのです。

ドイツのカーニバルは地域によって特色がありますが、デュッセルドルフで開かれるものは、国内最大級です。

カーニバルは11月に始まり、ハイライトは「バラの月曜日」と呼ばれる2月20日のパレード。

会場では沿道にお菓子が投げ込まれていました

この日、取材に訪れると、沿道には数十万人もの人たちが集まっていて、そんな中、ブラスバンドやダンサーなどが、通りを練り歩いていました。

報道席からその様子を取材していると、何やら遠くからでもわかる巨大なものが…。

名物、風刺の山車

それは、とても大きな山車でした。

実はデュッセルドルフのカーニバルは、社会問題や政治を痛烈に風刺する山車が、最大の見ものなんです。

今年の“風刺の山車”の中でも注目を集めたのは、やはりロシアによる軍事侵攻。

現れたプーチン大統領の山車

まず出てきた山車は、プーチン大統領を風刺するものとなっていました。真っ赤な色の湯にかるプーチン大統領。浴槽は、ウクライナの国旗と同じ、青色と黄色に塗られています。

聞くと、赤い湯は、ウクライナの人たちが流した血を表しているのだそう。一方、湯にかるプーチン大統領は、平然とした表情を浮かべ、ブラシで体を洗っています。

6本の腕があるプーチン大統領も

体の部分には「プーチン氏の狂気」という文字も

しばらくすると、今度は顔を真っ赤にして怒るプーチン大統領の山車が現れました。

手が6本あり、何かを叫んでいるように見えます。それぞれの腕には、ウクライナやアメリカなどの国旗が描かれ、すべてに「ナチス」という文字も書かれていました。

ウクライナや欧米などを「ナチス」になぞらえ批判するプーチン大統領こそ、「ナチス」のように見えるという皮肉が込められています。

このほか、ドイツのショルツ首相が、後ろからヤギに突き上げられて、体をのけぞらせて苦悶の表情を浮かべる山車もありました。

ショルツ首相も風刺される

こちらは、ウクライナへの戦車の供与に慎重な姿勢を続けていたショルツ首相を風刺したものとなっていました。

集まった人たちは、3年ぶりのパレードの中でもこの“風刺の山車”を待ってましたとばかりにスマホを取り出して、写真や動画を撮っていました。

今年の“風刺の山車”は12台。主催者が募集して、市民が作っているのだろうかと調べてみると…。

山車を作っているのは、1人の男性?しかも、40年にわたって作り続けている?

にわかに信じられませんでしたが、その男性を訪ねてみることにしました。

ユーモアと皮肉に満ちた精神

カーニバルの会場からほど近い場所にある、工房として使っている倉庫に、その男性はいました。

ジャック・ティリーさん

デュッセルドルフ出身のジャック・ティリーさん(59)。

ふだんは舞台装飾などを手がけるアーティストとしても活動していますが、40年前から、カーニバルのメインイベントになった“風刺の山車”を作り続けています。

今年は、約2か月の制作期間で12台の山車を作り上げたのだそうです。

毎年のカーニバルで、その年、最も象徴的だった事件や出来事を山車で表現してきたティリーさん。

その意義について、次のように話しました。

「ドイツのカーニバルは長い伝統があります。強い道徳意識や表現の規制で人々が縛られていた時代でも、カーニバルの時だけはタブーや束縛を受けることなく、自由に自分の考えを述べることが許されていました。民衆が権力者や教会などをからかって、息抜きをする。ユーモアと皮肉に満ちた精神がカーニバルのおもしろさです」

タブーはない

これまでも政治、環境問題、軍事、宗教など、何事もタブー視せず、風刺してきたティリーさん。今年は、やはりロシアによるウクライナへの軍事侵攻が最大のテーマとなりました。

プーチン大統領は、これまでも何度もウクライナや欧米を、ナチス・ドイツになぞらえて強く批判してきました。

こうした主張に対して、ティリーさんは、プーチン大統領の“風刺の山車”を通して、メッセージを伝えたかったのだといいます。

「私は起きたことをただありのままに描くのではなく、それについてメッセージを伝えたいのです。私のつくる山車が人々の感情に訴えかけて、考えるきっかけになってほしいのです」

ユーモアを忘れずに

山車を作る上で一番苦労するのは、アイデアを出すことなのだそう。

アイデアを振り絞るため、数え切れないほどのイラストが描かれたノートも見せてくれました。

アイデアが浮かんでも、山車になるのはごくわずか

アイデアを出し、それを山車の形にできるのか、何度も思いをめぐらしますが、時には、何も思い浮かばず絶望することもあるといいます。

その上で、アイデアが固まったらチームのメンバーと制作に取りかかります。木材や針金を使って枠組みを作ったあと、紙を貼って色を塗り、数日かけて完成させます。

枠組みの表面に紙を貼っていく作業

山車のテーマは、現在進行形のものであることが大切だというティリーさん。

パレードの直前まで、世界で何が起きているのかを見極めるため、制作はいつもギリギリになってしまうのだそうです。

取材の最後、ティリーさんは、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、希望を失いそうになる中にあっても、ユーモアを忘れず、平和への思いを持ち続けたいと考えていると話しました。

ジャック・ティリーさん

「私の一番の願いは、人間がみな家族であることに気づき、互いに手を取り合う世界になること。これは美しい夢のような話で、現実はそれと逆の方向に進んでいます。しかし私は、人間がいつかそのことを理解できるという希望を持っています。また、ユーモアは不安を和らげてくれるので、カーニバルは毎年欠かせないものなんです。私はこの仕事が大好きです。未来への信念をもって、多くの人の心に響く山車を作っていきたいです」

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